2011年11月アーカイブ
入れ歯を拒否し続けた65歳女性の話
先日、こんな方が来院されました。
朝起きると歯周病で歯が1本、また1本と自然に抜けている状態にも関わらず、10年近く歯医者から遠ざかっていたものの、今回の歯の痛みは限界を超えるレベルだったということで、仕方なく来院したとのことでした。
その方のご主人は比較的熱心に堀歯科医院に通院されてはメンテナンスを受けられていたのですが、熱心に歯磨きをしている割には、クラウン・ブリッジの下からカリエスが進行する傾向がありました。
そんなある日、その方のご夫人が、歯に痛みがあるとのことで、連絡をいただいたのが、先にお話した65歳の女性だったわけです。
その女性のお口を拝見すると、義歯のクラスプで抑えている歯で、より咬みやすい歯から順番に抜け落ちて現在に至ることが分かりました。
また現在痛んでいる歯はピンセットで引っ張っても抜けるのではないかというくらい"ぷらぷら"の状態でした。
歯肉は真っ赤にただれ、歯肉溝からは、排膿が続いていました。
これでは、食事がままならないだけでなく、排膿によるお口の不快感が24時間、365日続いたはずです。
ただ、それらの問題はそのご婦人個人の問題に過ぎませんが、本当の問題はそんなことではありません。
もっとも重大な問題は、ご婦人の歯周病による咀嚼障害が、家族の健康に悪影響を与えるということなのです!
詳しく説明すると、毎日食事の準備をする方の歯の状態が悪いと、自然と自分が無理なく食べることができるものを用意するようになります。
それはすなわち、毎日の食事は、『咬まなくても味がしっかりあって旨みを感じるものであり、舌と上顎で潰して食べることができるもの』に自然と推移しているはずです。
そうなると、塩分・糖分・脂肪をふんだんに使用した軟食になりますから、満腹中枢が働く前に、食べ過ぎてしまうことになるので、お子さんからご主人、おじいちゃん・おばあちゃんまで、家族全員が肥満、高血圧、糖尿病といった病気を抱えた状態となります。
また、ご主人が歯磨きを頑張っている割には、クラウン・ブリッジの下の歯根部分が虫歯になりやすいのもこの軟食傾向が原因の一つと考えられます。
柔らかい食品は歯に残りやすいので、虫歯になりやすいのです。
そういう意味では、毎日の食事を作るお母さんのお口の状態が悪いだけで、家族の将来は暗いものとなると考えれば、これほど恐ろしいものはないと言えるかと思います。
家族をメタボリックシンドロームから守るためにも、お母さんは一刻も早く咀嚼障害を克服しなくてはなりませんし、歯医者嫌いも当然のことながら克服しなくてはならないです。
このような方のインプラントはお断り!
左右の両側臼歯にインプラント治療を行う方で、片側ずつ治療を希望される方が少なくありません。
両側を同時に行うと、同時に左右の臼歯で噛める時期がくるので、噛み合わせの中心をコントロールしやすくなります。
しかしながら、片側ずつ治療を進める場合、顎位が先に治療を行った方にシフトするために、そのずれた位置で噛み合わせを構築することになります。
ということはすなわち、臼歯部のインプラントで顎位や咬み合わせを安定させ、前方の天然歯を守るということができなくなるのです。
さらに言えば、先にインプラント治療を行った側から、その後行った側に、噛み合わせは少しずつずれて行くので、左右的に安定しない噛み合わせになるということもできます。
噛み合わせが安定しない方では、インプラントもご自分の歯も咬合力のコントロールがうまくいかないので、またどこかの歯がダメになります。
歯とインプラントでは、歯槽骨に埋め込まれているインプラントの方が、大きな咬合力に耐えうるので、インプラントよりも先にご自分の歯がなくなるのです。
したがって、長期を見据えた治療計画に基づいていなければ、インプラント治療を受けたものの、以前と変わらず、ご自分の歯を定期的に失う結果となります。
堀歯科医院では、一度インプラント治療を受けた方が、再度他の部位でも治療を受けることがないようにすることを診療のポリシー、あるいは当院の存在意義と考えているので、両側に渡ってご自分の歯がないのに、片側だけインプラント治療を希望される方は、治療をお断りする場合があります。
私は、当院でインプラント治療を受けられた方は、可能な限り再治療がない状態を維持したいと考えています。
そのためには、咬み合わせを生涯に渡り、安定した状態を維持するということが必要なのです。
インプラントの仮歯の長期使用について
インプラントの仮歯を長期間に亘って使用している方が知っておいた方が良い知識があります。
それは、インプラントの仮歯はすり減る量が尋常ではないので、噛み合わせがあっという間に崩れるということです。
そもそもあなたが、自分の歯を失い、インプラント治療を受けているのも、少なからず、歯列不正に起因する噛み合わせ不良、過剰な咬合力が関与しています。
素人判断で、歯科医師が噛み合わせをコントロールしにくい状況をわざわざ作り出すべきではありません。
また、臼歯部であれば、両側の歯を喪失してから、インプラント外来に来られることが多いのですが、片側の治療を済ませてから、もう片方も治療を進めるケースがとても多いです。
しかし、その様な場合、片噛みの状態で被せの高さや形態を決定することになるので、高額なインプラント治療が長期に亘って安定した状態を維持することは困難です。
やはり、左右のインプラント治療を受けることで、噛み合わせが左右で安定した状態になります。
そこまで行ってはじめて、最終的な噛み合わせの位置を決定するべきです。
インプラント治療が長期間に安定し、その後インプラント治療を受けることがないようにすることは、患者さまと私たちの共通の願いなのです。