2014年1月アーカイブ
高齢者における前歯配列のポイント
高齢者における前歯配列のポイント
高齢者における前歯配列のポイントは、成人に比べ上顎前歯を下方に位置させること、大きく笑った時に歯肉の見える量をコントロールして、患者の顔に合う美しさを提供することである。
年齢 上顎中切歯の見える量(ミリ) 下顎中切歯の見える量(ミリ)
15 5 ‐
30代未満 3.4 0.5
30代 1.6 0.8
40代 1.0 2
50代 0.5 2.5
60代 0 3
安静時に1-2ミリ露出させる。(Landa)
中切歯が最低2ミリ露出する必要がある。(Wazzan)
上顎中切歯の排列位置は、上顎前歯部高径の1/2+被蓋量2ミリといわれている。
しかし、実際の高齢者の安静時のリップラインは、それよりも下垂していて、60代では上顎中切歯がまったくみえなくなる。
この点を考慮してワックスデンチャー試適にあたることが望ましい。
(阿部次郎の総義歯難症例 誰もが知りたい臨床の真実 より)
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一般に、加齢とともに上顎前歯が口唇から見える量は減少します。
またそれとともに、下顎前歯が口唇から見える量が増加します。
義歯の安定を維持した状態で、口元を若く見せる配慮をする必要があります。
インプラント義歯でも発想は全く同じです。
義歯が上手な歯科医師は、インプラント義歯も上手に製作すると思います。
インプラントの勉強も重要ですが、義歯の勉強も必要なのです。
根分岐部病変はなぜ予後が悪いか。
歯の周囲には輪状線維が走行しているが、根分岐部には走行していない。
そのため、根分岐部を治療しても歯肉を補強する弾力性が弱く、根分岐部が肉芽で覆われているため、プロービング時にはいつも出血を認める。
(長期症例から学ぼう 歯周治療の臨床ポイント より)
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大臼歯の根分岐部病変は、プラークコントロールが不完全になりやすく、歯周病学的には予後が悪いといわれています。
歯の周囲には歯をその位置で支える靭帯が存在し、歯肉を補強する働きがあります。
そのような靭帯が根分岐部には存在しないので、プラークに対する歯肉の抵抗性が低いものと思われます。
そうなると、根分岐部豹変を有する歯の場合、程度によっては早期に抜歯し、インプラント治療を行う方が結果が良い場合もあります。
義歯難症例とも関連する"生体補償"とは?
生体補償とは、「口腔内に不自然な空間が生まれると、その空間を可動粘膜組織が埋めようとする現象」である。
その源は、一日に約2000回行われる嚥下時の陰圧であり、この陰圧によって口腔可動組織が欠損空間に向かって引き込まれる作用のことをいう。
下顎遊離端部で顕著であり、顎堤吸収を伴う欠損空間の縮小がみられるときには、頬筋の付着部が内側に位置するほど、顎堤吸収が進んだ、いわゆる強い萎縮がみられるものである。
このような症状を引き起こす原因として、
1.下顎の歯肉頬移行部の可動量が上顎に比べて2-3倍であること、
2.上顎骨に頬筋がほぼ垂直に付着しているのに対して、下顎骨の形態が内傾斜した状態で頬筋の付着が剥がれやすく、内側へ移動しやすい形態を呈していること、
3.またレトモラーパッドの頬側付け根に小帯様のスジが存在すること
が挙げられる。
その代表例が、第二小臼歯までしか補綴しない短縮歯列である。
下顎遊離端欠損部が長期に放置されることにより、著しい顎堤吸収が観察されると同時に、ときには、舌下部の可動組織が増殖した「複舌」が観察されることもある。
欠損部は生体の可動性軟組織によって埋められ、生体の一部欠損を完全に補綴してしまうため、Dr阿部次郎は、このような生体反応を生体補償と名付けた。
そして一度このような状態を呈すると、部分床義歯のような人口の大型補綴物は装着できない。
欠損部に侵入した可動粘膜をかき分けて二重に補綴することになるからである。
・解剖学において筋の付着は移動しないと考えられている。
また、広い義歯床面積を獲得し、咀嚼能力の向上を目的とするコンパウンド印象法では、頬側の義歯床縁を頬筋付着部の下顎骨外斜線まで、さらにはその位置を超えた位置に設定するべきであると教えている。
そして、部分床義歯の下顎遊離端症例においても総義歯と同様に扱われている。
しかし、短縮歯列症例のように大臼歯の欠損を長期に放置した症例では、義歯床縁を頬側に広げようとしてもほとんど広がらない。
つまり、頬筋が歯槽頂部に付着している。
あるいは歯槽頂を超えて顎堤の舌側に付着していると考えられ、頬筋付着の内側移動が疑われる。
宮尾の研究によれば、頬筋は無歯の歯槽頂から4.1ミリ頬側に位置していて、顎堤吸収が進むにつれ、付着部は相対的に歯槽頂付近に移動する。
あくまで平均的な値であることから、人によっては、より歯槽頂付近に位置している場合がある。
そのようなケースでは、顎堤吸収に伴い、付着は舌側に存在することになる。
また、近年、大トカゲの研究などにより、筋の付着が剥がれて移動する可能性が示唆されているのも興味深い。
Dr阿部次郎は上記の理由と30年の臨床経験から、生体補償には、この筋の付着の移動を伴う現象と、付着の移動を伴わない「口腔容積の萎縮」の2種類があると考えている。
特に、頬筋の付着が内側に移動したケースでは、義歯床の頬側への大きな拡大が不可能になることを主張したい。
このようなケースでは、さらに欠損が進行した際に大型補綴物による義歯床拡大が望めず、十分な咀嚼機能の改善が難しくなる。
(阿部次郎の総義歯難症例 誰もが知りたい臨床の真実 より)
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下顎大臼歯を失い、義歯を入れないでいる方は少なくありません。
そのような状態で長期間経過すると、その隙間を埋めるかのように可動性組織が入り込んでしまうため、製作する義歯が小さくなりやすく、それゆえ義歯を安定させにくいことが分かりました。
義歯が安定しにくい状態ということもあり、その時点でインプラントを希望される方もいます。
ところが、インプラントの近くに可動性組織が存在すると、インプラントの辺縁からプラークが進入しやすい状態を惹起するため、インプラントの長期安定にはあまり好ましい状態ではありません。
やはり将来的にインプラントを視野に入れる可能性がある方でも、臼歯部の義歯は入れておいた方が無難であるといえます。
67%のインプラントで、プロービング値は正確性に欠く。
・プロービング診査の正確性についてSerinoらは、インプラント周囲炎と診断された患者29名の89本のインプラントを対象とし、上部構造除去前にプロービングを行い、さらにそのプロービング値の正当性を外科処置時に測定、評価している。
その結果、67%のインプラントで上部構造除去前後のプロービング値に有意差が認められ、また上部構造除去後のプロービング値はインプラント周囲の骨吸収量と相関性があった。
(参考文献)
Serino G, Turri A, Lang NP. Probing at implants with peri-implantatis and its relation to clinical paeri-implant bone loss. Clin Oral Implants Res. 2013 ; 24(1) : 91-95.
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インプラント幅径に対して、歯冠部は常に外側に凸の形態をしているので、インプラント周囲炎の進行の目安とされるポケットプロービングも正確性に欠きます。
そのような意味では、上部構造を除去した上でのプロービングを行う方が良いということになります。
ところが、インプラントの埋入深度が深いケースでは、定期的に上部構造を除去すること自体、歯槽骨を喪失する結果になります。
そうなると、正解は、審美性の問題が少ない部位では、インプラントも必要以上には深く埋入せず、清掃性のよい上部形態にすることが必要ということになると考えています。
インプラント対インプラントの咬み合わせは要注意
対合関係がインプラント対インプラントの場合は、対合歯が天然歯の場合に比較して前装部のチッピングリスクが7倍、修理あるいは再製作が必要な破折リスクが13倍と、大幅に危険性が高まる。
(参考文献)
Kinsel Rp, Lin D. Restrospective analysis of porcelain failures of metal ceramic crowns and fixed partial dentures supported by 729 implants in 152 patients : patient-specific and implant-specific predictors of cermic failure. J Prosthet Dent 2009 ; 101(6) : 388-394.
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上下で、インプラント対インプラントの咬み合わせが存在する部位では特に、定期的に咬合調整を行い、補綴物が破損するリスクを少しでも減らす必要があるということでしょう。