2014年3月アーカイブ
上下顎で、4本以上残存歯数が違う人の共通点
上下顎の歯数差も喪失リスクとして捉えておくべきだと思っている。
当たり前だが、少数歯欠損歯列で上下顎に大きく歯数差が生まれることはない。
1歯欠損から1歯残存までの1865人中、90%は上下歯数差が3歯以内だった (1670/1865=90%) 。
歯数差が5歯以上離れるのは診療室の環境にもよるだろうが、5%以内だろう。
しかし、現在歯数が20歯の症例では4歯以上差に広がる症例は4割を超える。
その歯数差の大きい症例は、その後の喪失速度が速く、時に通常の5-6倍の喪失速度に達することもまれではない。
臨床ではこの上下歯数差は喪失のリスクの診断項目として加えておくべきであろう。
(日本歯科医師会雑誌 vol.33 2014年3月号)
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上下で歯の残存歯数が大きく異なっている方は、入れ歯でお困りの方が多いように感じます。
そのような方のお口を拝見すると、元々歯列不正があって、咬み合わせに左右差がある場合や、咬合力が過大な場合、歯ぎしり・食いしばりの程度が重い場合などが、その原因となっていると推測できます。
歯のないところにインプラント治療を行うことはさほど難しいことではありませんが、咬み合わせの是正をしたうえで、インプラント治療を行うことは比較的難易度が上がります。
長期にわたって安定したインプラント治療を行うために、マクロな視点を持ちたいものです。
総義歯装着者の下顎骨では、上顎骨の4倍吸収する。
・インプラントオーバーデンチャーの支持として用いられたインプラント体が最も多いのが、上顎骨の質的評価が3と4(26/30中6/30が失敗)であり、上顎骨の量的評価がDとE(20本/30本中5/30が失敗)です。
しかし総義歯を装着した顎骨の吸収量を評価した場合、下顎骨の吸収量はより多い。
Atwoodら(1971年)やTallgrenら(1972年)の方向では、総義歯装着者の上顎骨の吸収量は約0.1ミリ/年とされ、下顎骨では0.4ミリ/年とされています。
総義歯装着者の下顎骨では、上顎骨の4倍吸収するのです。
(参考文献)
Tallgren A. The continuing reduction of the residual alveolar ridges in complete denture wearers : amixed-longitudinal study covering 25 years. J Prosthet Dent 1972 ; 27(2) : 120-132.
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インプラントを行う時期が遅れると、下顎にはインプラント治療の際に、骨移植等の付加的な処置が必要になります。
総義歯を使用していた期間が長い人ほど、骨吸収量が大きくなるからです。
一方、上顎では、下顎よりも増骨が容易であることもあり、骨移植をしないとインプラントができないというケースはほぼありません。
ただし、骨量が不足しているケースでは、インプラントの必要本数が増えます。
保険の入れ歯を入れると歯がなくなる理由
熊野の報告に、臨床応用頻度の高いエーカースクラスプとRPIクラスプを比較した際の有意差を認めることができる。
三次元有限要素法によるエーカースクラスプとRPIクラスプとの力学的解析で比較したもので、垂直荷重における義歯の変位では、両者ともに遠心方向への変位がみられ、遠心変位量は、エーカースモデルでは71.9μm、RPIモデルでは29.0μmが観察され、エーカースモデルがRPIモデルの2倍以上を示した。
沈下量では、近遠心方向よりも変位量が多く、エーカースモデルで97.7μm、RPIモデルで34.2μmとなり、差は約3倍となった。
支台歯の変位量については、荷重時の支台歯は、エーカースモデルで遠心に変位、RPIモデルで近心に変位がみられ、変位量はエーカースモデルにおいて遠心に11.7μm、RPIモデルで近心に5.0μmとなり、その差は約2倍を示した。
沈下量はエーカースモデルで25.8μm、RPIモデルで10.8μmとなり、2倍以上の変位量を示した。
また舌側方向荷重、頬側方向荷重においても、エーカースモデルがRPIモデルよりも大きな変位量を示したと報告している。
この報告から、エーカースクラスプとRPIクラスプにおける義歯・支台歯の変位量の比較結果では、RPIクラスプが有意に変位量が少なく、臨床応用に際してはRPIクラスプが有効と考えられる。
(参考文献)
熊野弘一 : 三次元有限要素法によるエーカースクラスプとRPIクラスプとの力学的解析. 愛院大歯誌, 44(1) : 71-83, 2006.
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保険の義歯で多用されるクラスプ(いわゆる"入れ歯のばね")が、エーカースクラスプ、自費の義歯で多用されるクラスプの一つがRPIクラスプです。
三次元有限要素法で解析した結果、エーカースクラスプは、RPIクラスプと比較して、義歯使用時の歯牙の揺さぶり、および沈下量が、2-3倍大きいという結果が得られました。
これが、保険義歯を使用していると、バネをかけた歯が順になくなる理由の一つといえるでしょう。
自費義歯の優位性の一つに、バネをかけた歯の負荷を小さくすることができるという点にあります。
もっとも、通常ばねをかける必要がないインプラントは、自費義歯よりも現在残っている歯の保存には効果があります。
それゆえ私は、インプラント>自費義歯>保険義歯の順で、患者さまのお口の健康に寄与できると考えています。
コーヌスタイプのインプラント義歯
五十嵐はさまざまな設計の遊離端義歯において、床に加わる咬合力が支台歯と欠損部顎堤へどのような割合で配分されるかを口腔内で測定した結果、有床部で負担される咬合力の割合は、
ワイヤークラスプ 64%
エーカースクラスプ 39%
コーヌスコローネ 13%であったと報告している。
(参考文献)
五十嵐順正 : パーシャルデンチャーの利点を生かすための支台装置(維持装置). 歯科医療, 6 (1) : 35-46,1992.
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ワイヤークラスプとは、直径1ミリ程度のワイヤーを屈曲した入れ歯のバネ、エーカースクラスプとは、金属を鋳造し製作した入れ歯のバネ、ーヌスコローネとは、着脱可能なブリッジのような装置で、装置を安定させるためのバネはないものです。
今回のデータをもとに考えると、ワイヤークラスプを使用した義歯に比べ、エーカースクラスプを使用した義歯は、粘膜部での咬合圧負担量が大きいために、単純に咬んで痛みが発生しやすいといえます。
また個人的な臨床イメージですが、バネが緩みやすく、バネがかかっている歯が増加する傾向にあるのは、ワイヤークラスプではなかろうかということです。
そしてももう一つは、コーヌスクローネの粘膜部での咬合圧負担がわずか13%ということを考えると、『コーヌスクローネが設計可能な装置であるなら、そもそもブリッジが可能だ。ブリッジが適当ではないからといって、コーヌスクローネを選択するのは誤りである。』と主張する歯科医師が存在するのも、納得させられるデータです。
インプラントを支台にしたコーヌスクローネタイプの義歯を是とする歯科医師もいますが、この治療方針のメリットは、清掃性が良いことくらいではないかと考えています。
『何かあった場合に対処がしやすい』とも聞きますが、力学的に何かしらの問題があった場合には、治療予後は近い将来別な問題を抱えることが少なくないのではなかろうかと危惧しています。
またこのコーヌスクローネタイプのインプラント義歯は、製作費用が比較的高額であるために、都市部の富裕層向けの治療ともいえるかもしれません。
下顎の部分入れ歯は、総咬合力が10%しか回復しない。
第一・第二大臼歯欠損の遊離端症例の短縮歯列では、単純に正常歯列の咬合力を100とした場合、歯牙-粘膜負担義歯で約50%、粘膜負担義歯で約33%に減衰するといわれ、部分入れ歯装着後の総咬合力の回復度については、症例間で有意差が認められるものの、上顎で約45%、下顎で約10%の増加を示した。
(参考文献)
松本誠 : 咬合の再構成と咬合治療. 口病誌. 60 : 429-439,1993.
袖山亜紀 : 短縮歯列の補綴処置効果における咬合力の重心移動. 口病誌, 63 : 599-619,1996.
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大臼歯を2本失い、部分入れ歯を装着するような状態になると、咬合力が70%低下するそうです。
また、義歯を入れても、総咬合力の回復度合いは、下顎でたったの10%程度と報告されています。
上顎よりも下顎の入れ歯で苦労されている方が多いのも、このデータを元に考えると納得できますね。
そのような意味でも、やはり奥歯には義歯よりもインプラントが適当といえるでしょう。
ワーファリン服用者では、PT-INR値が3.0未満で、インプラント手術可能
・抜歯に関してはガイドラインがあり、日本人の場合、ワルファリン服用患者では血液凝固検査のPT-INRの値が3.0までなら、ワルファリンを中止せずに抜歯が可能である。
抗血小板薬に関しても、ワルファリン同様に継続下に抜歯可能である。
しかし、新規抗凝固薬のダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)については継続下での抜歯の安全性に関する報告が少なく、ガイドラインにも記載されていないので注意する。
・欧米では、インプラント手術をする場合、PT-INR値が3.0未満なら単独埋入が、2.5未満なら複数本埋入が可能との専門家の意見がある。
Bacciらは、PT-INR値が1.8-2.98のワルファリン療法患者とワルファリンを服用していないコントロール群と比較した結果、インプラント手術の後出血の発生率に統計学的有意差がなかったと報告している。
(日本歯科評論 2013年12月号)