なぜ歯周病は重度化するか?
歯周病患者の20%は予後が悪く、またそもそも歯周病を治療せず放置すると8%の人々は急速に歯周病が進行し40代で無歯顎になったという驚くべき報告もある。
さらにスウェーデンでの疫学調査では、過去30年間の口腔衛生思想の普及と浸透により、歯肉炎の患者や軽度歯周炎の患者が大きく減った一方、中等度や重度歯周炎の患者の割合は変わらなかったという。
これらの報告から導けることは、重症化が運命づけられている歯周病患者がいるということである。
では、なぜそのような患者が存在するのだろうか?
近年の研究結果を簡潔に統合すると歯周病の進行は以下のようになる。
1)歯周ポケットの奥深くに存在しているP.g菌など嫌気性菌の産生する内毒素、リポポリサッカライド(LPS)に惹起され宿主の免疫応答が始まる。
2)免疫応答で好中球、マクロファージはこれらの細菌を貪食により排除しようとするが、その過程で炎症が生じ、これらの細胞からIL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインが放出される。
3)炎症性サイトカインは線維芽細胞やリンパ球に作用すると、これらから破骨細胞分化因子(RANKL)が放出される。
4)RANKLが破骨細胞のRANKという受容体に結合すると、破骨細胞の成熟化が進む。
このような連鎖により、進行した歯周病にみられる歯槽骨の吸収に至るのである。
この中で歯周病が重症化する患者というのは、LPSに対し炎症性サイトカインが過剰に放出される個体であり、近年"Periodontal Hyper Responder"とも呼ばれる。
(参考文献)
Hirschfeld, I., Wasserman, B.: A long-term survey of tooth loss in 600 treated periodontal patients. J. Periodontol., 49 : 225-237,1978.
Loe, H., Anerud, A.,Boysen, H., Morrison, E.: Natural history of periodontal disease in man. Rapid, moderate and no loss of attachment in Sri Lankan laborers 14 to 46 years of age. J.Clin. Periodontol., 13 : 431-440, 1986.
日本歯科医師会雑誌 2014 VOL.67 NO4
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歯周病が重症化しやすい患者さんは、さほどお口の清掃性が悪いわけではないのに、歯を失うスピードが早いという印象があります。
そのような患者さんであれば、同じようにインプラント治療を行っても、そうではない場合よりも、インプラントを失うリスクが高いです。
そのため、咬み合わせのバランス、プラークコントロール等を、より厳密にコントロールしていかなくてはなりません。
インプラント治療が一旦は終了しても、その後定期的なメンテンスが必要となるのはそのような理由からです。