2014年12月アーカイブ
上顎洞の形態差と上顎洞粘膜穿孔のリスクの関係
2001年、Choらは上顎洞の内壁と外壁のなす角度による上顎洞粘膜穿孔の発生率を報告した。
角度が60度以上の場合、穿孔は認められなかったが、30度以下になると、62.5%に穿孔を認めたと報告している。
粘膜の剥離が内壁まで確実に行われないと、造成骨への血液供給がなされないため、術後の骨吸収を引き起こすことになる。
したがって、穿孔させずに粘膜剥離を行うことが非常に重要である。
よって、術前にCTで角度を把握し、穿孔を起こさないよう丁寧な処置をシュミュレーションしておくことが、臨床上、不可欠となる。
もし穿孔した場合は、その部位によって修復の方法が異なるので、穿孔部位の正確な位置確認が必要となる。
(参考文献)
Cho SC, et al: Influence of anatomy on Xchneiderian membrane perforations during sinus elevation surgery : three-ddimensional analysis. Pract Proced Aestht Dent 13: 160-163,2001.
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同じように上顎臼歯部に増骨するにもしても、上顎洞粘膜の穿孔のリスクが、上顎洞の内壁と外壁とのなす角度の大きさによって変化するというエビデンスです。
難しいケースであればあるほど、リスクを正確に把握して慎重に事を進めなくてはならないと考えさせられました。
ニッケルチタン製ロータリーファイルの光と影
Topcuogluらの最新の論文によると、手用ステンレススティール製ファイル、ニッケルチタン製ロータリーファイルのいずれも根尖部に亀裂を発生する例が見られ、ニッケルチタン製ロータリーファイル群では、再治療による追加形成で亀裂の伸展が認められたという。
Liuらは手用ファイル(Flex Kファイル)とニッケルチタン製ロータリーファイル(K3、ProTaper)で異なった作業長による根管形成後に根尖に亀裂、象牙質の剥離の発生を比較した研究報告を行っている。
その結論は、
1.ニッケルチタン製ロータリーファイルの使用は手用ファイルより根尖部の象牙質を破壊し、欠損を引き起こしやすい。
2.作業長は、根尖孔の手前に設定して根管形成した方が象牙質の欠損を減少させる。
と述べている。
さらに、Liuらは、3つのニッケルチタン製のシングルファイルシステム、Reciproc、OneShape、SAF、およびロータリーファイルProTaperを使用した根管形成後の微小亀裂の発生数を比較した研究を行っており、ReciprocとSAFでの根管形成は、ProtaperとOneShapeに比べて亀裂の発生は有意に少なかったという。
(参考文献)
Topcuoglu HS, Duzgun S, Kesim B, Tuncay O : Incidense of apical crack initiation and propagation during the removal of root canal fillingmaterial with ProTaper and Mtwo rotary nickel-titanium retreatment instruments and hand files. J Endod, 40(7) : 1009-1012,2014.
Liu R, Kaiwar A, Shemesh H, Wesselink PR, Hou B, Wu MK : Incidense of apical rooot cracks and apical dentinal detachments after canal preparation lengths. J Endod, 39(1) : 129-134,2013.
Liu R, Hou BX, Wesselink PR, Wu MK, Shemesh H : The incidense of root microcracks caused by 3 different single-file systems versus the ProTaper System. J Endod, 39(8) : 1054-1056,2013.
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歯内療法に根管形成はなくてはならないものですが、その根管形成時に根尖部にマイクロクラックが入ることがあれば、その歯の予後は不良になります。
現在は、効率を重視するために、ニッケルチタン製ロータリーファイルが根管形成の"主役"のような印象があります。
しかしながら、今回紹介する研究論文では、ニッケルチタン製ロータリーファイルの方が歯内療法時に根尖部にマイクロクラックを発生しやすいということが明らかになりました。
もちろん、『作業長は、根尖孔の手前に設定して根管形成した方が象牙質の欠損を減少させる。』というのは、容易に想像できる内容です。
また、使用するシステムによっても、マイクロクラックの発生リスクが変化するようですから、ReciprocとSAFを選択するのもいいかもしれません。
ただし、この手の研究報告は、それぞれの業者が自分に都合の良いデータを出してくるのが常なので、もう少し慎重に使用するシステムを選択する必要があるといえます。
個人的には、効率が悪かろうとまだ手用ファイルを使用し、然るべきタイミングで、ニッケルチタン製ロータリーファイルに切り替えたいと考えています。
歯内療法をしっかりと行わず、インプラントを勧めることはあってはならないことですが、歯内療法をしっかりと行うことにより、逆にその歯の予後が悪くなる場合があること、マイクロクラックが発生しやすい歯種では、インプラントも視野に入れた治療計画を立案することが、これからは重要となるかと思います。
外科用テンプレートを用いた場合の精度誤差
外科用テンプレートを用いた場合の精度については埋入位置の誤差の平均は開始点1.26ミリ、根尖側1.97ミリ、角度の誤差5.42度と報告されている。
また術中の合併症やインシデントの発生率は4.6%と報告されている。
(参考文献)
CID黒江敏史 2009 Review (3論文の平均 :Ozan,2009.Ruppin,2008. Di Giacomo,2005.)
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外科用テンプレートを固定し、実際のインプラント埋入を行う際には、通常麻酔が必要となります。
粘膜に麻酔を行うと、その部分が膨らむので、その時点で外科用テンプレートは浮き上がることになります。
麻酔時の粘膜の膨らみの程度と粘膜の状態の回復時間は、その方の粘膜の厚み等によりまちまちであるために、具体的に何分時間をおけば十分なのかについてはまだ明らかになっておりません。
また時間をおくと当然のことながら、麻酔が醒めてきますから、長時間おけばよいというものではありません。
難しい問題です。
オールオンフォーは清掃性が悪い術式である。
・昨今、治療期間の短縮や外科的侵襲を最小限とする目的から、既存骨に意図的にインプラントを傾斜埋入する術式が紹介されているが、インプラントに支持された補綴物周囲は非常に清掃しにくい環境となることから予後に不安を残す処置となる。
よって、歯槽骨の欠損を伴う部位にインプラントを埋入する際には、既存骨内に埋入することを優先するのではなく、修復の計画から見て形態的・力学的に好ましいインプラントの位置を三次元的に推定し、可能な限りその位置に埋入するよう心掛けるべきである。
(ザ・クリニカルデンティストリー 成功に導くためのエッセンス より)
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私がオールオンフォーという術式を好まない理由は、このオールオンフォーではインプラントの傾斜埋入がほぼ必須だからです。
インプラントを傾斜埋入すると、垂直埋入と比較して清掃性が悪いために、インプラントの長期安定に不安があるからです。
また、インプラントに対して、40度まで角度を自由に変えることができるアバットメントは、N社が特許を持っており、他社の多くは17度までの角度付きアバットメントしかありません。
(N社の40°角度付きアバットメントの特許がもう切れているはずですが、類似品が出たとの報告は私はまだ聞いておりません。
既存骨に傾斜埋入を考える場合、40度の角度付アバットメントは大変魅力的というか、シビアなケースではなくてはならないものとなります。)
また、オールオンフォーは、発音障害や異物感を減らすために、上部構造体を歯肉に密着させるために、ますます清掃性が悪くなります。
さらに、N社のインプラントの表面性状は、タイユナイトというものなのですが、このタイユナイトは他の表面性状と比較して、インプラント周囲炎になりやすいという研究報告があるのも、私がオールオンフォーを"是"としない理由の一つになります。
最先端の再生療法の材料、BMP-2に発ガン性!
・BMP2を含むコラーゲンスポンジの適用が、抜歯後の顎堤保存と上顎洞底拳上に有効であることが報告されている。
最近、整外科領域でBMPを大量に使用した症例において、悪性腫瘍の発現頻度の増加が報告されている。
このことから、今後はBMPの歯科での臨床応用は困難状況になりつつあると考えられる。
(参考文献)
Carragee EJ, Chu G, Rohatgi R, Hurwitz EL, Weiner BK, Yoon ST, Comer G, Kopjar B : Cancer risk after use of recombinant bone morphogenetic protein-2 for spinal arthrodesis. Journal of Bone and Joint Surgery. American Volume, 958179 : 1537-1544, 2013.
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歯科の最先端の再生療法の分野では、BMP-2は最もその効果が高いもののうちの一つだと聞きます。
今回の研究方向により、BMP-2を使用した再生療法は、ガンになるリスクが上昇することが明らかになりました。
いくら歯槽骨が再生しても、ガンになるようでは使用できません。
「新しい材料はすぐに飛びつくべきではない。」ということの一例といえるでしょう。
やはり確実なのは、材料に頼らず、基本的な手技を確実に行うことで、確実なインプラント治療を追求することが重要であるといえるでしょう。
フラップレス・サージェリーは、最先端医療なのか。
・フラップレスサージェリーを積極的に取り入れている歯科医師は、痛みも少なく、出血も少ないのだから、「誰よりも患者本人のためになっているではないか」というかもしれない。
確かに、CTを用いて三次元的な顎骨形態を充分に把握したうえで、将来の口腔内、全身的な状態の変化を考慮したうえで、治療計画の立場に基づいて実施されるならば、フラップレス・サージェリーでも問題ない症例はあると思われる。
しかしながら、流行だから、先進的だから、あるいは患者獲得に有利だから、といった不純な思いが先に立ち、現実にはインプラントが骨内に収まっていない、頬側に大きく露出している、あるいは骨面への埋入深さが不適切といった症例がみられるのも事実だ。
そもそも、インプラントの手術によって痛みなどの症状が続くのは、せいぜい2-3日程度のことで、インプラント埋入手術後、患者の7割は帰宅後に鎮痛剤を追加服用していないというデータもある。
そのわずか2-3日の問題を回避するために、不動粘膜を無視してフラップレス・サージェリーを行うことで、場合によっては患者の苦しみは一生続く。
どちらに重きを置くべきか、医療の本質を考えれば、おのずと答えは出ているといえるだろう。
(埋み火 小宮山弥太郎 より)
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私も小宮山先生の考えに同感です。
近年、フラップレス・サージェーリー、ガイド・サージェリーが最先端インプラント治療のように謳っている歯科医師もいますが、得られるものを考えれば、従来のインプラント手術で十分ではないかと考えています。
インプラント手術は、「何となく、怖い。」あるいは「痛いのでは?」と考えている患者さんも少なくありませんが、実際は、臭いや味の不快感のある下顎の親知らずの抜歯の方が痛みや腫れが大きいことの方が多いです。
インプラント失敗に抗うつ剤が関係
・インプラント失敗に抗うつ剤が関係
抗うつ剤として広く用いられている選択的セロトニン受容体阻害剤(SSRls)が、オッセオインテグレーションの失敗、予後不良に関連する。
国際歯科医学会とアメリカ歯科医学会がカナダ・McGill大学らの実施したコホート研究の結果に基づき、9月3日に警告した。
2007年から13年にかけてインプラント治療を受けた490人(916本)のうち、51人(94本)がSSRlsを処方されていた。
SSRls処方群では失敗率が10.6%であったのに対して、非処方群では4.6%だった。
同研究では、インプラントの失敗をもたらすその他のリスク要因として、インプラントの径(4ミリ以下)、骨の増大、喫煙なども挙げた。
(アポロニア21 2014年 11月号)
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歯がない咬めない状態が長く続くと、精神的に不安定になる方がいます。
そのような状態で精神科を受診すると、抗うつ剤を処方される場合があります。
そのような方の場合、咬めない状態から咬める状態に変わった時点で、服用する抗うつ剤を減らす必要があります。
また、咬めない状態で受診するべき診療科は、精神科ではなく歯科だったかもしれません。
日本の医療の問題点は、臓器ごとに病気を診査・診断してしまうことです。
患者さんの全体を見て、的確な治療を各科で行いたいものです。