2015年1月アーカイブ
X線所見で正常でも、約26%には炎症が認められた。
根管充填された歯の根尖周囲の骨破壊がX線所見で確認できる場合は病理検査においても常に炎症の存在を確認でき、X線所見が正常な場合はその約74%が病理検査においても常に炎症の存在が認められなかったと報告している。
つまり、正常なX線所見が確認できる場合は、根尖部病変が治癒していると判断できるが、根尖性歯周炎治療後の治癒のX線診断で異常所見が見られないからといって、必ずしも炎症が存在しないことを示すものではない。
(参考文献)
Green TL, Walton RE, Taylor JK, Merrell P. Radiographic and histologic periapical findings of root canel treated teeth in cadaver. Oral Surg Oral Med Oral Patho Oral Radiol Endod. 1997 ; 83(6) : 707-711.
*****
歯科医師は、再度根管治療をするかどうかを判断するうえで、X線診査を行いますが、X線診断で異常所見がみられなくても、約26%には炎症が認められたというエビデンスです。
また他の文献で、『根先病巣は皮質骨に接していないとデンタルX線写真で見えない場合がある。』というエビデンスもあります。
治療の確実性が向上するように、臨床家は日々研鑽をつみたいものです。
インプラント周囲には角化歯肉が必要なのか?
インプラント周囲の角化歯肉の必要性に関して、Schrottらは、口腔衛生状態が良く、定期的なメンテナンスを行っている患者のインプラント周囲の角化歯肉がない(角化歯肉幅が2ミリ以下)場合、インプラント周囲粘膜の舌側のプラーク付着と出血、頬側軟組織の退縮が生じやすいが、頬側軟組織のプラーク付着と出血に関しては、角化粘膜の有無と相関がなかったことを報告している。
このことは、プラークコントロールが容易な頬側面は角化粘膜がなくても周囲粘膜の管理がしやすいが、その結果として退縮を生じやすく、プラークコントロールが難しい舌側には角化歯肉が必要であると考えられる。
(参考文献)
Schrott AR, Jimenez M, Hwang JW, Fiorellini J, Weber HP. Five-year evaluation of the influence of keratinized mucosa on peri-implant soft-tissue health and stability around implants supporting full-arch mandibular fixed prostheses. Clin Oral Implants Res. 2009 ; 20(10) : 1341-1350.
*****
インプラント周囲には、角化歯肉が必要か否かというディスカスションはよく話題に上ります。
角化歯肉がない場合、炎症が起きると歯肉が退縮するので、それ以上炎症が波及しにくく、歯肉退縮が生じるがゆえに、メンテナンスはしやすくなるのではないかと推察できます。
舌側歯肉は相対的に頬側よりも角化歯肉が存在する場合が多く、退縮が生じにくいがゆえに、周囲炎が進行しやすいのかもしれません。
また、インプラントは以前、歯があった場所よりも舌側寄りに埋入することが多いので、特に下顎では頬側よりも舌側が歯ブラシが入りにくい可能性もあります。
そうして考えると、『インプラントは優れた治療法であるということは間違いないにしても、天然歯と全く同じ状態にはならない。』ということになるでしょう。
歯内療法は、今も昔もツールはさほど変わらない。
・Ni-Tiファイルにおいても、Peters OA らはNi-Tiファイルと根管壁は35%程度接触していない部分があることを報告している。
また、感染源除去の重要なステップとして「洗浄」が挙げられる。
現在の歯内療法ではファイルや器具の届かない場所には、次亜塩素酸ナトリウムの非特異的な殺菌作用を期待し、洗浄液をいきわたらせる方法が推奨されている。
しかし、根尖部など感染が長期に及んだ根管壁は軟化して齲蝕象牙質の様相を呈している。
そのような部分が洗浄のみでどこまで感染源を除去できるかは未知数である。
(参考文献)
Peters OA, Laib A, Gohring Tn, Barbakow F. Changes in root canal geometory after preparation assessed by high resolution computed tomography. J Endod 2001 ; 27 : 1-6.
*****
近年、マイクロスコープ等の機器が発達し、かつては見えなかった根管内が現在では見える時代になってきました。
一方で、根管内をきれいにするツールの進歩は、まだまだ遅れています。
そのため、実際の根管治療は従来法とあまり変化はありません。
今回紹介した文献では、根管内を清掃する最新式のNi-TIファイルを使用しようとも、ファイルが根管壁に35%程度接触していない部分があることが分かりました。
齲蝕象牙質はバイオフィルム化していますから、その部分を除去し、可能な限り根管内を洗浄することが肝要と考えられます。
ただし、私たち歯科医師は、費用対効果を充分に考え、根管治療後に補綴治療をするのか、最初からインプラント治療を視野に入れるのか、過去の研究報告をベースに、患者さんとともに一番無駄のない治療計画を立案する必要があるでしょう。
外科用テンプレートの精度はいまだ懸案されている。
・外科用テンプレートは画像上での治療計画を正確に外科手技に反映させることを可能にします。
しかし、その精度に関してはいまだ懸案されています。
・近年では、シュミュレーションソフト上でインプラントの位置情報を取り込んだCAD/CAMによる外科用テンプレートの利用も、臨床では行われ始めています。
利点としては、技工操作がなくなる、フラップレスの埋入にも対応できるなどが挙げられますが、反面、精度や合併症の問題はいまだ十分な検証がなされていません。
現時点での使用に際しては十分な注意が必要です。
(参考文献)
Jung RE,et al: Computer technology applications in surgical implant dentistry: a systematic review. Int J Oral Maxillofac Implants 24 Suppl:92-109,2009,Review.
Hammerle CH, et al: Consensus statements and recommended clinical procedures regarding computer-assisted implant dentistry. Int J Oral Maxillofac Implants24 Suppl: 126-131, 2009,PubMed PMID: 19885440.
*****
外科用テンプレートの精度が、現在は疑問視されているというエビデンスです。
また、精度に問題があるだけでなく、外科用テンプレートを装着した状態でのドリリングは、冷却が不足するリスクがあり、骨壊死を生じるリスクがあります。
外科用テンプレートがドリリング時の冷却を阻害するからです。
それでもタバコを吸いますか?
それでもタバコを吸いますか?
タバコの口腔への影響は歯石沈着、色素沈着、歯周病、口腔癌など多岐にわたります。
タバコに含まれるニコチン、シアン化物などは生体防御のメカニズムを壊し、ニコチンはさらに歯肉の血行障害を誘発し、結果として口腔の免疫能力を下げてしまいます。
喫煙の本数が増えるほど歯周病のリスクが高まります。
喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病のリスクが2-6倍高くなるそうです。
しかも1日の喫煙本数が増えれば増えるほどリスクは増えます。
0本はオッズ比1.00に対して、喫煙者は20本で4.72、30本で5.10、31本以上は5.88とのことです。
(オッズ比とは、ある病気などへのかかりやすさを2つの群で比較して示す統計学的尺度をいいます。
オッズ比が1.00とはある病気へのかかりやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは病気へのかかりやすさがある群でより高いことを意味します。)
(参考文献)
Tomas S.L &Asma S. J Periodontol 71 : 743-751,2000
*****
インプラント治療を希望の方で、喫煙者の方が少なくありません。
理想的には、喫煙をストップしたうえで、インプラント治療に入るべきなのでしょうけれど、実際は喫煙をやめることができないという方も珍しくはありません。
インプラントの表面性状と周囲炎
使用するインプラントの選択に関しては、Revertらはインプラント周囲炎の発症にインプラント表面性状の差は大きな影響を与えないと報告している。
しかし、Quirynenらの報告によると、使用するインプラントの表面性状をminimally rough(機械研磨) moderatory rough(酸処理、サンドブラスト処理) rough(チタンプラズマスプレー処理、HAコーティング)に分けて、インプラント喪失率を比べると、minimally rough(機械研磨) moderatory rough(酸処理、サンドブラスト処理)が2.1%であったのに対して、roughは14.1%と有意に高く、表面
性状の差が歯周炎患者のインプラント成功率を左右することが示唆された。
よって、市販されている中では、moderatory roughに属する表面性状を持ったインプラントの使用が歯周病患者には望ましい。
(参考文献)
Quirynen M, Abarca M, Van Assche N, Nevins M, van Steenberghe D. Impact of supportive periodontal therapy and implant surface roughness on implant outcome in patients with a history of periodontitis. J Clin Periodontol. 2007 ; 34(9) : 805-815.
*****
患者さんの状態によって、使用するインプラントの表面性状も選ぶ必要があるというエビデンスです。
当院では、6社のインプラントシステムを使い分けています。
再生療法と歯列矯正でインプラントを回避する方法
根間距離が狭く叢生を起こしている場合、骨欠損形態は再生療法にとって不利な水平的欠損となる傾向が高く、さらにフラップマネジメントに関しても狭い範囲で少ない体積の軟組織を一時治癒させることが要求されるために、技術的な難易度は高まる。
このような場合は可及的に感染のコントロールを行った後、矯正治療によって根間距離を拡大してから手術を行う方が、より良好な治療結果が期待できる。
ただし、あまり拡大しすぎて、defect angleが35度を超えると、再生には不利になるため注意が必要である。
具体的には骨縁下欠損の深さが3ミリであった場合、欠損の幅が2.1ミリより大きくなると、defect angleは35度を超えることになる。
また、欠損の幅が2ミリの場合、欠損の深さが5ミリであればdefect angleは22度となり、狭い骨欠損で再生療法に良好に反応することが予測される。
(参考文献)
Tsitoura E, Tucker R, Suvan J, Laurell L, Cortellini P, Tonetti M Baseline radiographic defect angle of the intrabony defect as a prognostic indicator in regenerative periodontal surgery with enamel matrix derivative. J Clin Periodontol 2004 ; 31(8) : 643-647.
*****
『垂直的歯槽骨欠損が認められる場合で、そのdefect angleは35度以内であれば、再生療法で良好な結果を得られやすい。』というエビデンスがあります。
歯列矯正のテクニックを使用して根間距離を変化させると、このdefect angleもまた変化することになります。
抜歯してGBR併用のインプラント埋入する手法がある一方で、再生療法と歯列矯正の手法を用いて良好な結果を得られる場合もあります。
後者の方が治療期間が長期化するケースが多いですが、患者さんの価値観に近い治療を行うことができるように、このような治療の引き出しも臨床家は用意しておく必要があるといえます。