2015年2月アーカイブ
臼歯部の固定性上部構造における問題発生率
・臼歯部の固定性上部構造における問題発生率
近心カンチレバーを与えたブリッジタイプのインプラント補綴(26%)
ブリッジタイプのインプラント補綴(7%)
天然歯とインプラントを連結した場合(3%)
1歯欠損に対するインプラント補綴(4%)
1歯に1インプラント(2%)
(参考文献)
藤関雅嗣. インプラント除去に至った長期症例から学ぶ その2. 日本歯科医師会雑誌 2002 ; 55 : 529-536.
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このデータをみて意外だったのは、近心カンチレバーを与えたブリッジのタイプのインプラント補綴にトラブルが多いことです。
インプラント治療で近心カンチレバーを用いるのは、患者さんの予算が十分ではない場合(インプラントの埋入本数を1本分減らすことができるため。)や、前方の天然歯の近心傾斜の程度が大きく、欠損部最前方部位にインプラントを埋入した場合、天然歯の根尖と接触するリスクがある場合などです。
個人的には、補綴トラブルが多いとは感じてはいなかっただけに、興味深いデータです。
また、患者さんの予算の関係で、"1歯に1インプラント"という治療プランは選択しにくいケースが多いですが、中抜きをしたブリッジタイプの1/3以下のトラブル発生率ということを考えれば、臼歯部にはインプラント-インプラント間の距離が取れるのであれば、ブリッジタイプよりも"1歯に1インプラント"が良いということになるでしょう。
さらに、もう一つ意外だったのは、天然歯とインプラントを連結したケースでのトラブルが少なかったことです。
現在、天然歯とインプラントは連結しないのが一般的ですが、条件次第では、長期安定する方法もあるのかもしれません。
これについては、更なる検証が必要ということになるでしょう。
インプラントとAnteの法則
2006年にスイスのチューリッヒで開催されたEuropean Association for Osseointegration において、Langは、「いまだにAnteの法則をおぼえている人は、それを忘れるべきであり、それを知らない人は幸運である」と発言している。
これはLangらのグループによる、骨支持量は減少しているが歯周組織は健康である支台歯を有した固定性ブリッジに関しての最長25年経過の579症例の術後の生存率(5年経過で96.4%、10年経過で92.9%)ならびに術後の問題事象に関するメタアナリシスからは、骨支持量が減少していない場合と比較しても遜色がないとした報告に基づいたものである。
同様にFayyadとAl-Rafeeは132症例156個の固定性ブリッジにおいて、Anteの法則に合致しなかったものが大学の症例で26.9%、臨床家の症例で50%あったが、問題を生じた56個のブリッジのうち明らかにオーバーロードによるものと考えられたものは2例であったとしている。
これに対して、短縮歯列を提唱したKayser,Leempoelらのグループは、固定性ブリッジ1674個の12年間の生存率とAnteの法則の間には有意の相関があったことを示している。
一方、この報告では通常のブリッジとカンチレバーブリッジとの間に有意差がなかったとしていることは興味深い。
これらの報告から、負荷の状況がどうであったかが確認できないが、ブリッジの生存率に対しては、支持の条件以上に、負荷や咬合の条件がより大きく影響する因子であることが推測される。
(その補綴に根拠はあるか より )
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歯科で、保険でブリッジの治療を受ける場合、このAnteの法則に則った設計のみが適応となります。
このAnteの法則は、欠損歯の支台歯の位置のみによって、ブリッジの設計の是非を決定するもので、歯槽骨に植わっている歯根の長さや歯周組織の状態等は反映されていません。
そのため、Anteの法則に則った設計以外でも、臨床上問題なく経過しているケースは少なからず存在するようです。
ただ、Anteの法則以外の設計で治療計画を立てる場合、その設計が強度的に問題ないかの明確な診断基準はおそらくまだないものと思われます。
また、治療終了時には問題なく経過していたのに、患者さんが高齢になり、メインテナンスに応じることができなくなったりした場合には、Anteの法則以外の設計はリスクが伴う場合もあるかと思います。
個人、個人の経験則と責任で、より良い歯科医療を患者さんに提供したいものです。
なお、インプラントブリッジに関しては、Anteの法則は天然歯ほど厳密に考える必要はないものと考えられます。
歯並びに自信がないということとは?
「歯並びがいいと婚活有利」88.9%
「歯並びがいいと出会いの場面で有利」と思っている婚活中の男女は88.9%に上るが、歯並びに「自信がない」人は58.5%。
11月8日の「いい歯の日」に合わせて、5年以内に結婚を希望する20-40代の男女2000人を対象に、マウスピース装置による矯正歯科治療「インビザライン・システム」を提供するアライン・テクノロジー・ジャパンが意識調査を実施したもの。
(アポロニア21 2014年12月号)
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インプラント希望で来院される方のお口を拝見すると、そちらの側が咬みやすかったがために、反対側よりも先に歯を失うことになったのではなかろうかと推測されるケースは少なくありません。
もちろん歯を失った部位のみにインプラント治療を行うこともできますが、反対側が咬みにくい原因があるのであれば、やはりそちらの咬み合わせの治療も必要となります。
歯並びの見た目に自信がないという状態は、多くの場合機能的にも問題を抱えていることが多いです。
(審美と機能は相関があります。
審美的問題を抱えるお口は機能的にも問題があり、審美的問題がないお口は、機能的にも問題がないのです。)
前後的・左右的誤差が少なければ咬み合わせの調整で対応しますが、誤差が大きい場合には歯列矯正が必要になる場合もあります。
咬み合わせの治療のツールとして、インプラントや歯列矯正があるのです。
インビザラインはその歯列矯正の一手法です。
インビザラインだけで歯列矯正治療が完了しない場合もあります。
付加的な治療が必要になる場合もあります。
多くのケースは総合的な治療になるのです。
部分入れ歯の支台歯は、非支台歯と比べ、状態が悪化する。
・Zlantaricらの研究では、205例の長期経過報告症例から、部分入れ歯(パーシャルデンチャー)と支台歯(バネがかかる歯)の歯肉縁、歯周炎、ならびに動揺度との関係について検討したものである。
患者は男性80名、女性125名であり、上顎123症例、下顎138症例のパーシャルデンチャーを1年から10年の期間使用していた。
この中で行われた調査は、各患者の支台歯と非支台歯について、プラーク指数、歯肉炎指数、歯石指数、義歯の汚れの程度を示すTarbet指数、ポケットの深さ、歯肉の退縮の程度、動揺度を記録している。
その結果として、プラーク指数、歯肉炎指数、歯石指数、ポケットの深さ、歯肉の退縮の程度、動揺度に関して支台歯、非支台歯
の間に有意差が認められ、支台歯で悪化する傾向が明らかになった(P<0.01)。
これらのことから、パーシャルデンチャーの設計は支台歯に対して影響を有しており、歯頸部歯肉を義歯床で被覆することは影響が大きいため、これを最小限にとどめる様な概形とすること、ならびに可能な限り歯根膜負担とする設計と口腔清掃によって、歯周組織への為害作用を減ずることができるとしている。
(参考文献)
Zlataric DK, Celebic A, Valentic-Peruzovic M. The effect of removable partial dentures on periodontal heath of abutment and nonabutment teeth. J Periodontol 2002 ; 73(2) : 137-144.
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部分入れ歯を使用すると、バネがかかる歯(支台歯)は、バネがかかっていない歯(非支台歯)よりも歯肉炎や歯周炎が悪化したり、歯肉退縮や動揺度の増加も生じやすいとのエビデンスです。
部分入れ歯は、残存歯の犠牲のもとに成り立っている治療法ですので、やはり歯肉に炎症が波及したり、歯が動くようになるのは、ある程度はやむを得ないものと考えられます。
同じように部分入れ歯であっても、自由診療のコーヌスデンチャーは、保険診療内の部分入れ歯より残存歯の予後が安定しているといわれています。
保険の部分入れ歯であるクラスプデンチャーと比較して、歯冠歯根比を改善することが可能となるからです。
しかしながら、このコーヌスデンチャーという入れ歯にも欠点があります。
それは、健全な歯牙であっても、平行性を整えるために大きく歯牙を削合することが必要となります。
(また、日本人でこのコーヌスデンチャーを計画すると、その多くはすべて歯の神経を除去する結果となります。
これはおそらく欧米人に比較して、日本人の歯列不正の程度が大きく、エナメル質の厚みが薄いことが関係しているものと考えられます。)
そのため、現在では、コーヌスデンチャーは特殊な治療の一つになり、インプラントの方が一般的な治療となっています。
インプラントと歯列矯正でTCHによる悪影響を減らせるか。
・TCHをもっている可能性が偏咀嚼をする患者では2.8倍、精密作業に従事している患者では約2.2倍であることも示唆された。
(参考文献)
Sato F, Kino K, Sugisaki M, et al : Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorders. J Med Dent Sci, 53: 103-109,2006.
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TCHとは、覚醒時の無意識の上下歯(歯列)の接触癖を指します。
このTCHは、偏咀嚼をする患者で2.8倍というデータが出ています。
ついつい偏咀嚼をしてしまうのも、左右で咬みやすい側と咬みにくい側があることが関係しているわけですから、大きな誤差は歯列矯正や補綴治療、小さな誤差は咬合調整で対応するべきと考えています。
そのため、堀歯科医院では、インプラント治療後にも、歯列矯正治療後にも、定期的な咬合調整を行うことで、マクロ的にもミクロ的にも前後的左右的にバランスのとれた状態を目標にしています。
カンペル平面は仮想咬合平面として信頼性が低い?!
カンペル平面は左右側いずれかの鼻翼下縁と両側の耳珠上縁によって形成される平面と定義されます。
教科書的にはカンペル平面と咬合平面が平行であるとされていますが、両者は必ずしも平行ではないということも報告されており、後方基準点は耳珠中央・下縁、外耳道上・下縁など研究者によって異なっています。
そのため、カンペル平面を基準として設定された仮想咬合平面は、上顎前歯人工歯の垂直的排列位置に一応の目安を与え、咬合平面の左右的な高さのガイドとはなりますが、臼歯部人工歯の排列ガイドとは必ずしもならないことを意味しています。
したがって、カンペル平面と仮想咬合平面を完全に一致される必要はないと考えられます。
(参考文献)
細井紀雄,平井敏博,大川周治,市川哲雄. 無歯顎補綴治療学 第2版.2009 ;84-90,144.
Costen JB. A syndrome of ear and sinus symptoms dependent upon disturbed function of the temporomandibular joint. Ann. Otol. Rhinol. Laryngol. 1934 : 43-1-15.
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実は、患者さんの耳の高さが左右で異なることは少なくありません。
(鼻が曲がっている方も少なくないので、カンペル平面の基準点である鼻下点も左右で位置が異なる可能性もあります。)
そのため、カンペル平面が必ずしも仮想咬合平面として信頼できないということなのです。
頭蓋骨の一つのパーツである側頭骨には、うろこ状縫合があります。
この縫合は開いたり閉じたりすることにより、頭蓋骨の左右的・前後的な誤差を是正する働きがあります。
側頭骨の上には耳介が存在するので側頭骨の位置が左右で異なるのであれば、当然のことながら、耳珠の形態や位置も左右で異なるということになります。
ただ、かつては『カンペル平面は、仮想咬合平面である。』という考え方が一般的でした。
しかしながら、現在では『必ずしもそうではない。』と考え方の主流が変化してきています。
これは、『近年、身体が歪んだ人が増えてきている。』ということにも関連していることでしょう。
私たち歯科医師は、程度の差はあれ、頭蓋骨が歪んだ人を相手に、歯列矯正治療やインプラント治療を行っています。
歪みの程度が大きい患者さんであれば、歯列矯正+補綴治療、あるいは健康ではあるけれど現在の歯の方向や咬合面形態を是正するために、抜歯してインプラントという臨床ケースは十分にあり得ると考えています。