2015年3月アーカイブ
糖尿病患者は根管治療の成績が非糖尿病患者に比べて著しく劣る。
・糖尿病患者の根尖病変の罹患率は、非糖尿病患者に比べて高いことが報告されています。
糖尿病患者の創傷治癒は非糖尿病の方に比べて遅延する傾向にあるのはよく知られていますが、これは根尖病変においても例外ではないようです。
2型糖尿病患者の根尖病変では根管治療の効果が表れにくく、治療開始時にX線写真で病変を認めた症例での根管治療の成功率は、非糖尿病症例のそれに比例して著しく劣る傾向にあることが報告されています。
糖尿病および非糖尿病の人口比率は増加傾向であることから、それに伴い根尖病変の難治症例も増加していくと考えられます。
(参考文献)
Britto LR ,Katz J, Guelmann M, et al. Periradicular radiographic assessment in diabetic and contol individuals. Oral Surg Oral Med Pathol Oral Radiol Endod. 2003; 96(4): 449-452.
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糖尿病の患者さんは一般に傷が治りにくいとされますが、今回の論文で根管治療の成功率も著しく悪いということが明らかになりました。
根管治療の成績が悪いのは、根尖部の免疫力が低いために結果が不確実なものとなるためと考えられます。
根尖病巣を作らないように、特に糖尿病の患者さんの場合においては、1回目の根管治療で確実な処置をしなければならないということになるでしょう。
また、抜歯してインプラント治療をする場合でも、糖尿病の患者さんでは通常の患者さんとは区別して考える方が無難かもしれません。
インプラント埋入とともに骨造成や付着歯肉の増大処置等を同時に行うことは、リスクとなる場合があるからです。
TCHとインプラント治療
・唾液は十分に分泌していても精神的ストレスやTCH(tooth contact habit : 歯牙接触癖)があると、分泌した唾液はすぐに嚥下されてしまいます。
結果として口腔内に貯留する唾液が少なく、義歯機能時の湿潤がうまく行われないために義歯に痛みを感じることになります。
・上下顎歯槽頂部が軽度の過角化傾向にあり白っぽく見えるのが分かります。
この所見は、TCHのある患者には良く認められるものです。
義歯の動揺によって褥瘡性潰瘍ができているわけではなく、義歯は低位置に正しく収まっているにもかかわらず、顎堤粘膜全体に不快感が発生します。
義歯を早く外したい感じ、あるいは義歯が重苦しい感じなどの訴えが頻繁に発生し、しばしば義歯の再製を強く希望します。
(総義歯治療失敗回避のためのポイント45 より)
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TCHがある方は、口腔内が乾燥状態であることが多いように思います。
このような患者さんに、インプラント治療を行った場合、持続的な咬合力にインプラントにかかるため、インプラントの破損に繋がる場合があります。
また、口腔内が乾燥状態ということは、付着したプラークが停滞しやすいので、インプラント周囲炎にもなりやすくなります。
さらに最近の研究では、『夜間のブラキシズムよりも、昼間のTCHによる筋活動の方が大きかった。』とするものもあります。
やはりTCHのある方は、まずはその存在を認識したうえで、インプラント治療を受けるべきであると考えています。
抜歯後に腫れるのは歯科医師のせい?
・抜歯後に腫れるのは歯科医師のせい?―腫れには2種類ある。
抜歯後に腫れることを嫌う歯科医師は多くいる。
一つは生体に侵襲が加わりそれに反応するため毛細血管の透過性を亢進させ、種々の細胞や化学物質が集まる現象で、これを浮腫という。
もう一つは血管が破綻して全血球成分が血管外に出てくる現象で、こちらを出血、それが貯留したものを血腫という。
手術後にみられる腫れは、浮腫と血腫が合わさったものとして観察される。
浮腫は侵襲を受けた生体が反応して起きるもので避けて通れない。
せっかく体が微生物の侵入に抵抗して、治癒を進めるために腫れているのに、これを抑えようとする企ては身体の防御機能にたいして足を引っ張る行為に他ならず、好ましくない。
一方の血腫は、きれいな切開、骨膜剥離、縫合操作で軟組織、特に骨膜を挫滅させないような手術手技である程度防ぐことができる。
浮腫と血腫を区別せず、これを抑えようとすること、ましてや、腫れているからといって抗菌薬を投与することは無意味な試みである。
施術者は、血腫形成を極力抑える手術に努め、浮腫は身体が治してくれている現象として歓迎しよう。
ただ、患者には施術前に浮腫についてよく説明して理解をいただき、「腫れたのは下手だから」というあらぬ誤解をされないようにすることが肝要である。
(クインテッセンス デンタルインプラントロジー 2015 vol.22 より)
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インプラント埋入で腫れるケースというのは、個人的には皆無です。
骨膜を挫滅させないで手術をすることが、血種による腫れをある程度防ぐことができるようですから、インプラント治療をこれから始められる歯科医師はまずは、切開・剥離・縫合といった基本的な外科手技を体得する必要があると言えるでしょう。
リウマチの人は歯周病になりやすく、リウマチにより歯周病は重症化する。
・最近のメタアナリシスによれば、RA群はコントロール群と比べて臨床的アタッチメントレベル(CAL)は1.17倍、歯の喪失は2.38倍、有意に高いことが明らかになっている。
一方、歯周病患者のRAリスクに関してはレベル3のエビデンスに留まっているものの、歯周病の重症化・歯周病原細菌の感染によりRAリスクが増加することが知られている。
(参考文献)
Kaur S,White S, Bartold PM : Periodontal disease and rheumatoid arthritis: A systematic review. J Dent Res, 92(5) : 399-408,2013.
Dissick A, Redman RS, Jones M, et al : Association of periodontitis with rheumatoid arthritis: a pilot study. J Periodontol, 81(2) : 223-230,2010.
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リウマチの人は歯周病になりやすく、リウマチにより歯周病は重症化することが明らかになりました。
歯周病対策をすることで、ご自分の歯を守るためになるのはもちろん、リウマチに罹患した場合でも歯周病を重症化させないことに寄与するかと思います。
歯周病によりインフルエンザは長期化する。
インフルエンザは、細菌との混合感染や二次感染によって増悪、重症化することが知られている。
実際に、肺炎球菌や緑膿菌による肺炎や気管支炎がインフルエンザによる死亡率を著しく上昇させる。
また、黄色ブドウ球菌が産生するプロテアーゼがHAを活性化し、ウイルス感染を促進することが知られている。
インフルエンザと口腔細菌との関連性も示されている。
世界中で約4000万人が死亡したといわれる1918年のスペインかぜにおいて、何らかの口腔疾患保有患者罹患率と死亡率は、疾患のない人のそれと比べ、ともに2-4倍高かったとする報告がある。
またウイルスと歯周病原細菌を混合感染させたマウスではインフルエンザが長期化すること、さらには2009年のパンデミック時、感染者の肺から口腔のStreptococcus属細菌が検出されたことが報告されている。
これらの事実と、ウイルスの感染部位が口腔近傍の上気道および咽頭であることを考え合わせると、口腔細菌がインフルエンザの病態進行に関与している可能性が推察されるが、その関連性を分子レベルで示す研究は行われていなかった。
(参考文献)
Kuroda M, Katano H, Nakajima N, Tobiume M, Ainai A, Sekizuka T, Hasegawa H, Tashiro M, Sasaki Y, Arakawa Y, Hata S, Watanabe M, Sata T : Characterization of quasispecies of pandemic 2009 influenza A virus (A/H1N1/2009) by de novo sequencing using a next-generation DNA sequencer. PLoS One, 5(4) : e10256, 2010.
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歯周病があるとインフルエンザが長期化するリスクがあるというエビデンスです。
また、歯周病で抜歯を受け、インプラント治療を受けた方は、インプラント周囲炎になるリスクが高いというエビデンスもあります。
ということになると、インプラントを長持ちさせるためにも、インフルエンザになるリスクを減少させるためにも、メンテナンスは必要であるということになります。
虫歯と毛髪の関連性
薄毛やくせ毛など髪の毛の先天的特徴をかかえた人は齲蝕になりやすい。
米国・国立保健研究機構(NIH)の国立関節・筋骨・皮膚疾患研究所(NIAMS)皮膚科学研究室のOlivier Duvergeri氏らの研究グループが明らかにした。
研究結果は、10月27日発行の『J Clin Invest』誌電子版に掲載された。
386人の子供と706人の成人を対象に、口腔診査と遺伝子検査を実施して分かったもの。
毛髪のケラチンの変性を来す先天異常に関与するとされるケラチン75(KRT75 : A161T、E337K)の遺伝子多型が齲蝕多発傾向に関係し、エナメル質の硬さや構造にも先天的な影響を与えているという。
(アポロニア21 2015年1月号)
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歯科治療で歯を削る際、他の人よりも歯が硬いなと感じる患者さんがいます。
そのような方の場合、食事やブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)のたびに上下で接触するのなら、どこかの時点がクラックが入り、そこから虫歯が発生する場合もあります。
一方、相対的に歯の硬さがさほど硬くないのならば、クラックが入るよりも咬耗が進行しやすいかもしれません。
咬耗が重度に進行すると、咬み合わせの接触面積は増大しますから、歯には側方圧が増大します。
特に大臼歯部の側方圧が増大すれば、その部位の歯周病が重症化する場合もあります。
そして、今回の論文でエナメル質の硬さと毛髪が関係がある可能性があることが示されました。
初診でその方の毛髪を観察することで歯科的な情報が得られるのなら、私たちが患者さんの治療計画を立案する際にも、何かしら役立つ可能性がありそうですね。
同じようにインプラント治療をする場合にも、どのような経過で歯を失うことになったのかを推測できるわけですから。
オールオンフォーと高床式インプラント義歯
・Abrahamssonら(1997)によると、アバットメントの着脱回数が多いと骨吸収が進みます。
アバットメントを外し結合組織が露出した状態は創傷と同じなので、そのまま置いていると上皮が埋入してきます。
そこにアバットメントを再装着すると、生体として生物学的幅径を維持するため結合組織を確保しようと骨吸収が生じます。
ですから、アバットメントを繰り返し着脱する行為はあまりよくないと思います。
フィクスチャーとアバットメントの接合部が歯肉縁上にあれば、プラークコントロールは容易ですから外す必要がありません。
接合部で細菌が繁殖しても、離れた位置にあるインプラントや軟組織に直接的な問題は起こりません。
しかし、接合部が歯肉縁下にあり、メンテナンスのたびにアバットメントの着脱を繰り返していると、軟組織にダメージを与えるようになります。
このことを踏まえると、可撤式の意味を考え直す必要があると思います。
(日本歯科評論 2014年 11月号)
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インプラントを傾斜埋入するオールオンフォーという治療法では、インプラントを傾斜して埋入した部位の清掃が困難なので、定期的に上部構造(アバットメント)を外して清掃する必要があります。
しかしながら、上部構造を外すと骨レベルが低下することが、今回のAbrahamssonら(1997)らの研究報告で明らかになっているので、歯科医師はオールオンフォーの上部構造をあまり外したがりません。
上部構造を外すと軟組織にダメージを与え、骨レベルが低下する。
上部構造を外さないでいると、清掃不良から、骨レベルが下がり、インプラント周囲炎になる。
装着感の良いオールオンフォーを製作する時点で、結局は経時的に骨レベルが下がるのではないでしょうか。
そうであるならば、かつての高床式のインプラント義歯が良いということになるのですが、装着感が悪いという患者さんの訴えで、すでに過去のものとなっています。
(因みに、この高床式のインプラント義歯は、食べ物が挟またり、発音障害があったりという問題点があり、おそらく現在行われておりません。)
オールオンフォーなどの最新治療も、見方によっては、時代遅れの高床式インプラント義歯に劣る点があるかも知れません。
やはりここでも「最新が必ずしも最善ではない」ということになるのでしょう。