2015年6月アーカイブ
インプラント固定の部分入れ歯のトラブルが少なくない理由。
インプラント固定の部分入れ歯(IARPD)の義歯製作―印象採得
歯の被圧変位量に比べて粘膜の変位量は大きく、その反対にインプラントはほぼゼロに近い。
歯の垂直的沈下量を調査したKorber,KH.によると、20±10μm(0.01-0.03ミリ)である。
同様な調査は後藤によると、0.03-0.06ミリとある。
それらから歯の被圧変位量はおおむね0.03ミリ前後と推測できる。
一方、顎堤粘膜の被圧変位量はKorber, K.H.によると、0.5-1.5ミリ、宮下によると0.6-0.8ミリとある。
おおむね0.6ミリ前後とすると、歯の被圧変位量に比べて20倍の量である。
このように生理的動揺のある天然歯、ほぼ動きのないインプラント、被圧変位量の大きな粘膜、これら3者を同時印象で正確に採得することは難しい。
そのため印象採得における誤差を製作段階で補正を行いながら、詰めていくことが現実的である。
(インプラントパーシャルデンチャー IARPDの臨床 )
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印象採得の際には少なからず圧がかかるものと思われます。
その圧に対して、インプラントの20倍も偏位するのが顎堤粘膜です。
力がかかってもほぼ動かないインプラントとその20倍沈み込む顎堤粘膜が、義歯使用中には均等接触しなければなりません。
そのためには、印象採得時の誤差を製作段階で補正するのはもちろん、完成したインプラント固定の部分入れ歯が相当な誤差を有していることを認識して、義歯のチェックを定期的に行わなければならないということでしょう。
痛がりの人はオーバーリアクションなのか?!
・瞑想状態に入ったときに痛みを感じなくなる、という話を聞き、その脳の中をfMRIで研究しました。
すると瞑想状態では痛みの刺激を加えても、脳の痛みの「関連脳領域」は全くといっていいほど活性化していないことが判明しました。
つまりヨガの達人は痛くないふりをしているのではなく、本当に「痛くない」ことが分かったのです。
・痛みの感じ方には個人差があります。
同じ注射をしても、ある人は全く動じず、またある人は「痛っ!」と叫んで飛び上がります。
後者のような人たちを私たちは「痛がり」と呼んだりします。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか今まではわかりませんでした。
ところが、fMRIを用いた研究から、同じ刺激でもほかの人より痛みを強く感じる人は、そうでない人と比べて、実際に脳の中でも「痛みの関連脳領域」が強く活性化されていることが判明しています。
つまりリアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」わけです。
同じ刺激なのに、どうして脳の中で起きることが異なるのでしょうか。
このような「同じ刺激でも人によって感じる痛みの強さが異なる」という現象を説明する一つのメカニズムとして挙げられるのが、「内因性オピオイド」の存在です。
内因性とは自分の身体の中でつくられるという意味です。
そしてオピオイドというのは、麻薬のことです。
・脳内で麻薬とそっくりの物質が合成されていたのです。
麻薬には痛みを感じさせなくさせる働きがありますが、この脳内でつくられた麻薬が、私たちが痛みを感じるときにつくられて、本来の痛みを軽減させている可能性があるのです。
・遺伝的に脳内麻薬が効きにくい人は、手術後に麻酔が覚めたときに希望する痛みどめの量が多いことが報告されています。
また、お産の最中に訴える痛みの強さや希望する麻酔薬の量も、遺伝子によって差があることが示されています。
・「痛みが長引くはずだ」という思い込みによって、治るはずの痛みが長引いてしまうことがあるのです。
このような思い込みによる負の効果をノセボ効果と呼んでいます。
この思い込みに関与していると考えられているのが、脳内の内側前頭野です。
この内側前頭野という場所は、「むちうち」以外にも特に長引く腰痛を持っている人で強く活性化していることが分かっています。
ひざの痛みや骨盤の痛みのある人では、たとえ長引いてもそれほど内側前頭野は活発に活動していません。
「腰痛は他の痛みと比べると特殊」であるひとつの理由はここにあります。
腰痛は脳の関わりが大きいのです。
(長引く痛みの原因は血管が9割 )
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歯科領域においても、麻酔が効きにくいなどといった「痛がりの患者さん」という人たちがいます。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか疑問に感じている医療従事者も多いかと思います。
そんな中、今回紹介させていただいた本の中で、「痛がり」の方は、リアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」ということが分かりました。
また、ヨガの達人が瞑想によって、本当に痛みを感じにくい状態になっていること。
さらに、遺伝的に脳内麻薬が効きにくく、その結果、「痛がり」になっている方がいること。
そしてもう一つ、きっと痛いに違いないという"思い込み"が長引く痛みと関係しており、そのような時、脳の内側前頭野が活性化していること。
なども非常に勉強になりました。
それにしても、fMRIにより、いろいろなことが分かる時代になり、医学も日進月歩なのだなと今更ながらに感じました。
上顎IODはインプラントの喪失率が高い。
・補綴装置の種類ごとのインプラント喪失の発生率
上下顎単独インプラント 3%
下顎無歯顎フィックスドブリッジ 3%
上顎無歯顎フィックスドブリッジ 10%
下顎部分欠損フィックスドブリッジ 6%
上顎部分欠損フィックスドブリッジ 6%
下顎IOD 4%
上顎IOD 19%
(参考文献)
Goodacre CJ, Barnal G, Rungcharassaeng K, Kan JY: Clinical complication with implants and implants protheses. J Prosthet Dent 90(2) : 121-132,2003.
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このデータから、いかに上顎IODは、他の設計よりもハイリスクか認識しなければならないでしょう。
やはり上顎にインプラントを考える場合は、固定式のブリッジタイプを基本とし、比較的条件の良い下顎やインプラントや天然歯に負けない構造を考えていく必要があると思います。
全顎的インプラント症例において、"壊れにくい"ことを第一に考えるのであれば、下顎にはIOD、上顎は固定性インプラントブリッジが第一選択かもしれません。
肺炎予防としてのインプラント
・誤嚥は実際に嚥下時に起こるものよりも、嚥下運動後に梨状陥凹(食道の入り口)などに残留した貯留物が就寝や横になった時などの姿勢によって気道に流入するケースが多いといわれている。
ここで、舌骨の役割がクローズアップされてくるのであるが、舌骨は中咽頭収縮筋と付着し、咽頭部の運動に大きくかかわっている。
また、舌骨は舌骨上筋と舌骨下筋によってポジッションを決定しているため、摂食・嚥下時の姿勢などもその機能に影響してくると考えられる。
(インプラント ジャーナル 2015年 61 )
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日本人で、肺炎でお亡くなりになる方は、近年増加傾向にあると聞きます。
また肺炎の大きな原因の一つに、誤嚥性肺炎があります。
今回ご紹介する"誤嚥"に関する記事によると、誤嚥は嚥下時よりもむしろ、食道の入り口等に残留した貯留物が横になった際に気道に流入することで惹起されやすいことが分かりました。
そうなると、筋力の低下した高齢者は、食事の最後に残留物を水で確実に胃部へ流す必要があるでしょう。
また、咀嚼と嚥下はともに頭頸部の筋力の低下に伴う舌骨の位置の低下も関係しているでしょうから、インプラント治療で咀嚼力が低下しないようにできれば、嚥下も比較的スムースに行われるようになり、その結果、誤嚥性肺炎も予防できるのではないかと考えています。
インプラントオーバーデンチャーでは、インプラント周囲炎が惹起されやすいのか。
・部分入れ歯の鉤歯の歯冠部を切断後、オーバーデンチャーを装着し、その前後において歯肉溝滲出液量、歯肉炎指数、プラーク指数、歯肉溝の深さについて、4つの歯面で治療前後で比較したところ、頬側でオーバーデンチャーを装着する前と装着後6か月後で、どの項目も4倍近い数値の増加となっている。
また、頬側以外の3歯面においては装着前後で大きな変化は認められず、頬側経時的に悪化し、その他の3歯面の状態に近づいていることがわかる。
このことから部分入れ歯時は、セルフケアの際、頬側のように磨きやすい部位を重点的に磨き、その他の歯面はしっかりと磨けていないことが分かる。
そして、オーバーデンチャーでは残根が床下に位置することにより清掃困難となりすべての歯面において炎症性の反応が起こるといえる。
(参考文献)
山賀 保: オーバーデンチャーへ移行時における維持歯辺縁歯肉の経時的変化. 補綴歯28(6):1010-1017,1984.
(インプラントパーシャルデンチャー IARPDの臨床 )
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費用対効果の面で、インプラントオーバーデンチャーは、患者さんにとっては受け入れやすい治療プランであるといえます。
しかしながらその一方で、固定式インプラント装置に比較してトラブルが多いこともまた知られています。
そのトラブルの原因の一つに清掃不良によるインプラント周囲炎があります。
部分入れ歯のときは、一般に義歯床で覆われていない頬側部の歯肉の状態は比較的良好だったわけですが、オーバーデンチャーになると4つの歯面が義歯床で覆われているので、すべての歯面が同様に炎症が認められるようになるようです。
(この文献では歯の丈が短くなると、磨けていた頬側さえも歯肉の状態が悪化するとのことでしたが、表面が粗造な義歯で歯肉が圧迫されていると、状態は悪化するのではないでしょうか。)
やはり、力の面でも、清掃性の面でもオーバーデンチャータイプのインプラントはよほど注意しないとトラブルが発生すると考えていた方が無難であるといえるでしょう。
歯周病治療を行った場合の予後
・歯周病治療を行った場合の予後
Hirschfeld&Wassermanは、歯周病治療を行った患者の予後を平均して22年間観察した結果、77%は0-3歯失い、15%は4-10歯、そして残りの8%は10歯以上を喪失したと報告した。
このことは、適切な歯周病治療を受けた場合、約8割の人は長期間大多数の歯を保存することができるが、それでも1割の人は急速に歯を失っていくことを意味する。
(参考文献)
Hirschfeld L, Wasserman B. A long-term survey of tooth loss in 600 treated periodontal patients. J Periodontol. 1978;49(5): 225-237.
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歯周病の治療を受けていても、およそ1割の人は急速に多数の歯を失うというエビデンスです。
まして、歯周病の治療を受けていない人であれば、より多くの人が急速に多数の歯を失うグループに属してしまうことになります。
インプラント治療が必要にならないようにするためにも、歯周病の治療は必要ということになるでしょう。
遺伝子型による歯周病の予後判定
・遺伝子型による歯周病の予後判定
細菌学的手法による予後判定によってもたらされた結果の不確実性により、予後判定は宿主のもつ病気のなりやすさ、つまりSusceptibilityの把握に着目されるようになった。
歯周炎への遺伝的因子の影響については、Michalowiczらが報告しており、一卵性双生児は一緒に生活していても、別に住んでいても歯周病の罹患状況が二卵性双生児ででともに生活している場合よりも近似していることから、遺伝的因子は環境的因子よりも歯周炎に強い影響を与えることが示唆された。
Kornmanらによって、IL-1の遺伝子型の相違によって歯周病の進行度が異なること(IL-1遺伝子型は高いレベルでIL-1遺
産生との関連があり、重度歯周病患者の86%は喫煙習慣かIL-1genotype(+)を示した)が報告されたのを機に遺伝的因子と臨床的成績を比べた報告がされるようになった。
また、前述のMcGuireによる一連の予後に関する論文のうち最後に発表されたのが、このIL-1の遺伝子型の違いと臨床結果との関連を調べたものである。
歯の喪失率については、患者がIL-1遺伝子型の違い(+)によって2.7倍高まり、ヘビースモーカーの場合は2.9倍高まり、両方の場合は7.7倍高まるというものであった。
(科学的根拠に基づく歯周病へのアプローチ )
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Michalowiczらが報告した『歯周炎への遺伝的因子の影響について』によって、遺伝的因子は環境的因子よりも歯周病に強い影響を与えることが明らかになりました。
これはすなわち、歯磨きの上手下手よりも歯周病になりやすい体質かどうかの方が、歯周病のリスクに影響を与えるということです。
確かに歯磨きをまめに行っている割にお口のトラブルが絶えない人がいる一方で、大して歯磨きに熱心ではないのにお口のトラブルがほとんどない人もいる現状と一致するようにも感じます。
また、Kornmanらが報告したように、IL-1の遺伝子型の相違によって歯周病の進行度が異なることが明らかになりました。
それによると、歯の喪失率は、患者がIL-1遺伝子型の違い(+)によって2.7倍高まり、ヘビースモーカーの場合は2.9倍高まり、両方の場合は7.7倍高まるという結果だったようです。
当然のことながら、IL-1遺伝子型の違い(+)は持って生まれた体質なので変えられないのでしょうけれど、喫煙をするかどうかは本人の意思に委ねられています。
こうして考えると、歯の喪失率を大幅に減少させるためにも、インプラント治療を長持ちさせるためにも、まずは喫煙習慣はない方がいいということになりますね。