2015年7月アーカイブ
コーヌスクローネは、維持歯7:人工歯7で安定する。
・コーヌスクローネが口腔内において不安定なる要素は、義歯床が動くことによるものがほぼすべてであり、最終的に安定が得られるかどうかは、この維持歯と義歯床(人工歯)の割合が一つの判断基準となる。
筆者らの経験では、50:50(維持歯7:人工歯7)である場合にはほぼ問題が起きにくく、ここから人工歯(義歯床)の割合が高くなればなるほど、コーヌスコローネ本体の安定性が低くなる傾向がある。
(補綴臨床 2015年5月号 )
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問題が生じにくいコーヌスクローネの要件としては、片顎で維持歯が7本以上あること、維持歯を線で結んだ際に再現される回転軸が複数存在し、対合関係や各維持歯の骨植状態が良好であることが分かりました。
これはすなわち、ブリッジができるレベルの維持歯数があり、その状態も比較的良好な場合にコーヌスクローネは安定するということになります。
私は、ブリッジができないところに、インプラントや義歯の設計を考えることが多いので、ブリッジが可能な段階で、義歯の一種であるコーヌスクローネを患者さんにお勧めすることはありません。
しかも、日本人にコーヌスクローネを計画する場合、神経を除去しなければ、維持歯の平行性がとれないことが多いのが現状です。
また、維持歯が、失活歯であるがゆえに、歯根破折を起こしたり、脱離した維持歯を再度接着した場合に完全に元の場所に戻すのは意外と困難であるという問題点もあります。
さらに、コーヌスクローネを製作できる技工士さんがそれほど多くはないという問題もあります。
おそらく義歯で最も長期に安定する可能性があるのは、コーヌスクローネなのですが、患者さんにお勧めしにくい様々な問題点もあるのもまた事実ということになるでしょう。
コーヌスクローネタイプのインプラントは同じように長期安定が見込める治療計画ですが、同じく治療費がブリッジタイプ(スクリューリテインやセメントリテイン)の場合より高額になるのがデメリットとなります。
「フレキシブルデンチャー」は、あまり推奨される症例はない。
・いわゆる「フレキシブルデンチャー」は、以下のような特別な場合を除いては、原則推奨されない。
1.暫間義歯
適応は中間欠損が原則である。
遊離端欠損では、直接支台装置と顎堤が過重負担になるため、頻回のメンテナンスが必要である。
2.金属アレルギー
3.前歯部の少数歯欠損
あくまでも直接的な咬合力がかかりにくく、義歯床の沈下が少ないことが予想される場合であり、欠損部の人工歯でガイドされないことが大切である。
4.義歯に機能力の負担がかからない症例
咬合支持が確保されている少数歯欠損症例で、義歯に機能力負担がかからないと想定される場合は、金属を使用しないノンメタルクラスプデンチャーも可能な場合がある。
5.審美性を優先せざるを得ない症例
6.歯の切削(前処置)に同意が得られない症例
(ノンメタルクラスプデンチャー )
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現在多くのフレキシブルデンチャーを患者さんが使用されていることと思いますが、この本にもあるように、推奨される症例はそれほど多くはないということが分かります。
(そもそも十分ブリッジができる状態がフレキシブルデンチャーの適応症といっても過言ではないかもしれませんが、そのような欠損形態でフレキシブルデンチャーを希望された方は、少なくても当院ではそれほど多くはありません。)
インプラントよりは費用的に安価であること、手術を希望されない場合があることなどの理由により、患者さんはフレキシブルデンチャーを選ばれるのでしょう。
けれども、フレキシブルデンチャーは咀嚼の度にどうしてもたわむので、残っている歯を揺さぶり、歯の寿命を短くする結果となるのです。
そうなると、適切に金属を使用してたわみの少ない義歯の設計を考えていく必要があります。
しかしながら、そのような設計をすると、治療費が高額となるので、金属床ベースのノンクラスプデンチャーは歯科医師にも患者さんにもあまり選ばれなくなっている現実があるように感じます。
個人的には、インプラント>金属床ベースのノンクラスプデンチャー>保険診療>フレキシブルデンチャーという順位でしょうか。
ハイブリットデザインのインプラント
・これ以上インテグレーションのスピードを追求する必要はないでしょう。
次世代のインプラントとして、私が期待するのは、"守り"のコンセプトを持っていて、既存の製品と同じ性能であるようなものです。
実際にインプラントの上部まで粗面だと、インプラント周囲炎の治療をした際、ラフサーフェス部からバイオフィルムを含む付着物がなかなか取れないです。
今は超音波器具を始めとしていろいろなツールもありますが、それらをつかってもやはり難しい。
それでも取る努力をする。
ガーゼでゴシゴシこする。
これで間違いなく綺麗になっただろうと思ってマイクロスコープで拡大してのぞいてみると、結構汚れが残っているんですよね。
・インプラント周囲炎では、歯周病より治りにくいことが分かっていますので、歯周病以上にデコンタミネーションを適切に、より高いレベルで達成できないといけません。
それが可能な表面性状がより良いと考えています。
その考えからすると、ハイブリットデザインが現状では理想に近いのかなと。
ハイブリットデザインのインプラントを用いた場合は、インプラント周囲炎の早期発見が責務になります。
早期に発見できて、3スレッドくらいまで機械研磨表面なので非常に清掃がしやすい。
となると、骨吸収を止めるチャンスが1回増えるわけです。
これはメリットが大きいと思います。
もしすべてが粗面だと、一感染したら、そこから吸収は止められずにインプラントの喪失につながってしまうかもしれません。
ですから、インプラントには「骨吸収を起こしにくい」という要素も大事ですが、「骨吸収を起こしても、インプラント周囲炎に罹患しても対処しやすい」という基準で開発されたインプラントがあってもよいと思います。
(インプラントYEAR BOOK 2015 )
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インプラントの表面性状は、時代とともに表面がつるつるした機械研磨から粗面へと変化してきました。
表面性状を粗面にすることではいくつかのメリットがあります。
一つは、ショートインプラントを使用することで、以前であれば大掛かりな骨造成をしなければインプラント治療自体が不可能であったケースでも治療可能となったことです。
二つ目は、骨結合までの時間が短縮されたために、治療期間を大幅に短縮することも可能となりました。
しかしながら、機械研磨インプラントの時代にはあまり話題にならなかったインプラント周囲炎が近年問題となってきました。
ある意味、当然の結果ともいえます。
例えば、オールオンフォーのように、インプラント手術をした日にすぐに咬める歯が入るような治療方法では、少しでも早くインプラントが骨結合して欲しいので、"特別な"粗面でなければならないのだろうと思います。
インプラントメーカー同士や歯科医院同士の過当競争により、"少しでも早く咬めるようになる"が、半ば合言葉のような状態になっていたようにも感じます。
言わば行き過ぎたスピード志向が、インプラント周囲炎の程度を重篤なものにしたのかもしれません。
(現に、オールオンフォーで使用される旧ノーベルバイオケアのインプラントのタイユナイトという表面性状は、他のインプラントの表面性状よりもインプラント周囲炎になりやすいという報告があります。)
現代の日本人は世界的にみても長寿の傾向にあります。
『少しくらい早く咬めるようになること』よりも、『長期に亘って安定した状態を維持しやすいインプラントの形態や表面性状はどのようなものなのか』を歯科医師やインプラントメーカーは十分に考えていかなければならないことでしょう。
そういう視点に立つと、今回紹介したハイブリットデザインのインプラントというのも面白いのではないでしょうか。
カリエスリスクと修復物辺縁の設定位置
・カリエスリスクと修復物辺縁の設定位置
カリエスリスクが高い場合、辺縁の設定部位は歯肉縁下が望ましいという考え方があります。
これは、歯肉炎付近は不潔域であるために、その部分を修復物でカバーするという「予防拡大」の考え方からきているようです。
しかし、この「予防拡大」に関しては、
1.歯肉縁下に辺縁を設定すると歯肉に対する為害作用が大きくなり、この影響を含めて経年的に歯肉退縮が起こり、歯肉縁下に辺縁を保つことが難しくなる。
2.辺縁部からのセメントの溶出やメタルの変形などにより不潔域をつくる。
3.二次齲蝕を発見しにくく、その後の対応も歯肉縁下のため難しくなる。
などの問題を抱えてまで歯肉縁下に辺縁を設定した方がよいという考え方には疑問を感じています。
現在のところ、辺縁の設定位置とカリエスリスクに関する研究も少なく、どちらが効果的という結論は出ていません。
今後、高齢者、口腔乾燥症の根面齲蝕への対応も含めて、情報収集が必要な課題だと思います。
(これで解決! 欠損補綴とブリッジ修復 )
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私も学生時代に、修復物の辺縁は歯肉縁下に設定するものと習いました。
しかしながら、実際歯科臨床を行っていると、この本を書かれた歯科医師と同様、私も修復物辺縁は必ずしも歯肉縁下にしなくてもよいのでないかという考えに至っています。
これに限った話ではありませんが、私たち術者が学生時代の知識のまま診療を行うことはリスクであると言わざるを得ません。
まして、学生時代にインプラントを学問として学んでいない私たちを含めたそれより上の世代の歯科医師が、インプラント治療を行うのであれば、しっかりとインプラントについての研鑽をしなければならないでしょう。
というのも、医学は日進月歩で第一選択なスタンダードな治療が変化する場合が少なくないからです。
解剖を熟知しているのは"当たり前"。
・腹腔鏡の手術では、開腹と比べて視野が限られてくる。
小さなカメラを通して見える像がどんな形をした胆嚢のどの部分なのか、近くの血管の走行や他の臓器との位置関係はどうなのかは当然熟知していなければならない。
誰も胆嚢の解剖を熟知していない外科医に胆嚢の手術をしてもらいたいとは思わないはずだ。
実はこのような状況は他人事ではない。
われわれもSRPをするときに、根面の解剖を熟知しているのは"当たり前"なのだ。
SRPを予定している歯のどこに根面がどれくらい凹んでいて、どのあたりに根分岐部が開口しているかなんて知識は頭に刷り込まれていなければ効果的なSRPはできない。
しかもわれわれは、内視鏡を使うこともなく、手探りでSRPをしなければならないのだから条件が悪い。
(SRP修行論 )
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大学での歯科専門課程の教育は、解剖学などの基礎を学んだ後に実際に歯科治療を行う際に臨床的な分野を学びます。
すなわち、歯科学の全体像が見えていない状態で、解剖学を学ぶことになるのです。
さらに、解剖学は歯の解剖はもちろん、全身の解剖も含まれており、覚えなければならない量は膨大です。
そのため、どうしても解剖学の勉強が不足した状態で卒業してしまった人間はおそらく私だけではないでしょう。
そうなると、解剖学の知識が不足していることが、臨床レベルをアップさせていく際に、ボトルネックとなっていることに後になって気が付くのです。
私の場合は、亡くなった方の頭頸部を使用させていただいて、解剖の勉強をするために海外に出かけました。
インプラント治療には、頭頸部の解剖の知識が必須だからです。
学生時代の解剖学は、インプラント治療をベースにしたものではないために、海外研修は非常に有益でした。
また参加したいと考えております。
咬み合わせが安定している側にトラブルが多い理由
・欠損が2歯ある194人の欠損パターンを調査したところ、2本目の欠損が1本目の欠損の反対側に起こった症例は56.2%(109人)、同側臼歯部に起こった症例は23.7%(46人)、前歯部に起こった症例は20.1%(39人)と、2本目の欠損が反対側に起こる症例が多かった。
・5年以上経過があり、前歯部の咬合が確実で臼歯部の咬合支持に左右差がある遊離端義歯装着患者32名(970本)を対象に、力の関与が疑われるような骨吸収、破折、脱離などのトラブルが起こった部位を調査した。
その結果、咬合支持が安定している側にトラブルが多く認められ、欠損側のトラブルは少なかった。
(これで解決! 欠損補綴とブリッジ修復 )
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一つ目のデータから推測できることは、一番咬みやすいところを抜歯せざるを得ない状態になった場合、次に失う可能性が高い歯は新たにできた咬み癖側の中で最も咬める歯ではなかろうかということです。
56.2%と最も高い割合で反対側の歯を失っていることを考えると、多くの場合反対側の方が歯が一本多いので、補綴処置がなされなければ、通常反対側が咬み癖側になるということかと考えられます。
また、2本目の歯を失っている部位が、同側臼歯部(23.7%)、前歯部(20.1%)の場合には、反対側(56.2%)と比較した場合に、咬合の非対称性が高い群なのではなかろうかとも考えられます。
さらに、二つのデータから共通しているのは、咬みやすい歯が先になくなる場合があるということではないでしょうか。
片側に義歯が入っていると、その反対側の自分の歯同士が咬めるところで咀嚼している方が多いと考えられます。
そうなると、義歯が入っている側ではなく、歯が多く存在している側でトラブルが発生しやすいということなのでしょう。
やはり、咬み合わせの左右差によって、歯が失われる側面がある以上、歯を失うスピードを遅くするために、インプラント治療を上手く役立てることも必要なことといえるでしょう。
PPDが7ミリ以上あると、歯牙喪失率が著しく上昇する。
・動的歯周治療後に定期的なメンテナンスを行った場合でも、残存したPPDが7ミリ以上の場合は、歯の喪失率が著しく上昇することが報告されている。
年齢や性別、喫煙経験等の差による影響を排除しても同様の結果が導かれていることを考えると、治療後に残存した7?以上のPPDは歯の喪失と独立したリスクファクターになりうることを示している。
したがって、骨欠損形態の改善により、深い歯周ポケットの改善を図ることが重要である。
(参考文献)
Matuliene G, Pjetursson BE, Salvi GE, Schmidlin K, Bragger U, Zwahlen M, Lang NP. Influence of residual pockets on progression of periodontitis and tooth loss: results afetr 11 year of maintenance. J Clin Periodontol. 2008; 35(8): 685-695.
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歯周病治療後に定期的なメンテナンスを行いながらも、歯周ポケットが7ミリを超えている部位を有する歯は、喪失率が著しく高いというエビデンスです。
やるべきことをすべてやった上で、PPDが7ミリを超えている歯牙に対して、インプラント治療を考える歯科医師もいることでしょう。
そのような考えも否定はしませんが、当院では、そのような深いPPDの部位にレーザー治療を行っています。
私のイメージでは、PPDが4ミリが5ミリになるスピードよりも、PPDが7ミリが8ミリになるスピードの方が速い印象があります。
それでも、定期的にレーザー治療を行うと、深いPPDを有する歯牙でも状態が安定してきます。
一般的な歯周外科では、歯肉を剥離して歯石を除去し、歯槽骨レベルをフラットにするわけですが、フラットにすることで、逆に歯牙周囲のコンディションが悪くなることが予想されるケースでは、骨削除を最小限に抑えなければならないのです。
そのような部位にレーザー治療は特に効果があると感じています。