2015年9月アーカイブ

P.gingivalisは口腔常在菌?!

P.gingivalisは誰の口腔にでもいる常在菌

報告により大きくばらつきますが、15-40歳の健康な歯周組織をもつ成人からのP.gingivalisの検出率は20-50%程度です。

近年の細菌検査法の精度の向上につれ、健康な歯周組織からのP.gingivalis検出率はさらに上昇しつつあります。

中華人民解放軍・口腔医学研究所の職員468人を対象とした2010年の調査では、全体の70.7%からP.gingivalisが検出され、歯周病ではない方の62.2%からも検出されています。

このような結果から、現在では、P.gingivalisは口腔常在菌と考えられる。

歯周病菌が常在菌であるという事実には、大きな意味があります。

多くの人が歯周病発症の危険性を持っているということです。

その一方、P.gingivalisに感染していても歯周病は予防できるということです。

18歳以降に歯周病マイクロビオームが完成しても、すぐには歯周病の症状は現れません。(不顕性感染)

感染を受けた人(宿主)の年齢が若いせいもあって、長年にわたって歯周組織の健康な状態が続くことが多いと思います。

しかし、歯周病菌は絶えず宿主の状態を観察しています。(日和見)

口腔清掃不良や加齢などの理由で、歯周組織と歯周病マイクロビオームとの拮抗バランスが崩れ共生関係が破綻したとき、歯周病は発症します。(日和見感染)

一方、生涯に亘って発症しない不顕性感染のままの人もいます。

(21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト )

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重篤な歯周病には、レッド・コンプレックスという病原性の高い細菌がいると言われています。

P.gingivalisは、このレッド・コンプレックスの一つです。

長らく、歯周病ではない人にはP.gingivalisがいなく、重度歯周病の人にはP.gingivalisが存在すると考えられてきました。

しかしながら今回、P.gingivalisは口腔常在菌であることが分かりました!

また、常在菌である以上、多くの人が歯周病発症の危険性を持っていること。

さらに、共生関係が崩れたときに、日和見感染として歯周病が発症することがわかりました。

個人的には、歯周病に関してのパラダイムシフトです。

もちろん、これはインプラント周囲炎についても関連する内容です。

バイオフィルムの質が問題

・バイオフィルムの質が問題

どんな種類の歯周病菌がいるかで、バイオフィルムの病原性が変わってきます。

悪玉歯周病菌のいないバイオフィルムは、大量に沈着していても病原性はあまり高くありません。

バイオフィルムの病原性は磨き残しの量よりも質(細菌種)で決まります。

(参考文献)
天野敦雄,岡賢二,村上信也(監修),ビジュアル 歯周病を科学する. 東京 : クインテセッセンス出版,2012.
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1960年ごろは、細菌検査法が発達していたなかったため、バイオフィルム中の細菌種には個人差があることはよくわかっていませんでした。
そのため、バイオフィルム中にどんな歯周病菌がいるかよりも、バイオフィルムの量が問題視されていました。
しかしながら、近年バイオフィルムの質に問題があると歯周病が重篤化すること分かってきました。
日々、歯科臨床を行っていると、バイオフィルム(プラーク)が大量に付着している割には歯周組織がほぼダメージを受けていない人がいる一方で、バイオフィルムがほとんど付着していないのに歯周組織がかなり破壊されている人がいることに気づかされます。
バイオフィルムの質で病原性が決定されるとすれば、これらはとても納得のいく現象であるといえます。
インプラント治療後のメンテナンスの在り方も考え直さなければならないかもしれません。

歯周病だと、関節リウマチのリスクが2.7倍上昇!

・近年、歯周病と関節リウマチとの関係が注目されている。
関節リウマチ患者の約8割の血液中には、抗シトルリン化蛋白抗体という、シトルリン化反応を経たタンパクを認識する抗体が検出されるが、この抗体はしばしば関節リウマチの発症に先立って検出される。
また、歯周病菌の一種であるポルフィロモナス菌がシトルリン化を起こす酵素を産生する細菌であることも報告されている。
そのため、歯周病の罹患が、この歯周病菌の持つシトルリン化酵素による過剰なシトルリン化を介して、抗CCP抗体の産生を引き起こし、関節リウマチの発症につながっているのではないかと考えられるようになったのだ。
そこで、京都大学医学部付属病院歯科口腔外科の別所教授ららのグループは、この相関関係を証明するために、研究を開始。
約1万人の健常人を対象とした疫学調査「ながはまコホート」のデータを用いて解析を実施。
その結果、健常人の約1.7%に、関節リウマチを発症していないにもかかわらず、抗CCP抗体の産生が確認され、この抗体の有無や力価と歯周病の臨床評価の指数が有意に相関することを見出した。
さらに、京大病院リウマチセンターを未治療、未診断で受診した72名の関節痛患者の歯周病状態を評価。
それらの患者がその後関節リウマチを発症するか、2年間の追跡調査を行った。
その結果、初診時に歯周病を持つ関節痛患者は、歯周病を持たない患者と比較して、関節リウマチと診断されるリスクが約2.7倍高くなることが判明。
研究グループは今後、歯周病が関節リウマチ発症に影響を及ぼすメカニズムが抗CCP抗体の誘導だけなのか、あるいはポルフィロモナス菌が特に関係しているかなどについては、更なる研究が必要としている。
(デンタリズム SUMMER 215 No.21)
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関節リウマチのリスクも歯周病の治療を徹底すると軽減させることができることが分かりました。
歯周病治療により、関節リウマチ、インプラント治療を遠ざけることが可能であるということです。

2015年9月20日

hori (10:45)

カテゴリ:インプラントと全身の健康

インプラント治療がほぼ痛みがない理由

・口腔に生じた傷は皮膚よりも治癒が早く、傷痕が残りにくいと言われている。
これまでそのメカニズムは解明されていなかったが、九州大学の大学院歯学研究科の城戸准教授らの発表によってその一端が明らかとなった。
研究グループは、カルシウム透過性の高い温度感受性イオンチャネルであるTRPV3に着目。
口腔粘膜の表面には上皮細胞が層をなしている。
その上皮細胞は体温の36度前後の温かさに反応するが、その温度の受容をTRPV3が担っていることを確認。
さらに、皮膚の培養角化細胞よりも口腔の上皮細胞の方がTRPV3の発現が強いことから、TRVV3が口腔の傷の治癒に関わっているのではないかと考えた。
マウスの歯を抜いて傷の治り具合を調べたところ、TRPV3遺伝子欠損は野生型マウスに比べ、治癒が遅れるという結果に。
また、TRPV3の欠損により上皮細胞の増殖が野生型に比べて劣っていることが、創傷治癒に関与していることが分かった。
さらに、上皮細胞の成長と増殖には上皮成長因子受容体(EGFR)が必要だが、TRPV3の欠損により活性化が抑えられていた。
研究グループは、「この結果により温度感受性チャネルが口腔内の創傷治癒の仕組みに関係していることがわかりました。TRPV3は口腔だけでなく、消化管粘膜や皮膚にも発現しており、火傷や口内炎などの治癒に、このTRPV3チャネルを標的とした温熱療法や薬剤の開発が期待されます」としている。
(デンタリズム SUMMER 215 No.21)
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感覚的には理解できるものの、皮膚よりお口の中の傷は治りが早い仕組みは不明でした。
そのメカニズムの一端を、九州大学の研究グループが明らかにしました。
それによると、TRPV3という温度感受性イオンチャネルが、口腔の傷の治癒の早さに関わっているとのことです。
抜歯即時インプラントの周囲歯肉の治癒が早いのも、インプラント治療がほぼ痛みがない治療方法であることも、このTRPV3が関与しているのでしょう。
さらなる研究を期待したいところです。

2015年9月15日

hori (16:27)

カテゴリ:インプラントについて

チーズで、虫歯予防?!

・WHOが虫歯になるリスクを減らす食べ物として、シュガーレスガムと並んでハードチーズをトップに挙げている。
アメリカの研究機関『Academy of General Dentistry』は12歳から15歳の子供を3つのグループに分け、各グループの歯の表面に付着している歯垢のpH値を測定。
それぞれのグループにチェダーチーズ、無糖ヨーグルト、牛乳を食べさせた。
その後、口をゆすぎ、歯の表面に付着している歯垢のpH値を10分後、20分後、30分後と測定。
その結果、ヨーグルトと牛乳を摂取した子供は食後のpH値が高くなった。
この研究機関によると、チーズはpH値を調整する唾液の分泌を促進するため、アルカリ性が強まるのではないかとのこと。
また、チーズに含まれるリン酸カルシウムがエナメル質の脱灰化を減少させ初期の虫歯の再石灰化を促すこと、タンパク質のカゼインがエナメル質を保護し、ミュータンス菌の付着を抑制するともいわれている。
食後にハードチーズを2-3口よく噛んで食べると、唾液にチーズの成分が溶け出して効果的とのことだ。
(デンタリズム SUMMER 215 No.21)
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チーズに虫歯予防効果があるとは意外です。
しかも、WHOがシュガーレスガムと同程度としているのにも注目です。

WaveOneのトランスポーテーション発生程度

・マイクロCTによる根管拡大・形成後に生じるトランスポーテーションおよび中心軸位置の三次元的解析
プロテーパーファイルとWaveOneファイルとの比較
比較検索した2種類のファイル(ファイル先端#25、テーパー0.08)ではトランスポーテーションと中心軸位置の発生程度に有意差はなく、Beruttiらが報告したWaveOneシステムで本来の根管形態がより維持されたとする結果と異なっていた。
本研究では、プラスティック製根管模型ではなく、ヒト抜去歯を使用したことが大きく影響したと考えられる。
今後の課題として、大きなサイズのファイル(ファイル先端#40、テーパー0.06)を使用した場合、トランスポーテーションおよび根管の中心軸位置偏位がどのような状況になるかを見極める研究が必要である。
(参考文献)
A Micro-computed Tomography-based Comparison of the Canal Transportation and Centering Ability of ProTaper Universal Rotary and WaveOne Reciprocating Files. McRay B, Cox TC, Cohenca N, Johnson JD, Paranjpe A. Quintessence international 2/2014,11-108.
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WaveOneシステムは以前、歯内療法の分野に鳴り物入りで登場しました。
このWaveOneシステムは、私も学会の展示ブース等でかなり食指動きましたが、いつものように『最新が最善とは限らない。』と考え、購入はしばし保留としていました。
WaveOneシステムのレシプロ反復回転運動は、根管形態を逸脱せず湾曲を追従し、ファイルも破折しにくいということがウリでしたが、従来品のProtaperファイルとトランスポーテーションおよび中心軸位置については、有意差がなかったようです。
これに限った話ではないのですが、業者が提示するエビデンスはいいこと尽くしで、その反対意見等は少し遅れてから出てきます。
業者と組んでいる研究者は、双方にとって都合の良いデータを"エビデンス"と称して、商品の売り込みをします。
インプラントの分野でも全く同じことが言えます。
注意が必要ですね。

2015年9月 5日

hori (15:56)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

オールオンフォーでも当然インプラント周囲炎のリスクはある。

・オランダにおいて無歯顎患者の下顎にインプラント支持のオーバーデンチャーが装着されている場合のインプラント周囲炎およびインプラント周囲粘膜炎の罹患率が分析された。
結果
患者単位でのインプラント周囲粘膜炎の罹患率は5年後では51.9%、10年後で57.0%であった。
また、インプラント周囲炎に関しては、5年後では16.9%、10年後で29.7%であった。
結論
完全無歯顎患者の場合でもインプラント周囲炎およびインプラント周囲粘膜炎は生じる可能性があり、更にその罹患率は高い。
考察
無歯顎の患者にインプラント治療を行った場合でも10年の間にインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎が高い頻度で起こりうるという結果は、天然歯の歯周治療を含めた患者の治療計画を立案する際に、重要な情報となろう。
すなわち、天然歯の影響がなくてもインプラント周囲炎が起こりうるので、天然歯を保存することがインプラントの予後に悪影響を与えるとは考えるべきではない。
(参考文献)
Meijer HJ, Raghoebar GM, de Waal YC, Vissink A. Incidence of peri-implant mucositis and peri-implantitis in edentulous patientients with an implant-retained mandibular overdenture during a 10-year follow up period. J Clin Periodontol 2014 ; 41 : 1178-1183.
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『無歯顎、すなわち歯が1本もない方に行ったインプラントは、インプラント周囲炎になるのだろうか?』という臨床的疑問を解決するために行われた研究報告です。
『歯周病の歯に歯周病菌が付着しているから、抜歯してインプラントをすれば、お口から歯周病菌がいなくなるので、安心である。』『歯周病菌がいなくなるので、インプラント周囲炎にもならない。』
とオールオンフォーを推奨する歯科医師から聞いたことがあり、その当時から個人的には疑問に感じていました。
今回の文献は、2-IODに関するデータですが、オールオンフォーでも同様の結果になることでしょう。
『歯科医師の仕事は歯を残すことである』という原点を私たちは忘れてはいけないのです。

2015年9月 1日

hori (09:38)

カテゴリ:インプラントオーバーデンチャー

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