2015年11月アーカイブ

インプラント治療における糖尿病からの負の連鎖

インプラント治療における糖尿病からの負の連鎖
1.心筋梗塞、脳梗塞→術中・術後出血に注意
2.脳卒中:術前に血圧測定、術中高血圧に注意
3.低血糖:発汗、動悸、手指の震え、空腹時の手術を避ける
4.骨粗鬆症(骨強度低下)→インプラント埋入時の初期固定不良、インプラント周囲炎に注意
5.腎障害→周術期の抗菌薬を減量、鎮痛薬はアセトアミノフェン
       →慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(骨密度低下)→骨粗鬆症
6.歯周病:術前から治療後、リコール中も歯周病の問題は継続
7.易感染性→術後感染、インプラント周囲炎:GBRやサイナスリフトなどの骨造成は避ける
(本音を教えて! GPが知りたい インプラント外科Q&A67 )
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糖尿病患者さんにインプラント治療を行う場合、そうではない場合よりも術者には注意が必要となります。
例えば、術前には腎障害による骨粗鬆症の有無を確認したり、歯周病の管理をよりしっかりと行う必要があります。
また治療計画を立てる際にも、サイナスリフトよりはソケットリフトの方が無難でしょうし、GBR併用のインプラント埋入よりはGBRとインプラント埋入を別々に行う方が良いかもしれません。
ただ、抜歯即時インプラントもGBR併用のインプラント埋入の一種かと思いますが、糖尿病患者さんに対しても良好な結果が得られているので、糖尿病の程度が軽いのであれば、抜歯とインプラント埋入を別々に行う必要はないと考えています。

2015年11月30日

hori (09:28)

カテゴリ:インプラントと糖尿病

フッ化物で、インプラント周囲炎?!

◎インプラント表面からのチタン溶出とその作用に関する新知見
・高い安定性を誇るチタンに対して、フッ素化合物は酸性環境において、チタン表面の不導体膜を破壊・腐食し、一部のチタンをイオン化するといわれている。
実際に臨床の現場においても、チタンアレルギーの症例報告が経年的に増加し、チタンの溶出を疑わせる。
また、口腔内のように日々の食物摂取、口腔ケアやプラークなどの滞留による急激なpHの変化も、チタンの耐久性に影響を与える可能性がある。
特に、耐う蝕向上性を目的とした局所歯面塗布剤に用いられるような高濃度または強酸性のフッ化物は、チタンを容易に腐食させると報告されている。
チタン表面の腐食による悪影響は何か?
以下の3つが問題点として挙げられる。
1. チタン表面に生じた腐食孔に応力が集中することにより、インプラント体破折のリスクが高まること。
2. インプラント体表面の粗造化に伴い、プラークがより付着しやすくなり炎症を惹起させやすくなる可能性があること。
3. チタンアレルギーを誘発する可能性があること。
ここで、われわれの最近の研究を紹介する。
口腔内で溶け出したチタンの所在を明らかにするため、われわれは純チタン製ミニインプラント体をラット口蓋部に埋入した。
埋入1週間後に、pH4.2、1000ppmfに調整したフッ化ナトリウム溶液をミニインプラント体粘膜貫通部に作用させた。
撤去したミニインプラント体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、フッ化ナトリム溶液に曝露されたインプラントチタン表面には、曝露されなかったもの(コントロール)と比較して多数の腐食孔が観察された。
それに伴って、インプラント周囲の歯肉組織からはコントロールの歯肉と比較して有意に高い濃度のチタンが検出された。
(中略)
天然歯とインプラント体は構造が異なるため、単純に比較することは危険であり、実際に骨吸収の様態もインプラント周囲炎とでは異なる。
溶出チタンがインプラント周囲炎の惹起や増悪因子となり得るかどうかを検討する必要がある。
そこで、インプラント周囲炎に罹患した組織からの検出報告も多いPorphyromonas gingivalis由来のLipopolysaccharide(以下、P.g-LPS)とチタンイオンは、歯周組織に対する共同作用を有すると仮説を立てて、ラット口蓋部にP.g-LPS溶液または/ およびチタンイオン溶液を注入して検討した。
特に骨吸収関連分子に着目し、単球の遊走促進作用があるC-C motif chemokine2 (以下、CCL2)、骨吸収を促進するReceptor activator of nuclear factor kappa-B ligand (以下、RANKL)、およびRANKLの働きを阻害するosteoprotegerin(以下、OPG)の発現変化をRNAおよびタンパク質レベルにおいて解析した。
(中略)
これまでわれわれは、培養細胞などを用いて低濃度のチタン(単独)が生体に与える影響は極めて少ないことを示してきた。
しかし、P.g-LPSとチタンイオンとの共同作用があることを動物実験で確認した。
そこで、チタンイオン(単独)が、P.g-LPSのレセプターに及ぼす影響について、免疫蛍光染色を用いて解析した。
その結果、チタンイオンが存在すると、P.g-LPのレセプターの一つであるToll-like receptor4(以下、TLR-4)の発現が増強されることが判明した。
これより、チタンイオンはP.g-LPSのレセプター発現を増強させることにより、インプラント周囲病変の病態を増悪させる可能性が示唆された。
(歯界展望 2015年 10月号 )
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チタンがフッ化物により腐食されることは以前から報告がありました。
今回、『外来刺激により溶出したチタンイオンはインプラント周囲組織に蓄積し、TLR-4の発現を増加させる。
その結果、P.g-LPSに対する周囲組織の反応を変化させ、骨吸収の病態を悪化させる可能性がある。』ということが明らかになりました。
この報告により、歯を守るために良かれと思い、患者さんが使用したフッ化物が、インプラントを腐食するだけでなく、インプラント周囲炎までも惹起する可能性があることが分かりました。
お口の中で、天然歯とインプラントが混在しているケースは少なくありませんが、どちらにとっても有益な薬剤の使用が望まれます。

2015年11月25日

hori (14:44)

カテゴリ:インプラント周囲炎

受動喫煙で歯周病リスクが3倍に

・受動喫煙で歯周病リスクが3倍に
タバコを吸わなくても受動喫煙の環境下にいる男性は、歯周病のリスクが高まる。
国立がん研究センターと東京医科歯科大学らが多目的コホート研究の喫煙状況に関するアンケート調査から明らかにした。
『Tobacco Induced Diseases』が2015年13巻に掲載。
(アポロニア21 2015年9月号 )
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喫煙は歯周病リスクを上昇させると言われています。
おそらくは喫煙者の多い職場だと、受動喫煙の機会が増えるのでしょう。
本人が喫煙をしていなくても、そのような環境な方は歯周病にかかりやすいということになります。
ということは、インプラント埋入手術前後であれば、骨結合の失敗に繋がったり、インプラント周囲炎にもかかりやすいということになります。
受動喫煙についても正しい理解が必要ということになりますね。

2015年11月20日

hori (12:15)

カテゴリ:インプラントと喫煙

2-IODの維持力を大きくしても、満足度向上には繋がらない。

・下顎の2インプラントオーバーデンチャー(2-IOD)装着者における装着後の維持力の大きさが患者満足度とQOLに与える影響
目的:本研究の目的は、下顎の2インプラントオーバーデンチャー装着者において、装着後の維持力の大きさが満足度とQOLに与える影響を明らかにすることである。
材料と方法:大学附属病院において治療した無歯顎症例で、下顎には2本のインプラントに単独のアタッチメントを装着したインプラントオーバーデンチャー、上顎はコンプリートデンチャーにより治療したものを対象とした。
オーバーデンチャーの維持にはボールまたはロケーターアタッチメントを使用した。
すべての患者に対してトルコ版のOral Healh Impact-14(OHIP-14)とビジュアルアナログスケール(VAS)形式の満足度の調査を実施した。
オーバーデンチャーの装着後の維持力の測定には特製の動的試験装置を用いた。
結果:本研究では55名の患者を対象とした。
装着後の維持力とVAS値との間には有意な相関はなかった。(P>0.05)。
結論:本臨床的研究の制約の中で、装着後に大きな維持力を有するインプラントオーバーデンチャーはより良好なQOLを提供するが、満足度には影響を与えないことが推定された。
(参考文献)
The influence of momentaly retention forces on patient satisfaction and quality of life of two-implant-retained mandibular overdenture wearers. Geckili O, Cilinger A, Erdongan O, Kesoglu AC, Bilmenoglu C, Ozdiler A, Bihan H, Int J Oral Maxillfac 2015 ; 30(2) : 397-402.
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当院でも、ロケーターアタッチメントを使用した2-インプラントオーバーデンチャーを提供しています。
ロケーターアタッチメントのパッケージには、維持力の異なる複数のリプレースメントメールが一つになっています。
ブルーが680g、ピンクが1361g、クリアが2268gという具合です。
維持力がもっとも弱いブルーでもそれなりの維持力があるという印象があったので、ブルーを使用してきました。
そんな中、今回紹介した文献でも、ロケーターアタッチメントの維持力が高いからといって、満足度には影響が与えないことが分かりました。
咀嚼する度に沈下する粘膜と全く沈下しないインプラントが共存するためには、患者さんの満足度に影響を与えない範囲で、インプラントへかかる力が弱い方が安心だと考えています。

2015年11月15日

hori (16:19)

カテゴリ:インプラントオーバーデンチャー

パンチパーマ型P.g菌で、44.44倍も歯周炎リスク上昇!

・パンチパーマ型のP.gは素早く歯周組織の細胞の中に侵入し、様々な傷害を細胞に与え歯周組織を破壊し歯周炎を進行させます。

2型のP.gに感染すると、非感染の場合と比べて44.44倍も歯周炎が発症する危険性が高くなります。

歯周病のリスク因子として有名な喫煙や糖尿に比べてかなり高い値です。



・電子顕微鏡で撮影したP.gの遺伝子型別細菌像では、線毛遺伝子の違いが、髪型の違いのように見えることが分かりました。

1型:直毛型、1b型:束毛型、2型:パンチパーマ型、3型剛毛型、4型:スキンヘッド型、5型:産毛型

(21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト )

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同じP.g菌でも、電子顕微鏡像では、線毛遺伝子の違いにより見え方が異なることが分かりました。

また、その形態によって分類すると、パンチパーマ型の2型P.g菌は、非感染の場合と比べて44.44倍も歯周炎が発症する危険性が高くなることもわかりました。

(ちなみに、重度喫煙で5.27倍、BMI30以上の肥満で8.60倍、糖尿病で2.32倍です。)

色々と気をつけているのに、歯周病が重症化している人は存在しますが、感染しているP.g菌の種類も特定できる時代となりました。

更なるエビデンスの蓄積を期待したいところです。

なぜ、歯周病は重症化しても、痛くないのか?

・「なぜ、歯周病は重症化しても、痛くないのか?」。答えはP.gingivalisなどが出す酪酸により神経突起が出なくなるため。
酪酸は慢性炎症を引き起こす原因となるほか、HIVなどのウイルスのクレマチンの機能に作用して活性化させるエピジェネティクスな働きもするとした。
また、加齢とともに十分機能しないT細胞が生じやすくなり、免疫機構の異常による自己破壊につながるが、歯周病はその初期の警告と説明した。
(日本病巣疾患研究会 東京2015年9月5日 日本大学歯学部落合邦康教授の講演)
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歯周病は重症化しても痛くないために、歯科医院への来院が遅れてしまう方がいます。
その答えは、歯周病菌が出す酪酸によって神経突起が出なくなるそうです。
インプラント周囲炎の場合も同様のような気がします。
こちらもやはり酪酸が関係しているのかもしれません。

2015年11月 5日

hori (09:43)

カテゴリ:インプラント周囲炎

歯周病に「なる人」。

・歯周病に「なる人」と「ならない人」の遺伝的要因の違い

侵入した細胞の中で、P.g菌は4パターンの動きを見せます。

P.g菌を細胞内で分解できる細胞をもつヒトと、そうではないヒトがおり、P.g 菌がどのパターンの動きを見せるかは個人差によると考えられています。

これが歯周病に「なる人」「ならない人」の遺伝的要因の違いの一つかもしれません。

感染に強いと考えられる歯周組織細胞はパターン1や2のP.g菌 を分解する細胞であり、歯周病が進行しやすい細胞はパターン4、ついでパターン3となります。

・歯周病に「なる人」

分解を受けなかったP.g菌は細胞リサイクリング経路(細胞内へ取り込まれた細胞膜上の分子を、再び細胞膜へ戻し再利用する経路)に乗り移り細胞外に脱出、そして周囲の別の細胞に再侵入します。

つまり、P.g菌 は一つの細胞内にとどまることなく、次から次へと侵入細胞を代え、細胞間を往来し、増殖し、感染拡大を続けるのです。

そのため、P.g菌の細胞侵入は歯周病の慢性化と再発に関わっています。

また細胞に侵入したP.g菌を排除するのは容易ではありません。

(21世紀のペリオドントロジー ダイジェスト )

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P.g菌は細胞内に侵入します。

細胞内に存在するP.g菌を排除するのは、当然のことながら困難であるため、細胞内でそれを分解できない人は、歯周病が重症化するタイプの人であるということになります。

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