2015年12月アーカイブ
インプラントの咬み合わせ調整
インプラントの咬み合わせ調整
1)咬頭嵌合位の咬合調整について
歯根膜をもつ天然歯は、弱い嚙み締めにより歯根膜内の歪みに由来する20-30μmの変位を示すのに対して、インプラントにはこの変位が存在せず、さらに大きな噛みしめ負荷が加わったときに天然歯と同様の顎骨歪みによる変位が存在する。
このように負荷に対する歯の変位については、天然歯はインプラントに対して常に20-30μmの正方向のバイアスを持っているうえ、この変位とともに歯の咬合接触感覚も獲得している。
これによって、噛みしめ負荷によって、天然歯に咬合接触のわずかな不調和があったとしても、歯根膜内の歯の変位によって咬合の調和状態を取り戻せる可能性が存在している。
一方のインプラントは、歯根膜をもたないので、弱い噛みしめ負荷による咬合接触調整機能がないと考えるべきである。
このため、天然歯に比較してより高い精度の咬合調整が求められる。
具体的には、強い噛みしめ時に残存天然歯と十分に調和のとれた、左右側歯列もバランスのとれた咬合接触をインプラント上部構造に正確に与えることが必要となる。
(補綴臨床テクニカルノート )
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20-30μm程度の咬み合わせの誤差であれば、天然歯は位置を変化させることにより、その状態に適応するわけですが、歯根膜がないインプラントは基本的には位置が変わりません。
基本的にという意味は、大きな噛みしめ負荷がかかった際に顎骨自体が歪むので、たわみの影響を大きく受けている歯槽骨に結合しているインプラントでは、若干咬合接触する部位が変化するということです。
また、顎骨のたわみにより咬合接触部位が変化するとすれば、咀嚼筋の中でも咬筋付近に位置する第二小臼歯あるいは第一大臼歯部に埋入されているインプラントには、他の部位以上に注意が必要ということになります。
根分岐部病変を残したままにしておいたらどうなるのだろうか。
根分岐部病変を残したままにしておいたらどうなるのだろうか。
Salviらは、慢性歯周炎または侵襲性歯周炎に対して包括的歯周治療を受けた患者の根分岐部病変を有する歯が、SPT期間(平均11.5年)中にどれくらい抜歯になったか、また様々な因子のうち、その因子がリスクと成り得るのかについて調べている。
その結果、歯周治療終了時点で1度の根分岐部病変が残存した場合、根分岐部がない場合と比較して、歯の喪失に関する統計学的有意差は認められなかった。
しかし、2度の根分岐部病変が残存した場合、歯の喪失リスクは2.80倍、3度では4.79倍になると報告している。
また、Salviらは複数のリスク因子が組み合わさった場合の喪失リスクも調べている。
非喫煙者で定期健診にきちんと応じている患者の根分岐部病変1度以下の歯を基準にすると、もし喫煙していたとしても、患者が定期健診に通っていた場合は根分岐部病変?度の存在はリスクにならないと報告している。
しかし、根分岐部病変2度の場合、非喫煙者が定期健診に来院していたとしても歯の喪失のリスクは2.6倍、更に喫煙者ではオッズ比で4.6倍になると報告している。
この研究結果から、定期的なリコールに応じてくれる患者であれば、根分岐部病変1度は許容範囲だが、2度の病変を残したままSPTへ移行した場合は、歯の喪失リスクを残したままになることを示唆している。
したがって、2度や3度の根分岐部病変をいかにして1度以下、つまり水平的なPDを3ミリ以下にしていくかが、根分岐部病変に対する治療の鍵になってくると考えられる。
(デンタルダイヤモンド 2015年11月号 )
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LindheとNymanの分類 (1975)では、根分岐部病変の状態によって、1度、2度、3度に分類しています。
1度 : 根分岐部にプローブ(探針)は入るが、歯の幅の1/3以内
2度 : 根分岐部にプローブ(探針)が1/3以上入るが、貫通はしない
3度 : 根分岐部にプローブ(探針)を入れると、プローブが貫通する
1度 : 根分岐部にプローブ(探針)は入るが、歯の幅の1/3以内
2度 : 根分岐部にプローブ(探針)が1/3以上入るが、貫通はしない
3度 : 根分岐部にプローブ(探針)を入れると、プローブが貫通する
今回のデータにより大臼歯の根分岐病変は、オーバートリートメントのリスクはありますが、それでも、より初期のうちに対処する方が最終的な歯の保存に繋がるということが分かります。
抜歯即時インプラントを確実に成功させるために。
抜歯窩が必ず骨性治癒するとは限らない!
抜歯後6か月以上経過した541例の抜歯窩をCT画像で評価したところ、47例(8.7%)で抜歯窩にX線透過像が認められた。
部位は下顎臼歯部が34例(72.4%)、上顎臼歯部が12例(25.5%)、上顎前歯部が1例(2.1%)であった。
摘出したX線透過像部の病理組織学的診断は、線維性治癒が27例(57.4%)、腐骨あるいは変性骨が17例(36.2%)、残根が3例(6.4%)であった。
原因としては、抜歯時に存在していた慢性硬化性骨炎あるいは上顎大臼歯口蓋根相当部の硬い骨など、抜歯窩周囲骨の血流不足が考えられた。
(本音を教えて! GPが知りたい インプラント外科Q&A67 )
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抜歯即時インプラントの肝は、抜歯窩の不良肉芽を完全に取り去り、血液のプールの中にいかにインプラントを落ち着かせるかにあります。
ディコルケーションを徹底しても、歯槽骨が硬いところには、血管が少ないために、特に下顎大臼歯部に抜歯窩が線維性に治癒したり、腐骨化したりする場合があるのでしょう。
今回のデータは、インプラントを前提とした抜歯ではないですが、抜歯即時インプラントの成功率を向上させるためにも、歯槽骨の硬いところではより注意深い抜歯窩の掻把が重要となるといえます。
日本人の口臭にがっかり
・日本人の口臭にがっかり
歯茎の健康を通じた体全体の健康を推進する団体「オーラルプロテクトコンソーシアム」が在日外国人100人(米国人60名、欧州40人)と、20-40代の日本人の男女600人にオーラルケアの実態に関するインターネット意識調査を実施した。
在日外国人に「日本人にオーラルケアを徹底してほしいか」と聞いたところ、「非常にそう思う」24%、「そう思う」48%を合わせて72%が、日本人に対して口臭予防に努めてほしいと回答している。
(アポロニア212015年12月号 )
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欧米のオーラルケアでは、プラークコントロールとブレスケアがあると聞きます。
キスやハグをする文化があるために、歯磨きだけではなく、口臭についても対策するようになったのでしょう。
一方日本では、口を手で隠す文化があったために、お口のコンディションが悪いと本人が考えている場合には、マスクをしたり、お話をするときに口を手で隠したりする方向に進んだのかもしれません。
それにしても文化の違いが大きいので、ブレスケアを行っている外国人が、それを行っていない日本人に対して口臭を感じるのは仕方がない面もあると思います。
というのも、ブレスケアを行い、自分を無臭化すると、逆に相手の口臭が気になるようになるからです。
また、今回のデータにはありませんが、正しいブレスケアを行っている日本人は少ないと考えられるので、日本人同士で相手の口臭が気になる割合はこれよりも低い値になると考えられます。
話は変わりますが、インプラント治療希望の方でも口臭を気にされている方がいます。
その多くは、歯が歯周病で膿が出ているケースで、その場合は確実に口臭の原因となっています。
当然のことながら、悪い歯を抜けば口臭レベルは低下します。
パッチテストの信頼度は低い?!
・パッチテストによる金属アレルギーの診断
日本接触皮膚炎学会で行われているスタンダードアレルゲンによる多施設調査では、ニッケル、コバルト、クロム、水銀、白金などの金属がパッチテスト陽性率の上位を占めているが、パッチテストの結果が、直接、対象となった皮膚疾患の原因を表しているわけではない。
パッチテストの条件によっては試薬の金属に対して刺激反応を呈する場合もあり、陽性所見を示した金属が必ずしもその個体にとってのアレルゲンとは限らない点にも注意するべきである。
刺激反応を除外するためには、貼付後7日目以降の反応を確認するか、希釈系列による確認パッチテストを行うことが望ましいが、実際には詳細な検討がないまま、その金属のアレルギーと診断されているケースがある。
つまり、金属パッチテストの結果からは、その個体の各種金属イオンに対する感作状態をある程度評価することはできるが、その結果だけでは陽性反応の得られた金属を回避ないし除去する必要があると断定まではできない。
・チタンアレルギーの確定診断はさらに難しい!
金属アレルギーの中でも、チタンアレルギーは近年増加傾向にあるという報告もあり、念のため、皮膚科への対診が必要である。
チタンアレルギーがあればインプラント治療は禁忌であるが、皮膚科で行われるチタンに関するパッチテストの信頼度を疑問視する(偽陽性の場合もある)意見もあり、必ずしも診断は容易ではない。
(本音を教えて! GPが知りたい インプラント外科Q&A67 )
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パッチテストで特定の金属に対して陽性であっても、必ずしもその金属がアレルゲンとは限らなく、またチタンアレルギーの確定診断は、他の金属よりもさらに難しいようで、偽陽性の可能性がないか慎重に検査を進めなければならないようです。
パッチテストの信頼性が揺らぎそうですね。
オープンコンタクトは、インプラントが悪いのか?
・智歯で前歯がずれるのか?
「前歯がずれるといけないので、親知らずを抜きましょう。」や「先生、前歯がずれてきたのですが、親知らずのせいですか?」などの言葉は、よく聞かれるが、智歯のない場合でも前歯の叢生を経験することがある。
2005年のSumitraらのレビューでは、智歯と前歯の叢生に関するエビデンスはないとされている。
その後、2013年のKarasawaらの報告まで「関係ない」とする報告ばかりである。
Harradineらは、智歯の抜歯と、下顎前歯の叢生の関係について、1998年にランダム化比較試験の結果を報告している。
その結果、非抜歯グループ・抜歯グループともに叢生指数は増加しており、歯列弓長径と左右犬歯間距離は減少していた。
両群間の比較では、歯列弓長径では、統計学的有意差をもって非抜歯グループの方が減少したが、叢生指数と左右犬歯間距離の変化量にグループ間に差がなかった。
著者らの結論として、叢生指数で統計学的有意差がなかったので、抜歯による叢生の影響はないとしている。
(抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実 )
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智歯の有無によらず、経時的に下顎前歯は叢生になるというエビデンスです。
インプラントとその前方歯の接触点が空いてくるという、いわゆるオープンコンタクトは、インプラント関連のトラブルとされていますが、経時的に叢生の程度が増大するのではあれば、トラブルの原因はインプラントではなく、天然歯であるということになります。
実際には現実的ではないのかもしれませんが、経時的に下顎前歯の叢生の程度が増大し、オープンコンタクトが出現するのであれば、咬み合わせを復元するために、インプラント治療後に歯列矯正を行う場合もあるかもしれません。
またインプラントは基本的に位置が不変であるにもかかわらず、天然歯は経時的に位置を変化させてくるわけですから、その両方が共存するように、定期的な咬み合わせの調整は少なくても必須事項となるのではないでしょうか。