胃の粘膜に感染し、胃潰瘍や胃がんを起こすヘリコバクター・ピロリ菌の病原たんぱく質が、血液により全身に運ばれることが分かった。京都大と東京大、神戸大などの研究チームがピロリ菌に感染した胃がん患者の血液を調べて発見し、9日までに英科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。
ピロリ菌は心臓や血液、神経などの病気の原因にもなっている可能性が指摘されていたが、その仕組みの一部が解明された。胃・十二指腸潰瘍や胃がんなどの場合、薬による除菌治療が行われているが、ピロリ菌との関係が疑われる他の病気についても除菌が有効かもしれないという。
細胞はさまざまなたんぱく質やリボ核酸(RNA)などを含む小胞(エクソソーム)を分泌し、他の細胞とやりとりしている。京都大の秋吉一成教授らは、胃がん患者の血清から小胞を回収して分析し、ピロリ菌の病原たんぱく質「CagA」を含む小胞を見つけた。
ピロリ菌感染との関係が認められる消化器以外の病気は、血液の血小板が減って出血しやすくなる難病「特発性血小板減少性紫斑病」があり、厚生労働省が除菌治療に健康保険を適用している。
(時事通信 1月9日(土)18時26分配信 )
歯周病菌の一つであるPg菌は、鉄分を好むので、血液中に含まれる鉄分を求めて侵入し、血小板の細胞の中に入り込んで全身をまわります。
この血小板が血管の中で引っかかると、Pg菌が出す毒素によって動脈硬化が促進され、その結果、狭心症や心筋梗塞が起こると考えられます。
また、心臓の内膜で歯周病菌が増殖すると、細菌性心内膜炎を引き起こすこともわかっています。
細菌性心内膜炎は、心不全や脳梗塞、脳動脈瘤などを起こしやすく、生命の危険を招く病気です。
(医者と歯医者の本音のアドバイス より)
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歯周病も胃がんの原因の一つとされるピロリ菌も粘膜の潰瘍の形成に関与し、血流に侵入します。
歯周病菌やピロリ菌は血管内で血栓の形成を促すために、心臓病を惹起する場合があります。
ピロリ菌は胃がんの原因の一つであると同時に、心臓病の原因にもなることが今回の報告で明らかになりましたが、歯周病も単純に歯を失うだけでなく、心臓病の原因となるという意味では、成り立ちは非常に似ていると言えるかと思います。
一方、インプラント周囲炎では、関与している細菌が歯周病菌の場合と似通っていると聞きます。
歯周病で歯を失いインプラントが必要にならないように、またご自身の心臓病のリスクを上昇させないためにも、歯周病の治療・予防は重要であると言えるでしょう。
2016年1月30日
hori (05:15)
カテゴリ:インプラントが必要な状態にならないために必要なこと
・連続するインプラントの間に天然歯様の乳頭組織を獲得するためには、インプラント間にプラットフォームより高い位置に硬組織を増大・維持しなければならない。
そのためには、垂直的なGBRやインプラント間距離を3ミリ以上保つことも重要であるが、隣接する歯根膜が存在しない多数歯欠損インプラント症例では、補綴コンポーネントのインプラントレベルからの着脱回数を減らすことも考慮するべきかもしれない。
なぜならば着脱による周囲組織侵襲により辺縁骨吸収を惹起させ、審美的には大きな影響を与える可能性があるからである。
前歯部多数歯欠損の審美インプラント症例では、その意味からも着脱回数が多くなるスクリュー固定タイプの上部構造は避けた方が賢明であろう。
もう一つの要因はインプラントによって支えられる上部構造のゆるみは単独歯よりも生じにくいと言えよう。
(参考文献)
Degidi M, Nardi D, Piattelli A. One abutment at one time: non-removal of an immediate abutment and its effect on bone hearing around subcrestal tapered implants. Clin Oral Implants Res. 2011; 22(11): 1303-1307.
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インプラント周囲炎が頻繁に話題に上るようになって久しいですが、インプラント周囲のメンテナンスとして、定期的に上部構造を取り外し清掃されている方もおられるかと思います。
汚れているよりは清潔な方が当然のことながら良いわけですが、上部構造の度重なる着脱により、インプラント周囲組織が侵襲を受け、骨レベルが低下するということが近年明らかになってきています。
特に前歯部インプラントではセメント固定で対応し、何かトラブルがあった場合には、上部構造に穴をあけ、そこからスクリュー固定として対処する方法が主流になる可能性があります。
仮着材を利用してのセメント固定でも、上部構造を外したいときには中々外れないことが少なくないからです。
2016年1月25日
hori (14:39)
カテゴリ:スクリューリテインとセメントリテイン
・チンパンジーには虫歯も歯周病も起こらない。
原始的なチンパンジーの食生活と近代的な人間とのそれとで、どこが決定的に違うかというと、「加熱したものを食べているかどうか」です。
非加熱のデンプンはβデンプンですが、加熱するとαデンプンに変わります。
柔らかくなったαデンプンは唾液のアミラーゼ酵素で分解されやすくなりますが、それによって多糖類が二糖類の麦芽糖に分解されるために、悪玉菌のエサになってしまいます。
・虫歯をその原因から分けると、歯の表面のエナメル質の虫歯は、虫歯菌に感染して、砂糖でその数を増やした状態ということになる。
一方の高齢者の根面齲蝕は、長年咬み続けた米からできているということなのです。
・オメガ3脂肪酸には炎症を抑える働きがあり、血管の健康だけでなく、歯周病自体も改善してくれます。
抗炎症反応を持つ脂肪酸なのです。
(白米が健康寿命を縮める より)
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虫歯や歯周病を食の観点から予防するというのは、医療の本質かと考えています。
高齢になって根面齲蝕を可能な限り回避するためにも、米は取り過ぎない方が良いのかもしれません。
日本人が外国人と比較して根面齲蝕が多いという報告は個人的には聞いたことないので、パンを主食とする外国人高齢者でも同様に根面齲蝕が発生していると考えられます。
そうなると、糖質を主体とした食事ではなく、糖質を少しでも制限した食事の方が、虫歯や歯周病予防になるといえるでしょう。
オメガ3脂肪酸は、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、などの魚介類に多く含まれるそうですが、そのようなものを多く摂取することで、歯周病予防にも効果的ということになるようです。
インプラントは虫歯になることはありませんが、歯周病に似たインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎になるリスクはあります。
歯周病予防にオメガ3脂肪酸が効果なのであれば、インプラント周囲炎予防にも効果的であるといえます。
インプラント治療受けた患者さんは、積極的にオメガ3脂肪酸を摂りましょう。
2016年1月20日
hori (10:33)
カテゴリ:インプラントが必要な状態にならないために必要なこと
・垂直性歯根破折を生じた歯内治療歯の評価
上顎第二小臼歯(27.2%)と下顎大臼歯近心根(24%)は、もっとも破折を生じた歯であった。
これらの破折歯67.4%において、孤立した歯周ポケットが頬側に存在し、34.8%において、瘻孔は根尖部よりも歯肉炎付近で頻繁に出現した。
半数以上の症例で、根の側方のエックス線透過像を認めるか、あるいは根の側方と根尖部の両方にエックス線透過像を認めた。
一般開業医は、本調査の破折歯92%のうち1/3のみ、垂直性歯根破折と正確に診断できた。
(参考文献)
Diagnosis and possible causes of vertical root fractures. Meister F Jr, Lomme TJ, Gerstein H. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 1980 ; 49(33) : 243-253.
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垂直性歯根破折が原因して、インプラント治療を希望される方は少なくありません。
今回のデータからも、歯根破折はいわゆるパワーゾーンの部位に発生しているようです。
正常咬合であれば、上顎第二小臼歯と下顎第一大臼歯の近心辺縁隆線部が咬合しますから、この部分に破折が生じるのは理解しやすいです。
一方、同じく正常咬合であれば、上顎第一大臼歯の中央窩と下顎第一大臼歯遠心根部も咬合しますが、この部分に破折がそれほど生じていないのは、咬合部位が歯の重心に近い部位同士であることが考えられます。
また、下顎第一大臼歯の近心根と遠心根では、近心根の方が湾曲した形態をしていることが多いために、比較的円形をしている遠心根よりも破折が生じやすいのかもしれません。
次に、破折歯に生じた瘻孔の位置を考察すると、瘻孔は歯槽骨の厚みが相対的に薄いことが多い頬側歯肉縁部に発生することが多かったと推測できます。
最後に、歯根破折歯を一般開業医が正確に診断できる割合が3割程度ということですが、予想通り低いですね。
歯科業界をあげて、歯根破折の診査・診断に力を入れていかなくてはならないでしょう。
2016年1月15日
hori (08:54)
カテゴリ:インプラントと歯内療法
・根尖病巣を有する根管充填歯根管の微生物
もっともよく単離された細菌の種類は、Peptostreptococcusで、その細菌種は臨床症状と関連していた(P<0.01)。
統計学的に有意な関係は、(a)痛みあるいは痛みの既往歴と複数菌感染あるいは好気性菌との間(P<0.05)に、(b)打診痛と細菌P.intermedia/P.nigrescensとの間(P<0.05)に、(c)瘻孔とStreptococcus spp.(P<0.01)あるいはActinomyces spp.との間(P<0.01)に、そして(d)歯冠部が封鎖されていない歯とStreptococcus spp.(P<0.01)あるいはCandida spp.との間(P<0.01)に認められた。
(参考文献)
Microorganisms from canals of root-filled teeth with periapical lesions. Pinheiro ET, Gomes BP, Ferraz CC, Sousa EL, Teixeira FB, Souza-Fiho FJ. Int Endod J 2003 ; 36(1) : 1-11.
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根尖病巣を有する根管充填歯根管内の微生物の種類により、臨床症状と関連していたことを示すエビデンスです。
響くような痛みがあれば、この微生物が多いとか、瘻孔がある場合にはこの微生物が多いということが明らかになったということです。
このような関連性は個人的には興味があるのですが、打診痛があろうと瘻孔があろうと、根尖病巣を持つ歯牙に対して行う処置の第一選択は根管治療であることには変わりありません。
ただ、原因となる微生物が予め分かれば、その対処方法はシンプルになるはずですし、治療成績も向上するはずです。
今後の報告に期待したいところです。
2016年1月10日
hori (16:44)
カテゴリ:インプラントと歯内療法
・p gingivalisに代表される歯周病原因菌が作る短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸、吉草酸)のうち、n-酪酸によって神経突起が萎縮をして痛覚が阻害されるために、歯周病はあまり痛みを感じない一因となっている。
痛覚は生体防御機構の一つです。
痛覚が生じる部位には好中球などが集まって免疫システムが作動するのですが、痛覚が阻害されるとそれらの機構の働きが低下し、病態が進行していきます。
・酪酸は、低濃度であれば細胞の発育を促進する働きがあります。
腸管では酪酸が「善玉」と認識されているのは、腸管を保護する多量の粘液により酪酸の濃度が薄められるためです。
歯周ポケットの中で、歯周病原菌が生み出す酪酸は薄められることなく、蓄積・濃縮化していきます。
問題なのが高濃度の酪酸で、微生物の再活性化や細胞死の誘導により、全身に重大な疾患をもたらしえるという為害作用を持っています。
歯周病原菌は多量の酪酸を産生し、全身に影響を及ぼすのです。
(アポロニア212015年12月号 )
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以前、重い歯周病でもご本人はあまり痛みを感じていなく、それゆえに来院が遅れてしまう場合があるという話を紹介しました。
そのメカニズムは、歯周病菌が代謝の際に出す酪酸が、痛覚の発現を阻害するとのことでした。
酪酸は、腸内では粘液により薄められることで身体にとってプラスに働く一方で、歯周ポケット内では蓄積・濃縮化されることが分かりました。
体内のあらゆる粘膜は、粘液によって濡れており、刺激が与えられるとその部位の粘液量は増大すると聞きます。
ということは、腸内では消化された食べ物が結構な頻度で通過するために、粘液が多量に分泌される一方で、歯周ポケットでは歯周病原菌が出す毒素がもたらす刺激は、それとは相対的に弱く、身体が刺激として感知しないために、粘液が分泌されない。
そしてその結果、酪酸濃度が高まり、細胞死を誘導することになり、歯周病では状態が悪化するとともに慢性化しやすいと推測されます。
インプラント周囲炎の場合も同様に状態が悪くても、ご本人は痛みを感じていないように感じます。
それについてのメカニズムは、歯周病とインプラントで同様なのかもしれません。
2016年1月 1日
hori (16:35)
カテゴリ:インプラント周囲炎