2016年8月アーカイブ

7.5%の力で咬み続けられる時間は、2.5時間。

・最大咬合力の40%の力で咬み続けられる時間は1.5分程度であるのに対して、7.5%の力で咬み続けられる時間は、その100倍の約2.5時間であると言われている。
(参考文献)
Farella M, Soneda K, Vilmann A, Thomsen CE, Bakke M. Jaw muscle soreness after tooth-clenching depends on force level. J Dent Res 2010 ; 89:717-721.
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天然歯で噛み続けて問題が生じる部位としては、顎顔面部の筋肉、顎関節周囲の軟組織、歯牙、歯根膜、歯槽骨などがあるかと思います。
インプラントでは、歯根膜がないので、顎顔面部の筋肉、顎関節周囲の軟組織、歯牙、歯槽骨となります。
天然歯では、過大な咬合力がかかった場合、歯が移動してあまり咬まない位置に移動する場合がありますが、インプラントでは過大な力を受けても位置偏位が生じないために、天然歯よりも破壊されやすいといえます。
またインプラント周囲にはない歯根膜には、圧力を感じ取る仕組みがあるので、こちらも天然歯の方が有利です。
一度何らかの理由で歯を失った方に、インプラント治療を行うことはさほど難しいことではありません。
天然歯よりも破壊されやすいインプラントを長期に亘って守っていくことの方がはるかに難しいといえます。
やはり、定期的にインプラントをチェックして、ダメージが大きくならないようにすることが必要であるといえるでしょう。

2016年8月30日

hori (14:49)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

インプラントで、高齢者の引きこもりを回避可能か。

歯が少ない高齢者、引きこもりリスク増 東北大など調査

臨床 2016年6月29日 (水)配信朝日新聞

 歯が少なく、入れ歯を使わない高齢者ほど引きこもり状態になるリスクが高いとの調査結果を東北大などの研究チームが28日発表した。歯の健康状態が悪いと、人との会話や食事をためらいがちになり、外出機会が減ってしまう可能性があるという。

 愛知県内に住む65歳以上の4390人を、自分の歯が20本以上残っている人、19本以下で入れ歯を使っている人、19本以下で使っていない人の3グループごとに4年間追跡した。週1回も外出しない引きこもり状態になった割合は、歯が20本以上の人では4・4%だったのに対し、19本以下の入れ歯使用では8・8%、入れ歯を使わないと9・7%だった。65-74歳の場合、歯が19本以下で入れ歯を使わない人が引きこもり状態になるリスクは、年齢や所得などを調整すると、20本以上の人の1・78倍になった。

 東北大の相田潤准教授(歯科公衆衛生学)は「高齢者にとっては歯が少なく、入れ歯を使わないことが引きこもり状態へのリスクを高める。健康な歯を保つことで防止につながる可能性もある」と話している。(川村剛志)

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歯が少ない高齢者では、引きこもり状態へのリスクが高まることが明らかになりました。
『自分の歯が20本以上残っている人』、『19本以下で入れ歯を使っている人』、『19本以下で使っていない人』の3グループで、週1回も外出しない引きこもり状態になった割合は、それぞれ4・4%、8・8%、9・7%という結果でした。
この結果で少し意外だったのは、『19本以下で入れ歯を使っている人』と『19本以下で使っていない人』の数字の差が小さいことです。
これは入れ歯を使用していてもしなくても、お口の中の歯の数が少ない時点で、引きこもり状態になる方が多いということではないでしょうか。
これを受けて、私たち歯科医師はインプラント治療により、高齢者の引きこもり状態を上手く回避させることができる可能性があります。

2016年8月25日

hori (14:45)

カテゴリ:インプラントと全身の健康

ED男性は重度慢性歯周炎になりやすい?!

・ED(勃起不全)と歯周病の関連が注目されています。
2012年に「米国泌尿器科学会年次集会」で発表された報告を紹介しましょう。
台北医学大学の研究チームが「EDの男性3万3000人」と「EDではない男性16万2000人」を対象に5年に及ぶ追跡研究を行ったところ、ED群に占める慢性歯周炎の人の割合は27%、EDではない群は9%と大きな差があることが分かりました。
またトルコで行われた研究でも、ED患者(30-40歳の男性80名)の53%が「重度慢性歯周炎」でしたが、EDではない人(同82%)では23%で、明らかに少なかったという結果が出ています。
陰茎の内部に何らかの理由で血液がスムーズに流れないと勃起できなくなります。
こうした血行障害を起こす原因にはストレスなどさまざまなものがありますが、血管内皮細胞の機能が低下するとEDになりやすいことが分かっています。
歯周病は言ってみれば、ずっと炎症が続いている状態ですから、血液を通して血管内皮細胞を傷つけている可能性があるのです。
(日本人はこうして歯を失っていく )
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EDの男性は、重度慢性歯周炎である割合は高いというエビデンスです。
血管内皮細胞の機能が低下するとEDになりやすいこと。
菌血症を伴う歯周病であれば、血管内に歯周病菌は存在するために、血管内皮細胞を傷つけている可能性があること。
これらを考えると、EDの男性は重度慢性歯周炎になりやすいといえるのかもしれません。
歯科が、耳鼻科や内科やリウマチ科などと連携するというのは珍しくありませんが、今度は泌尿器科と連携する時代がくることでしょう。

2016年8月20日

hori (13:59)

カテゴリ:インプラントと全身の健康

ポストの長さそのものが、歯根破折の要因ではない。

・垂直破折した歯根の歯根長に対するポスト長の比を、デンタルX線で計測した結果、歯頸部破折ではポスト長の比が2/10-4/10が最も多かったが、根尖部破折は髄腔のみにコアがあってポストがない歯が最も多く、ポストが長くなるにしたがって垂直破折症例数は減少した。
この結果から、根尖部破折のリスクはポストが長いと低下する可能性が示唆された。
ポストが長くなると歯根破折のリスクが高くなるという印象が一部にあるようだが、ポストを長くするために歯質の切削量が多くなること、あるいはポストが長くなるとポストホール先端部まで乾燥や歯面処理が不確実になって接着不良が起こりやすくなることが問題で、ポストの長さそのものが要因ではないと考えられる。
以上のことから、根尖からの破折に対しては、ポストを根尖部まで接着することが有効な対策と考えている。
(補綴装置及び歯の延命のための最新治療指針 )
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これまで歯根破折はメタルコア、特に太くて長い金属製のメタルコアが原因であるかのように、様々な書籍等では散見されましたが、ポストの長さそのものが歯根破折の要因ではないことが分かりました。
根尖からの破折は、歯質の切削量が多くならないようにすること、ポストを根尖部まできっちり接着すること、ある程度ポストの長さを長めにすること等により対策できる可能性があります。
一つ目の歯質の切削量については、レジンコアよりもメタルコアの方が多い傾向にあると思います。
二つ目の接着については、間接法によるセメンティングの方が無難でしょう。
以前紹介した記事の中に、『デュアルキュア型レジンの硬化時間は、マニュアル通りに行うと硬化が不十分であることが多い。』というものがありました。
これは、一見簡単にできるように見えるものの中には、落とし穴があることの一例ではないでしょうか。
そして三つ目のポストの長さについては、学生時代にメタルポストの適正な長さは根長の2/3程度と習ったと記憶しているのですが、今回の研究報告でも、ポストの長さが6/10以上の場合がもっとも良い結果が出ています。
また有意差の有無まではわかりませんが、歯髄未処置の群と6/10の群とで、歯頸部破折と根尖部破折・完全破折の全てで、ほぼ同等の結果がでています。
このデータを元に考えると、『神経を取ったから歯が弱くなったというのは間違いである。』といっても過言ではないように感じます。

根尖部垂直性歯根破折は、臼歯部で生じやすい。

・垂直性歯根破折がどの方向に生じてるのかを調査したところ、歯頸部破折では77歯のうち29歯が近遠心方向、43歯が頬舌方向、5歯がその他であり、いずれの歯種においても特定の方向に破折する傾向は見られなかった。
一方、根尖部破折では90歯のうち78歯と、約9割が頬舌方向に破折していた。
歯頸部破折と根尖部破折では破折方向が大きく異なっていたことは、破折のメカニズムが違うことを示唆するものである。
・根尖部破折が前歯部で少ないこと、破折方向が頬舌に多発していることから、破折のメカニズムとして次の仮説を考えている。
まず、咬合力が加わって歯が沈下すると、歯根膜が歯を歯冠側方向に引っ張る。
この際、歯根は歯冠側方向だけでなく歯槽骨に向かって外側方向にも引っぱられることになり、歯根が扁平であれば長軸方向より短軸方向に強く引っ張られる。
人の歯の断面はすべての歯種で頬舌方向に長いので、根尖部破折は頬舌方向に生じやすいものではないかと考えている。
(補綴装置及び歯の延命のための最新治療指針 )
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根尖部の垂直性歯根破折は、前歯よりは臼歯部で生じやすいこと。
歯根形態が扁平なものの方が、長軸方向と比較して、短軸方向により強く引っ張られれるために、根尖部の垂直性歯根破折は頬舌的に生じる傾向があること。
がわかりました。
根尖部の垂直性歯根破折と根尖性歯周炎の鑑別が特に大臼歯部では困難でしょうから、通常の歯内療法を行っても治癒する傾向がなければ、外科的歯内療法を選択するのもよいかと思います。
しかし、天然歯が一度咬合力で破折したものをMTA等で封鎖し、炎症が一旦は落ち着いても、同じ咬合力がかかるのであれば、また破折するのでないでしょうか。
そうなると、多くの歯科医師は自分が行った外科的歯内療法を行った歯を守るために、意図的に咬まない低い歯を入れることでしょう。
そして、咬み合わせの平面は歪んでいき、根尖部の垂直性歯根破折は他の歯で生じることになるのです。
歯を残すことは歯科医師の使命であるはずです。
でも、外科的歯内療法よりもインプラント治療の方が患者さんにとって適当であるというケースは少なくないように感じます。

2016年8月10日

hori (08:26)

カテゴリ:インプラントと歯内療法

緑内障と永久歯の先天欠如に関連性あり。

・家族性大腸ポリポーシスは、遺伝性に大腸がんを発症する家族性腫瘍の一つで、患者の17%に過剰歯があると報告されている。
この病気の責任遺伝子であるAPC遺伝子は、Wntシグナル系を介して過剰歯の発生にも関与していることが報告されており、詳細な分岐機構が解明されれば、新たな医科歯科連携の橋渡しになるかもしれない。
もう一つの例は永久歯の先欠だ。
最近われわれは三世代にわたる先欠の遺伝子検査を行った。
当初はこれまでに報告されているすべての責任遺伝子(MSX1、PAX9、WNT10Aなど)の変異を検査したが、異常が見つからず、最終的にエクソーム解析という方法ですべての遺伝子を網羅的に解析した。
その結果、PITX2という遺伝子に変異を見出した。
この遺伝子は永久歯の先欠と眼の虹彩の低形成を主症状とするIris hypoplasiaという非常にまれな病気の原因遺伝子であった。
虹彩の低形成は、眼圧の上昇につながり緑内障を発症する可能性がある。
(ザ・クインテッセンス 2016年6月号 )
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最近の遺伝子検査により、家族性大腸ポリポーシス患者の17%に過剰歯があること、緑内障発症のリスクにつながる虹彩の低形成と永久歯の先天欠如が遺伝子的に同時に起きることが明らかになりました。
インプラント治療を希望される方の中には、虫歯や歯周病ではなく、永久歯の先天欠如が原因となっている方は、近年増加傾向にあります。
また多くの場合、歯列不正も伴っていることが多いので、歯列矯正・インプラント治療・補綴(被せ)治療等の総合治療が必要となります。
インプラント治療や歯列矯正、補綴治療は、より良い咬み合わせを構築するための"手段"に過ぎないのです。

2016年8月 5日

hori (16:32)

カテゴリ:インプラントと歯列矯正

歯根破折による歯髄炎

・歯根破折の発生部位に関する報告として、Sugiyaらは302ケースについて報告している。
歯頸部から30.9%、根中央部は1.6%、根尖部が32.2%、不明が35.1%であった。
この報告から約半数は根尖からの発症であることが考えられる。
症状が発症しても破折線が小さいうちは、炎症やX線像が一時的には治癒することが考えられる。
さらに破折が進行した際に再発してくるのではなかろうか。
つまり、根尖性歯周組織炎と診断したケースの中に垂直性歯根破折が少なからず含まれており、逆もまた然りであると考えられる。
本調査では、抜髄からの年数に関係なく50歳以降は症状が発現するケースが多くなっており、同様の傾向が横浜歯科臨床座談会の報告でも見られた。
このことは、歯の硬組織そのものの寿命は50年程度であることを示しているものと思われる。
また、抜髄せざるを得なかったケースの中には、破折から歯髄炎に至ったものもあるのではないだろうか。
(歯界展望 2016年6月号 )
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歯根破折の約半数が根尖からの発症であることが明らかになりました。
そうなると、いくらマイクロスコープで歯の内部を詳細に眺めたとしても、歯根の湾曲程度が大きければ、根尖由来の初期の垂直性歯根破折の確定診断は困難であると言わざるを得ません。
また、『根尖性歯周組織炎と診断したケースの中に垂直性歯根破折が少なからず含まれており、逆もまた然りであると考えられる。』ということからも、より確実な診断をするために、プラスアルファの診査が今後必要になると考えられます。
さらに、『抜髄からの年数に関係なく50歳以降は症状が発現するケースが多くなっており、歯の硬組織そのものの寿命は50年程度であることを示しているものと考えられる。』というのも非常に興味深いと考えています。
現代人の歯は、力が原因して歯が破壊されているものがあること、そしてその対処法はまだ確実ではないと言わざるを得ません。

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