2016年9月アーカイブ

統一されたインプラント周囲炎の診断基準が存在しない?!

・診断基準の違いによって生じるインプラント周囲炎発症率の差
インプラントレベル 最大値36.60% 最小値5.40%
患者レベル    最大値47.10%  最小値11.30%
・X線写真でインプラント周囲骨の吸収が認められるからといって、それが即インプラント周囲炎/感染の存在を意味するものではないということである。
このような骨吸収にインプラント周囲粘膜炎が併発すると、インプラント周囲炎と誤診される可能性が指摘されている。
そこで、インプラント周囲炎の診断基準が重要となるのだが、残念ながら世界的に統一された診断基準は存在しない。
文献で報告されているインプラント周囲炎の発症率に大きなばらつきがあることは知られているが、その大きな原因の一つは研究ごとに異なる診断基準である。
同一集団でもインプラント周囲炎の診断基準の設定によってインプラント周囲炎の発症率が大きく変動することが報告されている。
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2016年 VOL.23 4 )
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世界的に統一されたインプラント周囲炎の診断基準が存在しないがゆえに、診断基準の違いによってインプラント周囲炎の発症率が、それぞれの研究報告によって大きな差があることが分かりました。
骨吸収があり、インプラント周囲に炎症が認められれば、少なくても日本では、インプラント周囲炎と診断されるケースが多いのではないでしょうか。
早い時期の対処が期待されます。

2016年9月30日

hori (14:44)

カテゴリ:インプラント周囲炎

重度歯周病患者の口腔内でもレッドコンプレックスの割合は少ない。

・口腔内には500-700種類もの細菌が存在しており、これをSocranskyらは歯周病への関連性の高い順にピラミッド状に分類した。
その頂点のレッドコンプレックス(P.gingivalis, T.forsythia, T.denticola)の3菌種は、歯周ポケットから高頻度で検出され、強い病原性を発揮するといわれる。
サンプリング数を最深部の歯周ポケットからペーパーポイントで行った62名(男性24名、女性38名)の菌比率は、A.a : 0.01%、P.intermedia : 0.168%、P.g. : 1.423%、T.forsythia : 1.264%、T.denticola : 0.133%と歯周ポケット内総菌数の3%に過ぎなかった。
したがって、プラークコントロールの第一目的は、口腔内の総菌数を減らすことにあることが分かった。
(日本歯科評論 2016年8月号 )
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歯周病が進行している患者では、ほとんどレッドコンプレックスが検出されてはいるが、細菌比率でみると歯周病病原性の高い細菌は全体の1-2%に過ぎないというエビデンスです。
やはり、口腔内の細菌の総数を減らすために、プラークコントロールを徹底することが肝要ということになります。

2016年9月25日

hori (17:15)

カテゴリ:歯周病の悩み

ブラッシングのみでは口腔内細菌が約75%も残る!

・確かにプラークの付着部位は歯の周囲で、歯肉縁上と縁下にプラークが付着する。
しかし、口腔内細菌は歯や歯肉周囲のみに棲息しているわけではない。
細菌コロニーの分布をみると、唾液、舌や粘膜、付着歯肉にかなり付着しており、相対的な濃度でみると、これらの部位の総和は歯肉縁上・縁下よりも多く、口腔内全体が細菌の貯蔵庫となっていることが分かる。ブラッシングのみでは口腔内細菌が約75%も残るといわれ、唾液の自浄作用を期待したといっても、これらの部位の清掃を忘れているといっても過言ではない。
(日本歯科評論 2016年8月号 )
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この文献では、歯周病原因菌としてP.g菌とA.a菌に着目し、口腔内の様々な部位で、その細菌数を比較しています。
その結果、プラーク、唾液、舌、粘膜、歯肉のすべてにこれらの細菌は存在していることが明らかになりました。
また、確かに細菌は歯にも付着しているわけですが、歯に付着している細菌数よりも、唾液・舌・粘膜・歯肉に付着している細菌数の方がはるかに多いことも明らかになりました。
これまで歯磨き時のプラークの取り残しが、歯科での虫歯や歯周病などの問題を惹起すると考えられてきましたが、仮に歯に付着したプラークを完全に除去しても、それ以外の部分から細菌が歯に再度付着し、繁殖し始めたのなら、歯磨き前の状態に戻ります。
このような背景があるために、寝る前に歯磨きをきちんとしたにもかかわらず、起床時の口腔内の細菌数は一日のうちで最大となるのです。
起床時の口腔内細菌数は、大便10gの細菌数に匹敵するという話があるくらいです。
また、個人的な見解にはなりますが、口腔内の歯以外の部分の細菌もブラッシングで除去することも、ある程度意味はあるかと思いますが、それよりも歯に付着したバイオフィルムが厚みを増して、細菌の出す毒素が強力になる前に、バイオフィルムの除去を行う方が合理的ではなかろうかと考えています。

歯周病に抗菌薬を投与しても、6か月でその効果は消失する。

・慢性歯周炎の治療に抗菌薬がしばしば用いられるが、抗菌薬を投与するための微生物指標に関するエビデンスが不十分であることが、抗菌薬乱用の危険性に繋がり、結果として耐性菌を増加させてしまう。
本論文では、歯周病原菌にターゲットを絞らない網羅的な微生物の同定法を用いて、通常の歯周治療において、抗菌薬を用いる、あるいは用いない場合の1年間の歯肉縁下細菌叢(マイクロバイオーム)の変化を調査している。
結果、抗菌薬は治療3か月後の細菌叢を大きく変化させるものの、6か月後にはその効果は消失し、長期的な効果はなかった。
治療成果の予測に関しては、治療前における微生物群の多様性や口腔内にあまり見られない細菌群の存在が重要であり、抗菌薬を用いない方がよりよい治療成果に繋がると予測された。
これらの結果は、抗菌薬の乱用への警鐘と、抗菌薬使用の指標決定の一助に繋がると思われる。
今後は、生態学的アプローチに基づいた代替療法(プロバイオティクス等)を見出す必要性がある。
(参考文献)
Microbial profiles at baseline and not the use of antibiotics determine the clinical outcome of the treatment of chronic periodontitis. 01,Feb, 2016. SCIENTIFIC REPORTS.
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バイオフィルム感染症である歯周病は、ただ抗菌薬を投与しても効果があるのは、3か月であること、6か月後にはその効果はなくなっていたというエビデンスです。
また、代替療法として、プロバイオティクスが挙げられていますが、歯周病をプロバイオティクスで改善させるというのは、口腔内の悪玉菌である歯周病菌を減らし、善玉菌あるいは日和見菌の割合を増やすことかと考えられます。
15年ほど前に、「驚異の乳酸菌歯磨き」という本を読みましたが、現在アマゾンのカスタマーレビューで星5つが一人、星4つが一つ、計2名の評価。
これを元に考えると、それほど多くの人に評価された方法ではないものと推測されます。
また、個人的には、唾液の緩衝能力を超えて、常にpH4のヨーグルトを口腔内に長期間入れておくと、歯周病が改善するよりも、歯が溶けるだけなのではなかろうかと考えていました。
エナメル質はpH5.5で溶けるわけですから。
プロバイオティクスによる歯周病治療が、今後見出されることを期待しましょう。

下顎骨は経年的に後方回転し、天然歯は挺出しながらその変化に適応する。

・池元らは、新潟大学歯学部で実習用に撮影した側面セファログラムと、その後1.5年以上(15-22年)経過した歯科医師(男性、23名)に同意を得て撮影したものを比較検討した。
上顎骨に有意な変化は認められなかったが、下顎骨は時計方向に回転し、後下方に位置変化していた。
歯の変化については、大臼歯は上顎では前下方に、下顎では前上方に変化していたのに対して、上顎前歯は舌側に傾斜しながら挺出し、下顎前歯は歯軸方向に挺出する傾向を示したとしている。
・下顎大臼歯部にインプラント、他は天然歯の場合
下顎骨は経年的に時計方向に回転し、それを補償するために天然歯が挺出すると、下顎のインプラントと天然歯にはオープンコンタクトが発現し、上顎大臼歯は挺出して、インプラント上部構造とは咬合することが想定できる。
(歯界展望 2016年7月号)
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加齢により、舌骨の位置が下がるとともに、下顎骨は後方回転する傾向にあるそうです。
また池元らの研究報告によると、下顎が後方回転した際の上下顎歯の隙間を埋めるかのように、上下の天然歯はそれぞれ挺出してくることが明らかになりました。
これをもとに考えると、最後方の歯やインプラントは経年的に咬合接触が変化すること、インプラントとその手前の天然歯の間にはオープンコンタクトが生じる理由も理解できると思います。
さらに、上下6・7にインプラント、それ以外が天然歯という場合であれば、下顎が後方回転するならば、補綴直後よりも上下7同士の咬合は過剰になり、それとは反対に上下6同士の咬合は不足する方向に向かうということが推測されます。
そうなると、上下の6インプラントがしっかり咬合するように、上下7の咬合は削合し続けなければ、7は破壊されるリスクが高くなるのではなかろうか、あるいは上下7の咬合接触が常に過剰になる傾向にあるのなら、7は6よりもすり減りやすいマテリアルを選択した方が良いのだろうか、などと考えてします。

2016年9月10日

hori (08:31)

カテゴリ:インプラントと過剰な力

国民の8割が、自分の口臭が気になっている!

・日本歯科医師会が全国の10-70代の男女1万人を対象にした意識調査によると、国民の80.6%は自分の口臭が気になった経験があるものの、実際に歯科医院に行くのは、9.4%だった。
自分の口臭が気になった経験のある割合は性別でみると男性(n=5100人)は76.2%、女性(n=4900人)は85.3%。
年代別では、女性は30代(n=1214人)が89.3%と最も高く、次いで40代(n=829人)の88.5%。
20代(n=1008人)の80.1%、10代(N=414人)83.3%などが目立つ。
男性は10代(n=181人)の80.1%が最高で、40代(n=809人)80.0%、20代(n=306人)78.4%と続く。
口臭を指摘された経験は全体の41.5%、直接的な指摘ではなく、嫌がられる態度やジェスチャーで示された経験は25.5%があると回答。
経験ありと回答した2550人に示された態度を聞くと、「自分との距離を空けられる」41.8%、「顔をそむけられる」31.3%、「話をしているときにイヤな顔をされる」29.0%などと答えている。
(アポロニア21 2016年8月号 )
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今回の調査により、国民の8割の人々が程度の差はあれ、口臭が気になっていることが明らかになりました。
口臭も意外と奥が深く、口臭で悩んでいる人の周囲には口臭で悩む人が増加する可能性があるとも考えています。
その理由を今回は、口臭の悩みを持つAさんとBさんが比較的近い距離で話をしている例で示そうと思います。
Aさんは、Bさんに自分の口臭を感じられたくないので、距離をとったり、マスクをしたり、息が届かないように顔をそむけたりしているのに、Bさんにとっては、Aさんの様々な行為が、Bさんの口臭がAさんに不快な思いをさせているのだろうかと不安にさせる行為に見えるということです。
また、人は緊張すると臭気を発するような身体の仕組みがあるので、臭いかもしれないという漠然とした悩みはさらなる不安につながることもあります。
インプラント希望で来院される患者さんは、重度の歯周病で、咬めないという悩みの他に、口臭の悩みも同時に持っているケースは少なくありません。
重度の虫歯や歯周病が原因したインプラント治療では、治療により口臭レベルは確実に低下するので、口臭測定器で前後の臭気レベルを比較するのもいいかもしれません。

2016年9月 5日

hori (17:32)

カテゴリ:インプラントと口臭

SC・SRPでHbA1cが0.4%低下!

・「スケーリング・ルートプレーニングによって糖尿病患者のHbA1cは0.4%下がるとされ、服用する薬が一つ減らすことができる可能性がある」とし、歯科医療従事者も医科との連携を図りつつ、責任をもって早期発見に取り組む必要があるとした。

(アポロニア21 2016年8月号 )

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私も様々な書物を読んでいますが、SC・SRPでHbA1cが0.4%低下する可能性があるというデータは初めて知りました。

これはもちろん最高に上手な歯科医師なり、歯科衛生士がSC・SRPを行った場合でしょうから、過大な評価は禁物ではありますが、一定の評価はされていいのではないでしょうか。

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