2016年12月アーカイブ
アジスロマイシン投与で、心臓血管死のリスクが上昇。
・2012年にWayneらは、アジスロマイシンを投与することで、心臓血管死のリスクが上昇することを報告している。
これは心電図におけるQT間隔の延長に伴い、心室頻脈から心室細動、致死性不整脈に繋がる可能性があることを示している。
マクロライド系の薬剤は、QT延長を引き起こすことが知られている。
(デンタルダイヤモンド 2016年12月号 )
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インプラント治療に際して、一般名アジスロマイシン、商品名ジスロマックを投与している歯科医師も少なくないと思います。
心疾患の既往のある患者、心電図でQT延長の傾向がある患者等には慎重な投与が必要となりそうです。
各インプラントシステムにおける、繰り返しねじり試験を行った前後の緩みトルク値減少率
・各インプラントシステムで、繰り返しねじり試験を行った前後の緩みトルク値減少率
スタンダード プラス(ストローマン) 9.9%
オッセオ スピード(デンツプライIH) 13.5%
カムログ Kシリーズ プロモートプラス(アルタテック) 9.5%
リプレイス セレクト テーパード(ノーベル バイオケア) 4.7%
ブローネマルクマーク?(ノーベル バイオケア) 2.4%
セティオ(GC) 4.6%
結果?繰り返しねじり試験後のゆるみトルク値は、繰り返しねじり試験前のゆるみトルク値よりも小さな値を示し、5種類のインプラントシステム間においては有意差を認めた。
?ゆるみの程度はインプラントシステム間で有意に異なり、テーパー嵌合を有するシステムでは大きな緩みを生じ、外部六角機構のものでは緩みが生じにくい傾向を示した。
(日本歯科評論 2016年11月号 )
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各インプラントシステムで、アバットメントの緩みやすさが異なることが明らかになりました。
個人的にも、緩みやすいシステムと、そうではないシステムがあるとは認識してはいましたが、各システムの緩みトルク値減少率として数字化されたデータを見るのは初めてです。
この中で注目すべきは、ノーベルバイオケア社のアバットメントの緩みが、他社よりも有意差をもって小さいことです。
だからこそ、ノーベルバイオケア社の角度付アバットメントは"40度まで対応可能"としていたのかもしれません。
ただ、ノーベルバイオケア社のタイユナイトという表面性状が、インプラント周囲炎を惹起しやすいタイプであること。
ALL on 4のように、フィクスチャーとアバットメントの角度が大きい状態にしてしまうと、清掃性が困難であること。
アバットメントが緩まないだけに、辺縁歯槽骨の吸収が惹起される危険性が危惧されることなどにより、堀歯科医院ではこのメーカーのインプラントは使用しておりません。
また、アバットメントのネジが緩みやすいメーカーのインプラントでも、咬み合わせの調整をしっかりと行うことで、ネジが緩む頻度を大きく減らすことは可能です。
さらに、ネジが緩まないということは、上部構造がしっかりと固定されているという面からはもちろんプラス評価ですが、異常な力が特定の部分にかかると、ネジが緩むという形で私たち医療従者だけでなく、患者さん自身にも分かるという考え方もあります。
(患者さんが異常に気が付くので、大きなトラブルにならない、あるいはなりにくいと考えています。)
すなわち、異常な力の集中が、ネジが緩まない場合には、インプラント周囲の歯槽骨を破壊する方向に傾き易いという問題をはらむ一方で、何か問題が生じるならば、ネジの緩みとして問題が表出するように、あえてウイークポイントを残す方が無難であるという考え方もあるということです。
インプラント周囲の歯槽骨と上部構造のネジの緩みで、どちらが大切かといえば、歯槽骨の方が大事なのです。
エクスターナルは、インターナルに比べて、合併症の発症率は1.3倍。
・インプラントの接合様式という観点からは、エクスターナルコネクションのインプラントはインターナルコネクションに比べて技術的合併症の発症率は1.3倍であり、最も多い合併症としてのアバットメントスクリューの緩みが報告されている。
(参考文献)
Zembic A, Kim S, Zwahlen M et al : Systematic review of the survival rate and incidence of biologic, technical, and esthetic complications of single implant abutments supporting fixed prostheses. Int J Oral Maxillofac Implants, 29 Suppl : 99-116,2014.
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当院でも、インターナルコネクションのシステムも、エクスターナルコネクションのシステムも使用していますが、特別エクスターナルコネクションのインプラントシステムにトラブルが多いという印象はありません。
また、アバットメントスクリューの緩みが生じる場合、その多くは特定のインプラントに発生することが多いように感じます。
そのようなときには、補綴学的に何か問題のある設計をしていないか今一度自分の歯科臨床を振り返る時期だといえるでしょう。
支台築造の種類による根管処置歯の破壊抵抗性
・接着性材料で支台築造した根管処置歯の静的圧縮負荷に対する破壊抵抗性
ファイバーポスト 既製金属ポスト 鋳造金属ポスト 生活形成歯
歯軸方向90°負荷 453±98 472±114 922±159 347±38
斜方向135°負荷 304±92 175±32 289±53 347±90
破壊荷重
Mean±SD(kgf)
・斜方向の負荷に対して金属ポストで築造した失活歯は歯根破折をきたしながら破壊するのに対して、ファイバーポストで築造した歯は歯頸部から接着が崩壊し、ポストが脱離する様相を呈した。
(参考文献)
Hayashi M, Takahashi Y, Imazato S : Fracture resistance of pulpless teeth restored with post-cores and crowns. Dent Mater, 22 : 477-485,2006.
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今回の報告で意外だったのは、歯軸方向から負荷を受けた『鋳造金属ポストにより支台築造した根管処置歯』の破壊抵抗性が非常に高いにもかかわらず、斜め方向からの負荷であると、大幅に破壊抵抗性が低下すること。
もう一つは、『ファイバーポストにより支台築造した根管治療歯』の破壊抵抗性は斜め方向からの負荷でも、垂直方向からの負荷に比べて、30-40%程度しか破壊抵抗性が減弱しないことです。
これらのデータにより、咬合平面にほぼ垂直に萌出している歯牙に、支台築造後、補綴するのであれば、鋳造金属ポストが最も強度的に安心といえます。
一方、顎骨の不調和や歯列不正の程度が顕著な方に補綴処置をするケースで、歯根と歯冠の方向を大きく変化させて補綴をする場合は、鋳造金属ポストではなく、ファイバーポストを選択する方が無難であるといえるでしょう。
ただし、ファイバーポストによる支台築造の場合は、歯根破折よりも、接着が破壊されて、ポストごと脱離するケースが多いので、再度接着して歯牙を延命するということになります。
こうして考えると、近年歯根破折で歯牙を失っている方が多いのは、鋳造金属ポストそのものが悪いのではなく、歯根と方向が大きく食い違う補綴物を入れなくてならなくなっている状態に問題があるように感じます。
マイクロスコープ下でのイスムス除去
・イスムスとは歯髄組織を含んだ2根管の間の狭いリボン形態様の交通路と説明される。
イスムスの清掃が困難な理由は、
1.イスムスのサイズにあった鋭利な器具がない。
2.イスムスのある部位の周囲象牙質が菲薄な場合が多い。 など
通常の根管治療における化学的・機械的な手技によって、イスムスに対処することは現時点では現実ではない。
イスムスに対して臨床的に注意するべきことは、非感染根管においては無菌的処置を徹底して感染根管にしないこと、感染根管であれば可及的な拡大と洗浄に留め、過剰な歯質除去を行わないことなどに配慮するべきである。
マイクロスコープ下でイスムスの洗浄と拡大を行ったとされる治療歯の歯根歯質がほとんど喪失してしまっていたり、医原的に穿孔している状況にしばしば遭遇する。
・イスムスの歯種別・部位別における発生頻度
上顎中切歯 0% 下顎中切歯 33.3%
上顎側切歯 2% 下顎側切歯 47.6%
上顎犬歯 5% 下顎犬歯 24%
上顎第一小臼歯 18.8% 下顎第一小臼歯 18.8%
上顎第二小臼歯 50.5% 下顎第二小臼歯 3%
上顎第一大臼歯 60.8% 下顎第一大臼歯 87.9%
上顎第二大臼歯 46.5% 下顎第二大臼歯 66.3%
(参考文献)
Estrela,C., et al.: "Frequency of Root Canal Isthmi in Human Permanent Teeth Determined by Cone-beam Computed Tomography." J Endod 41(9): 1535-1539,2015.
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根管治療が容易ではない理由の一つに、イスムスという根管形態があります。
歯科医師は見えない状態から見える状態になれば、患者さんの歯を守れるのではなかろうかと考えました。
(正確には、顕微鏡販売メーカーが、歯科医師の倫理観に訴え、高額な器械をうまいこと売りつけたのかもしれませんが・・・。)
しかしマイクロスコープで根管治療を始めてみたら、イスムスの周囲の菲薄な象牙質を破壊してしまったり、医原的に穿孔させるといった、異なる問題を惹起する結果となってきているようです。
マイクロスコープは視覚的に形態を認知しやすくしてくれますが、歯質の厚みや歯根外側の形態まで教えてくれるわけではないからです。
また、イスムスの形態のタイプも最低でも5種類程度には分類できるようですから、予めイスムスの形態を把握できていない限り、マイクロスコープを使用しようとも、穿孔のリスクはやはりゼロにはできないように思います。
そして、さらに、今回紹介した文献によると、それぞれの歯種にイスムスがこれほどまで多く存在することに個人的には驚かされました。
根管治療は、マイクロスコープが普及し、歯内療法も新しい時代に突入したのは間違いないのでしょうけれど、最新機器で劇的に治療が容易になるわけではなさそうです。
ストレスやうつで歯周病は悪化する。
・慢性ストレスおよびうつ病は、免疫系に負の効果を有し、アテローム硬化性心臓疾患、糖尿病および他の全身状態の危険性を高める。
60か国から245404名が参加したWHOによる世界保健調査は、慢性疾患の狭心症、関節炎、ぜんそくや糖尿病と比較して、うつ病が健康を損なう最大のものであるということを発見した。
Warrenらは歯周病における慢性ストレスやうつ病の役割に関する文献をレビューし、ストレスやうつ病は宿主防御と歯周炎に対して感受性の高い患者における歯周感染症の進行を変更することができると結論づけている。
またこの結論は、ストレスやうつ病が創傷治癒を遅延することを示す臨床的および実験的証拠と一致している。
様々な研究で、心理的ストレスの下ではクリニカルアタッチメントロスや歯槽骨喪失を生じやすい傾向があることが示されている。
Gencoらの1426名の成人(25-74歳)を対象とした研究では、経済的なストレスと不適切なスタイルをもつグループはアタッチメントロスを2.24倍、歯槽骨喪失を1.91倍起こしやすいと示している。
(ザ・クインテッセンス 2016年11月号 )
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以前こんな方が来院されました。
残っている歯はぼろぼろで、これまで入れ歯を入れたことがなく、インプラントについて話が聞きたいとのことでした。
たまたまその方は、うつ病で医科の方でも治療を受けており、堀歯科医院でインプラント治療を行うこととなりました。
治療前は、顔つきもどう見ても健康そうには見えない状態でしたが、インプラントで咬めるようになると、別人のように健康な顔つきに変化しました。
治療前後の写真を見比べると、本当に同一人物かと思える程です。
今回、うつ病はグローバルな疾患の主要な原因のうち、第5位の精神障害との報告があり、珍しい疾患ではない状況となってきています。
また、慢性的なストレスやうつ病は、免疫系にマイナスに働き、歯周組織が破壊されやすい傾向にあることも明らかになっています。
私たち歯科医療従事者も、歯や歯茎だけを見るのではなく、患者さんのこれまで生きてきたヒストリーに関心を持ちつつ、その方の体の一部としての歯や歯茎という認識をし、治療に当たらなくてはならないということになるでしょう。
そして、来院される新患の患者さんは、現病歴や既往歴にうつ病とわざわざ書かない方も少なくないので、ある一定の割合で、うつ病になった状態で歯科医院に来院されている方がいることを、頭の隅に置いておく方が良いかもしれません。