2017年10月アーカイブ
歯性上顎洞炎に最も関連性の高い根は?!
上顎洞と上顎臼歯根尖との距離
・上顎洞底に近い根
上顎7の近心頬側根(平均0.83ミリ)
上顎6の口蓋根(平均1.56ミリ)
上顎骨頬側壁に近い根
上顎4の近心頬側根(平均1.63ミリ)
上顎6の遠心頬側根(平均1.72ミリ)
(参考文献)
Eberhardt JA, Torabinejad M, Christiansen EL. A computed tomographic study of the distances between the maxillary sinus floor and the apices of the maxillary posterior teeth. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 1992; 73(3) : 345-346.
・上顎洞炎症例の平均粘膜肥厚は7.4ミリであった。
上顎第一大臼歯と第二大臼歯は、小臼歯の11倍の確率で上顎洞炎との関与を認めたが、2本の大臼歯の上顎洞炎への関連性は同確率であった。
また、歯性上顎洞炎に最も関連性の高い根は上顎第一大臼歯の口蓋根であり、続いて第二大臼歯の近心頬側根であった。
(参考文献)
Rigolone M, Pasqualini D, Bianchi L, Berutti E, Bianchi SD. Vestibular surgical access to the palatine root of ruperior first molar: "low-dose cone-beam"CT analysis of the pathway and its anatomic variations. J Endod 2003; 29(11): 773-775.
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上顎骨頬側壁に近い根は、何かしらの問題が生じた際には、頬側歯槽骨を破壊してフィステルが現れる可能性が高いということになります。
また、頬側骨から根尖までの距離が小さいので、比較的無症状にフィステルが生じるかもしれません。
上顎第一大臼歯の口蓋根と第二大臼歯の近心頬側根は、頬側の歯槽骨まで距離がある一方で、上顎洞までの距離がないために、歯性上顎洞炎を惹起させやすいと考えることができます。
さらに、上顎第一大臼歯の口蓋根は、頬側の根よりも根尖孔の大きさが大きいために、バクテリアが容易に根尖孔外に出ることが可能となります。
上顎第一大臼歯の口蓋根の根管治療の際には、クラウンダウン法で、上部のバクテリアの多く存在する部位を先に除去する一方で、これ以上根尖孔の大きさを広げないように、ステップバック法も併用していくとよいと考えられます。
しかしながら、このように丁寧な根管治療を行っていても、インプラント治療が必要となるケースはあります。
上顎第一大臼歯の口蓋根からの根尖病変は、容易に歯槽骨を破壊し、その骨量を減らします。
そのため、上顎大臼歯部へのインプラントは、骨増生なしでインプラントを埋入可能なケースはそれほど多くはないというのが現実です。
条件が悪いケースでは、インプラントが上顎洞に迷入しないように、骨増生だけを先に行い、数か月後に2回目の骨増生とインプラント埋入を行うとよいでしょう。
コンタクト ロスの関連因子
・コンタクトロスが発生しやすくなる要因として、高年齢、対合歯が可撤性義歯であること、隣在歯が失活歯であること、隣在歯が連結されていないことが挙げられる。
・WEIらは、歯列咬合力のうち、犬歯間、すなわち前方部に加わる咬合力の割合が大きいと、コンタクトロスが起きやすいと結論付けている。
・コンタクトロス発生群の方がコンタクト維持群と比較して、歯冠インプラント比が大きく、有意差が認められた(p<0.01)。
・Mischの分類における骨質D1ならびにD2群の方が、D3ならびにD4群と比較して、コンタクトロス発生群の割合が高く、有意差があった(P=0.01)。
・インプラントに対して歯冠が長く、隣在歯が連結されておらず、動揺があり、埋入部位の骨質がD1もしくはD2であった場合に、一方で、年齢、性別、観察期間、側方運動時の接触の有無は、有意な説明変数とならなかった。
・WEIらは、55か所のインプラント-天然歯隣接面を調査し、コンタクトロスの発生した群では、咬合力の舌側成分、近心成分が大きく、また咬合力が比較的前方へ分布していると報告している。
・短期間にコンタクトロスが起こる理由として、臼歯部にインプラント修復がなされることで咬合力が増大することが挙げられる。
その結果、天然歯にかかる咬合力の前方成分も大きくなることで天然歯の前方移動がそれまでよりも加速、助長され、コンタクトロスが起こる可能性が考えられる。
・D1、D2の群はshort-faced typeで、咬合力が強い傾向にあることが予想され、この要因がコンタクトロスに関連したことが推測された。
(参考文献)
インプラント上部構造と天然歯間におけるコンタクトロスの関連因子 福西一浩, 北島一, 石川知弘, 武下肇, 前田芳信. 日本口腔インプラント学会雑誌vol.29 NO.4/2016.12
・咬耗が進行すると、歯の間に隙間が生じ、上下歯列の咬み合わせの関係も変化してしまう。
縄文人などの歯列を詳しく調べてみると、咬耗に伴って個々の歯が移動してこうした隙間を埋め、常に機能的な歯列矯正を保とうとするメカニズムがあることが分かってきた。
このような歯の生理的移動は、おそらく哺乳類に一般に備わっているものと推測されるが、ヒトにおいては3つのタイプに分類できる。
一つは、垂直方向の移動であり、連続的萌出。
二番目は近心移動。
三つ目は舌側移動。
(仙歯会報 2017年2月号 )
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個人的に興味深く感じたのは、『コンタクトロスの発生した群では、咬合力の舌側成分、近心成分が大きく、また咬合力が比較的前方へ分布している。』ということです。
また、仙歯会報の抜粋は、海部陽介氏が歯科医師会に講演に来られた際の記録です。
これら二つを元に考えると、コンタクトロスが生じる口腔内では、そもそも歯牙が近心舌側方向に傾斜して萌出しているために、歯列のサイズが小さくなっていることが推測されます。
歯列のサイズが小さいゆえに、舌癖が誘発されるのでしょう。
またそのような舌癖があるために、側方への舌突出壁があれば下顎前歯の挺出が生じ、前方への舌突出壁があればオープンバイト傾向からのさらなる空隙歯列が惹起されることが考えられます。
これは、咬合平面が上下的に歪むので、海部氏が仰るところの一つ目の垂直方向の移動に該当します。
またこのような状態では、アンテリアガイダンスがうまく機能しないために、臼歯部には側方からの為害作用がかかるために、早期に喪失する危険性が高まります。
そのような状態で臼歯部にインプラント治療を行うために、コンタクトロスが生じるのではないでしょうか。
そしてさらに、倒れている歯は継続して倒れ続けるということもコンタクトロスに関係していると個人的には推測しています。
歯石ができやすい人は齲蝕になりにくいというのは本当なのか?
・歯石ができやすい人は齲蝕になりにくいというのは本当なのか?
年齢11-13歳の子ども2316人を対象に、3年間にわたりフッ化物配合歯磨剤の効果を診るために臨床試験を行いました。
その解析から、歯石の有無と齲蝕の発症との間に興味ある関連が明らかになりました。
試験結果を、「歯石がなかった人」、「歯石ができた人」で分類し、DMFSの増加数をみると、フッ化物歯磨剤の濃度に関わらず「歯石のなかった人」のDMFSは11で、「歯石ができた」のDMFSは8.4と大きな差がありました。
歯石形成は、再石灰化と似た反応のため、歯石ができやすい人の口腔環境は再石灰化が促進しやすい環境ということのようです。
しかし、歯石は多孔質のため、中に細菌や毒素が入り込み除去しにくい、表面が荒いためにプラークが着きやすい、さらに歯石そのものが物理的に歯肉を刺激し炎症の原因となるという考えもあります。
かねてから言われていた「う蝕になりにくい人は歯周病になりやすい」といったことは、歯石ができやすい人は再石灰化環境にあり齲蝕ができにくく、歯石により歯周病が起きやすいと考えると、あながち間違っていないようです。
(参考文献)
Duckworth RM., et al. "Evidence for putting the calculus: caries inverse relationship to work." Community Dent Oral Epidemiol. 2005; 33: 349-56.
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私も、『歯石ができやすい人は齲蝕になりにくい。』という話は誰から聞いたことがありましたが、今回それを支持するエビデンスに出会うことができました。
歯周病で抜歯後にインプラント治療を行った場合、インプラント周囲炎になりやすいというエビデンスがあります。
インプラントは歯ではないので、再度齲蝕が原因でインプラントを失う可能性はもちろんありません。
ただ、単純な不潔性の齲蝕だけでなく、過大な力によるマイクロクラックからの齲蝕が最近では増えてきています。
パワータイプの患者さんは、インプラント治療の前後で、基本的にはパワータイプであることは変わりません。
そのような背景を考えると、齲蝕で抜歯後にインプラント治療を行った場合、セラミックスのチッピングやアバットメントの緩み等のトラブルが増大する一方で、インプラント周囲炎の頻度は少ないかもしれません。
興味深い分野ですね。
インプラントの代わりに、iPSというのはまだまだ先らしい。
・iPSには、歯科への応用を阻む要素がかなり多いらしい。
その一つが、金食い虫だということだ。
現在、iPS細胞は京都大学がその権利を有している。
研究開発に膨大な投資をしたというのもあり、細胞自体がかなり高価なものになっている。
これについては理解できる。
新薬の点数がしばらくとはいえ高いのと同じである。
さらにiPS細胞の食費がかなり高額になるという。
iPS細胞も生きているのだから、摂食活動をする。
その餌というか食べ物が、とんでもない金額に及ぶ。
他にもiPS細胞は、その培養したものがすべて使用できるレベルには達せなく、成功率は1%にも届かないとも聞いた。
また、歯原細胞へ無事に分化しても、現状では前歯になるのか、臼歯になるのかもやってみないとわからない。
費用をつぎ込んでも、成功率が低すぎる。
医療も経済活動である限り、効率の悪いものは後回しにされる。
(デンタルダイヤモンド 2017年9月号 )
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iPSが歯科での応用が真の意味で可能となれば、インプラント治療は必要なくなるかもしれません。
しかしながら、今回の報告を診る限りでは、iPSが実用化されるのもまだまだ先ということになります。
インプラント周囲炎のリスクが高まるPPDの大きさとは?!
・Pjeturssonら(2012)は動的歯周治療終了時点でPPDが5ミリ以上の歯周ポケットが残存していることが、インプラント周囲炎発症とインプラント喪失においてリスクであると報告している。
またLeeら(2012)は、歯周炎の既往がある患者においてインプラント周囲炎発症の割合が高かったものの、メインテナンス時に6ミリ以上の歯周ポケットが存在しない患者たちのインプラント周囲炎発症率は歯周組織が健康な患者と同程度だったと報告している。
(参考文献)
Pjetursson E, et al. : Peri-implantitis susceptibility as it relates to periodontal therapy and supportive care. Clin Oral Implants Res : 888-894,2012.
Cho-Yan Lee, et al. : Residual periodontal pockets a risk indicator for peri-implantitis in patients treated for periodontitis. Clin Oral Implatns Res, 23(7) : 325-333, 2012.
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やはり歯周病で歯を失った方にインプラント治療を行う場合、残存している歯牙も歯周病に罹患している場合は少なくありません。
将来のインプラント周囲炎のリスクを減少させるために、歯周病治療でPPDを5-6ミリ未満にするのか、抜歯するのかについて、インプラント治療を行う歯科医師は考えなくてはなりません。
ただし、歯周病治療でPPDを5-6ミリ未満にするのは時間がかかるからといって、保存できる歯まで抜歯し、インプラント治療を行うことは、医療従事者として良くないと考えています。
その際たるものが、ALL on 4です。
TiUniteインプラントは、TiOblastインプラントのおよそ2倍のインプラント周囲炎の罹患率を記録。
・DERKSらは、スウェーデン人588名で2277本のインプラントのインプラントを9年間フォローアップし、インプラント周囲炎の罹患率を研究した。
BoP陽性あるいは排膿と0.5ミリ以上の骨吸収を軽度のインプラント周囲炎、そしてBoP陽性あるいは排膿と2ミリ以上の骨吸収を中等度・高度インプラント周囲炎と定義したところ、軽度のインプラント周囲炎が45%で、14.5%が中等度・硬度インプラント周囲炎であった。
Straumannインプラント(すべてSLAインプラント)が32.6%、Nobel Biocareインプラント(8.3%が TiUniteインプラント)が39.4%、Astra Techインプラント(96.6%がTiOblastインプラント)が18.4%であった。
(参考文献)
Nickening H. Wichmann M, Schlegal KA、et al. Radiographic evaluation of marginal bone levels adjacent to parallel-screw cylinder machined-neck implants and rough-surfaced microthreaded implants using digitized panoramic radiographs. Clin Oral Implants Res 2009 ; 20 : 550-554.
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いずれも大手のインプラントメーカーですが、各メーカーのインプラントの表面性状によって、かなり異なることが分かります。
表面性状がTiUniteのNobel Biocareインプラントは、表面性状がTiOblastのAstra Techインプラントのおよそ2倍のインプラント周囲炎の罹患率を記録しました。
表面性状がTiUniteのNobel BiocareインプラントはALL on 4で有名ですが、個人的には意図的に傾斜埋入を行っていることも、インプラント周囲炎の罹患率が高い原因となっているのではなかろうかと考えています。
どのメーカーも自社製品の優位性へ多少のバイアスがかかる傾向もありますので、利益相反がない(と思われる)論文をベースにして、私たち歯科医療従事者は使用するインプラントも選択していかなくてはなりません。