2017年11月アーカイブ
根管内のC-factorは、200を超えるかもしれない。
・支台築造における接着は、主に築造材料と象牙質との接着である。
窩洞は狭く、複雑な形態が多く、根尖に向かうほど狭くなり、照射光が届きにくくなるので、接着操作も困難となる。
臨床的に接着阻害に関わる因子としては、水分残渣、光照射不足およびC-factorなどがあるとされる。
C-factorはFeilzerらにより提唱された概念で、自由表面積に対する接着面積の割合を数値化することにより、窩洞形態が下顎重合型レジンの重合収縮力の発生やフローによる補償に与える影響を表現するためにある。
C-factorの値が大きいほど界面に働く応力の割合が増加し、辺縁封鎖性が劣化する。
BouillaguetはC-factorの値について、口腔内の修復では1-5であるのに対して根管内では200を超えるかもしれない、としている。
(参考文献)
Bouillaguet S, Troesch S, Wataha JC, Krejci I, Meyer JM, Pashley DH : Microtensile bond strength between adhesive cements and root canal dentin. Dent Mater, 19 : 199-205,2003.
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確かに咬合面にダイレクトボンディングしたものが脱離したケースは皆無ですが、ファイバーポストによるレジンコアの上部のプロビジョナルを外そうとした際に、コアも一緒に外れてきたことがあります。
これは仮着材よりもレジンの接着力が弱い可能性を示唆しています。
また、今回の報告により、「C-factorが、口腔内の修復では1-5であるのに対して根管内では200を超えるかもしれない」ということが明らかになりました。
そのような意味でも、レジンコアはC-factorがかなり大きいものと認識し、ファイバーコアの本数を増やしてレジンの使用量を減らしたり、場合によってはメタルコアで対処することも必要かもしれません。
マイクロクラックと象牙細管
・若年者の象牙質で細管が開口している状態では、破折初期の亀裂伸展時に細管周囲に段差を形成したり、亀裂伸展方向前方の細管周囲にマイクロクラックを形成するなど、象牙細管そのものが亀裂伸展に抵抗して、より多くの破壊エネルギーを要するため、結果として高い曲げ強さを示す。
一方、細管が閉鎖した象牙質では亀裂伸展に抵抗するメカニズムが働かないため、亀裂が容易に直前的に進展し、破壊抵抗性が低いと考えられる。
さらに最近では、象牙質のコラーゲンに加齢とともに老化架橋(AGEs)が増加することが示されている。
筆者らもAGEs蓄積量が多いので曲げ強さが低下することを報告しており、加齢によるコラーゲン分子間架橋の老化という質的変化が象牙質の強度に影響していることが分かってきている。
(参考文献)
Kinney JH, Nalla RK, Pople JA, Breunig TM, Ritchie RO : Age-related transparent root dentin: mineral concentration crystallite size, and mechanical properties. Biomaterials, 26 : 3363-3376, 2005.
Shinno Y, Ishimoto T, Saito m, Uemura R, Arino M, Maruno K, Nakano T, Hayashi M : Comprehensive analyses of how tubule acclusion and advanced glycation end-products diminish strength of aged dentin. Sci Rep, 22 ; 6 : 19849, 2016.
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マイクロクラックは、小さいものが経年的に大きくなっていき、ある時点で突然崩れるように歯冠破折や歯根破折を惹起するものとイメージしていました。
ところが実際は、若年者と高齢者でマイクロクラックの入り方が異なり、それは象牙細管の閉鎖が関与していることが分かりました。
すなわち、若年者のマイクロクラックのそれぞれは、方向が異なるために高い曲げ強さを示すが、高齢者ではマイクロクラックが容易に直線的に進展するために、破壊抵抗性が低いということになります。
一方、日々歯科臨床を行っていると、歯冠破折や歯根破折を繰り返す人とそのようなトラブルがほとんどない人に大別できるように感じます。
いわゆる力の要素が大きいタイプとそうではないタイプがいるということです。
また象牙細管と曲げ強さの関係を示した報告では、40歳未満の被験者(N=16)の象牙細管閉鎖度は0-10%前後なのに対して、40歳以上の被験者(N=13)の象牙細管閉鎖度は0-100%と標準偏差が非常に大きいことが対照的な結果となりました。
こうして考えると、加齢によって誰もが象牙細管が閉鎖する方向に向かうけれども、閉鎖するスピードは個人差が非常に大きく、閉鎖するスピードが速い方は、遅い方よりも結果として力の要素が大きいタイプにカテゴライズされるのかもしれません。
また、象牙細管の閉鎖するスピードが速いタイプの人は、体内にAGEsが蓄積しやすいタイプなのかもしれません。
そしてさらに、AGEsは、活性酸素で変性した糖がタンパク質に結合したもので、生活習慣病のリスク指標になるだけでなく、糖尿病を惹起するといわれているので、生活習慣によって、何かしらのエピジェネティクスが発現する可能性も考えられます。
日本人女性の樋状根出現率は54%。
・樋状根すなわち根管の水平断面形態がアルファベットのCの字になっている根管を充填する場合、MTAは根管充填材として非常に優れている。
この"Cの字形態の根管"をGPで充填するのは困難であり、このような歯の再感染根管治療を行う場合は、外科的にMTAで逆根管充填することによって対処する場合が多い。
したがって、再根管治療において非外科的にMTAで初めから根管充填する方法は、外科的にMTAで逆根管充填する方法に加えて実行可能な選択肢の一つになる。
(MTA全書 )
・日本大学松戸歯学部歯内療法学講座のSuzukiらで行われた研究が臨床的に参考になるので紹介する。
対象者は日本人の20代男女で他の疾患で撮影したmulti-detectorCTを用いた研究である。
この調査では日本人20代男性の実に36%、女性に至っては54%に樋状根がみられることがわかった。
(日本歯科評論 2017年10月号 )
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下顎第二大臼歯にはかなりの頻度で、樋状根が認められます。
樋状根の根管充填が容易ではないという以前に、根管治療・根管拡大が容易ではありません。
MTAによる根管充填は、現時点では保険診療の範囲内で行うことができません。
根管治療が必要となる状態にならないように、予防したいものです。
しかし、下顎第二大臼歯は後方にあるために歯磨きが一般に難しい歯牙の一つであるだけでなく、歯冠破折や歯根破折が多発する歯牙でもあるので、より注意が必要といえるでしょう。
ポストスペース最深部は必然的に光照射器の有効照射距離を超えてしまう。
・光照射器の中にはある程度照射対象との距離をとることが可能な製品もあるが、8ミリ程度が限界である。
ポストスペースを形成する場合、Sorensenらの報告からもポスト長は最低でも歯頸部から歯冠長と同程度以上必要であると考えられる。
一般的に、歯冠長の平均値は前歯部で9ミリ前後、大臼歯部で6ミリ前後である。
つまり、ポストの設置が必要な場合、切縁や咬合面からポストスペース最深部までの距離は前歯部で18ミリ前後、大臼歯で12前後となる。
そのため切縁や咬合面付近から光照射を行う場合、ポストスペース最深部は必然的に光照射器の有効照射距離を超えてしまう。
これらの点で、根管系は形態的にも接着性レジンを用いるには不利である。
(参考文献)
Sorensen JA, Martinoff JT. Intracoronal reinforcement and coronal coverage: a stusy of endodontically treated teeth, J Prosthet Dent 1984;51(6);780-784.
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確かにファイバーコアを併用したレジン支台築造は、メタルコアのように歯根破折が生じにくく、再治療が可能な場合は多いです。
しかしながら、ポストスペース最深部の接着が上手くいかないこともまで考えると、従来の光照射器では有効照射距離を超えてしまいます。
また個人的には、デュアルキュアも果たしてどのくらい硬化しているのだろうか?と思います。
そうなると長いポスト長が必要な歯牙を無理に保存する場合は、メタルコアを選択するのもよいかもしれません。
メタルコアの時点で間接法となるために、印象から装着の間に根管が感染するリスクもあります。
また歯根破折のリスクもレジンコアよりも高いですが、基本に忠実なメタルコアであれば、巷でいわれているほど悪いものではないように感じます。
ただ、基本に忠実なメタルコアは印象採得が容易ではないので、一世代前の支台築造では、太くて角ばったメタルコアが装着されていた時代背景もあることでしょう。
ファイバーコアによるレジン支台築造とメタルコアをケースバイケースで使い分ける必要があると思います。
そしてそれでもだめなら、インプラント治療も視野に入ってくることになります。
インプラント周囲上皮細胞のターンオーバーは3倍も遅い。
・上皮の増殖能が高いということは、ターンオーバー時間が早いということを意味しますので、組織の防御にとっては有利であるといえます。
増殖率をPCNA(増殖細胞核抗原)の陽性率は約13%で、天然歯の付着上皮の約36%よりも低く、おおよそ1/3です。
これは「インプラント周囲上皮細胞のターンオーバーが3倍も遅いこと」を示しています。
ターンオーバーが遅いことは、インプラント周囲上皮の防御機能が天然歯の付着上皮よりも劣っていると考えられます。
ですから臨床的には、インプラント患者さんのプラークコントロールはより厳密に行う必要があるといえます。
(参考文献)
・下野正基 : 新編治癒の病理.医歯薬出版, 2011.
・下野正基:やさしい治癒のしくみとはたらき. 歯周組織編. 医歯薬出版, 1994, 62-78.
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インプラント周囲組織の方が、天然歯周囲組織よりも炎症の程度が大きくなりやすいといわれていますが、ターンオーバーという観点らもインプラント周囲上皮の防御機能が天然歯の付着上皮よりも劣っているといえるようです。
永久歯の先天欠如により、歯列のバランスは崩れる。
・乳歯に先天欠如があると、後継永久歯の約75%に先天欠如が見られる。
乳歯癒合歯の場合も、後継永久歯の40-50%に先天欠如がみられる。
すなわち、乳歯に先天欠如や癒合があると、永久歯の先天欠如が発現しやすい。
・永久歯の先天欠如の発症頻度は、10.09%であり、男子より女子に多い傾向がある。
歯種別では下顎第二小臼歯、下顎側切歯、上顎第二小臼歯、上顎側切歯が多い。
また、発症パターンとして、2歯以上の先欠が先欠全体の48.3%を占めることが分かった。
両側性は先欠全体の30.6%であったのに対して、両顎性は先欠全体の7.3%と少ない傾向であった。
(デンタルダイヤモンド 2017年9月号 )
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永久歯の先天欠如があると、そのスペースを閉じるかのように、後方歯牙の前方傾斜や、対合歯の挺出が惹起されます。
すなわち、永久歯の先天欠如により、歯列・咬み合わせのバランスは崩れるということです。
また、その状態を改善しようとすると、歯列矯正治療やインプラント治療が必要となります。
一方、歯牙にはその歯種によって、それぞれ役割が異なります。
例えば、人体で最も歯根長の長い犬歯は、歯列のカーブのところに位置しており、側方力がより多く受け止める役割を期待されています。
しかし、側切歯が先天欠損している場合、側切歯の位置に犬歯が移動し、犬歯よりも歯根長の短い第一小臼歯が本来犬歯の存在する位置に移動することになります。
これは、犬歯の役割を担わなくてはならない第一小臼歯には過剰な負担となるということを意味し、長期安定が疑問視される場合が出てくるということになります。
また、その中のある一定の割合の方が、将来インプラント治療が必要になるように考えられます。