2018年6月アーカイブ
ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンのエビデンスのレベルは高くない。
・ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンは治療の予測性を高めるために考えられた矯正治療の概念ですが、筆者が知る限り、エビデンスのレベルは高くありません。
経験的には良い結果が得られていますが、これは一つのモデルであり、科学的なエビデンスは乏しいことから、万人に対して適応可能な理論ではないかもしれません。
(考えるぺリオドンティクス )
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咬み合わせを再構築するインプラント治療では、基本的にミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョンを目標に行っていますが、エビデンスレベルは高くないことが分かりました。
非外科的治療は単根歯でも、歯周外科治療の2倍の時間がかかる。
・非外科治療の有効性が報告されていますが、単根歯(切歯、犬歯、小臼歯)を対象にしており、複根歯や根分岐部病変に罹患した患歯を含んでいません。
単根歯に比較して、大臼歯や解剖学的リスクのある患歯の根面を確実にデブライドメントすることは現実的ではありません。
単根歯の非外科的治療であっても、術者の高い技術力が要求され、時間も歯周外科治療を行う場合に比べて2倍かかります。
根面のデブライドメントが難しい部位は、根面溝、根分岐部および適合不良な修復物の直下です。
単根歯を被験対象とした非外科的治療に反応しない、すなわち効果の上がらない部位(ハイリスク部位)のアタッチメント・ロスの進行には7つのパターンがあり、Non-Linear説を支持しています。
また「ハイリスク歯の進行パターン」が複数あることも示唆しています。
(参考文献)
・Lindhe J, et al. Healing following surgical/non-surgical treatment of periodontal disease. 1982 ; A clinical study. J Clin Periodontol. 9 : 115-128.
・Badersten A, et al Effectof nonsurgical periodontal therapy. ?.Severely advanced periodontitis. 1984 ; J Clin Periodontol. 11 : 63-76.
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歯周病治療は通常、保険診療のガイドラインに則って行うものですから、根面のデブライドメントが難しい部位に対しては、最初から歯周外科治療を視野に入れるべきだと考えています。
また単根歯といえど、非外科的治療では歯周外科治療の2倍の時間がかかるわけですから、保険診療であればこそ歯周外科治療を行うべきと考えられます。
私は若いころ一日にフラップ手術を4件こなすような日を過ごしました。
フラップ手術は歯周外科治療の基本である切開・剥離・縫合の上達に役立つので、インプラント治療の腕を向上させたい歯科医師は、まずは歯周外科治療が上手くならないといけないでしょう。
フッ化ジアミン銀に対する考え方が欧米で変化。
・フッ化ジアミン銀を齲蝕の管理に使用すると歯が黒変するので、これまで米国を中心に欧米ではフッ化ジアミン銀を使用しない状況であった。
2016年7月11日、New York Times に"A Cavity-Fighting Liquid Lets Kids Avoid Dentists ` Drills"という記事が記載され、米国ではなぜフッ化ジアミン銀を歯の治療に使用しないのか、ものすごい反響が起こった。
この記事を受けて、米国歯科医師会は、齲蝕治療のマネジメントにフッ化ジアミン銀を使用するべきだとコメントを出した。
(参考文献)
ADA(American Dental Association). Silver Diamine Fluoraide in Caries Management. Science in News. July12,2016.
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フッ化ジアミン銀は、商品名サホライドといって、歯科では古くからある齲蝕進行抑制材です。
半世紀前は、虫歯の治療に非協力な子供達の齲蝕治療に使われていましたが、現在は親御さんが自分の子どもの歯が黒変するのを嫌うようになったために、徐々に使用されなくなってきていました。
ところが昨今、人間の寿命が延びることによって、かつてはあまり問題とはならなかった根面齲蝕が問題となるようになりました。
根面齲蝕は歯冠部とは異なり、さほど大きな齲蝕ではなくても容易に神経にまで到達し、そこから破折することも少なくないので注意が必要です。
下手にCR充填を行うよりも、根面齲蝕対策にサホライドを使用する方が患者さんにとって有益かもしれません。
下顎6の電気歯髄診は、近心頬側咬頭で判断するとよい。
・20-25歳の下顎大臼歯を用いて、どの部分に電気歯髄診査の電極を当てると一番反応しやすいかを1120回行い調査した文献では、近心頬側咬頭が最も反応した。
この理由は、電気歯髄診で反応するA繊維が多く密集する髄角の部分は最小の電流で、比較的早く強い反応を示すと述べられている。
(参考文献)
Lin J, Chandler N, Purton D, Monteith B. Appropriate electrode placement site for electric pulp testing first molar teeth. J Endod 2007 ; 33(11) : 1296-1298.
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ある研究報告では、精確さがそれぞれ、冷試験:86%、温熱試験:71%、電気歯髄診:81%という結果で、どの検査方法を用いても100%歯髄内の状態を正確に診断できるわけではないと結論付けられていますが、下顎第一大臼歯の電気歯髄診では近心頬側咬頭が最少の電流で、比較的早く強い反応を示したことが明らかになっています。
下顎大臼歯の主機能部位は頬側遠心咬頭と遠心咬頭の内斜面間になることが多いことから考えると、近心頬側咬頭が少ない刺激で反応するのも納得がいくような気がします。
ApoEε4遺伝子は、晩発性アルツハイマー病の有力な遺伝素因。
・教育歴や衣食住の生活環境がほぼ等しいと考えられる修道女を対象にした米国の研究もある。
ApoEε4遺伝子は、晩発性アルツハイマー病の有力な遺伝素因とされている。
75歳以上の修道女のうち、その ApoEε4遺伝子を有し、かつ残存歯数が9本以下の者は、認知症発症率が高いことを報告されている。
(咀嚼機能アップBOOK )
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晩発性アルツハイマー病が遺伝病であり、またその遺伝子が具体的にApoEε4遺伝子とまで解明されていることが分かりました。
また、ApoEε4遺伝子を有し、かつ残存歯数が9本以下の者は、認知症発症率が高いことも報告されています。
コーヌスデンチャーと認知症
・コーヌスデンチャーと認知症
複雑な設計のコーヌスデンチャーは、認知症が進むと着脱しにくく、清掃性も悪くなる。
装着しないまま咬合が変化して不適合になってしまっているケースが少なくない。
全身疾患などの変化を考え、義歯をメンテナンスしやすい形態に変える必要がある。
(アポロニア21 2018年4月号 )
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コーヌスデンチャーを推奨している歯科医師は、寝たきりになった際にも変化に対応しやすいと説明している方が多いです。
しかしながら、認知症の患者さんの歯科治療を多く手掛けている方の意見では、むしろコーヌスデンチャーの悪い面が出てしまっているという指摘があります。
ブリッジが力学的に適当ではないようなケースに対してコーヌスデンチャーを選択した場合、支台となっている歯牙が1本でも歯根破折等で抜去せざるを得ない状態になると、支える歯牙の数が減少しますから、軟らかいものしか食べていないのに義歯が痛いという状態になります。
義歯を入れても痛い場合には、次第に装着しなくなるのが人間ですし、支台となっている歯牙が挺出してきたり、傾斜してくると、ますます義歯をいれることすらままならなくなります。
また、咬めない状態が長く続くと、一層認知症の症状が進行するという他の研究報告もあります。
義歯の長期症例というと決まって登場するのが、このコーヌスデンチャーですが、そのようなケースの多くは、患者さんの年齢が若い時期から使用しているがゆえに、長期症例となっているケースが多いように感じます。
近年8020を達成している高齢者がかなり増加しているという背景を考えると、コーヌスデンチャーよりは必要な部位にインプラント治療を行う方が患者さんの利益につながると考えています。