2019年6月アーカイブ
根尖孔の拡大は歯根破折の発生を高めるのか?
・根尖孔の拡大は歯根破折の発生を高めるのか?
抜去歯を用いて破折抵抗性を調べた論文
ヒト抜去小臼歯(単根)を用い、作業長を根尖孔よりマイナス1ミリ(マイナスミリ群)、あるいは根尖孔まで(0ミリ群)として、NiTiファイル(K3, SybronEndo ; #25, 0.08 テーパー)で根管形成した。
試料をそれぞれさらに2群に分け、一方は#45, 0.02テーパーでの根管形成を追加した。
未処置根管のコントロール群を除くすべての試料をcontinuous wave of condensation法で根管充填した。
圧縮荷重試験を行い、破折時の荷重を調べた結果を示す。
根管充填前の荷重値は、すべての群でコントロール群より有意に小さい値であり(P<0.05)、作業長によらず#45, 0.02テーパー<#25, 0.08テーパー(P<0.05)、また形成サイズによらず0ミリ群<マイナス1ミリ群であった(P<0.05)。
一方、根管充填後の荷重値は、すべての群で根管充填前より有意に大きい値であった(P<0.05)。
大きい根尖孔の拡大は破折抵抗性を低くできるが、根管充填は破折抵抗性を回復することが示唆された。
(参考文献)
Prado M, et al. Resistance to vertical root fracture of root filled teeth using different conceptual approaches to canal preparation. Int Endod J. 2016; 49(9) : 898-904.
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圧縮荷重試験では、破折時の荷重の大きさが大きいほど丈夫であり、小さいほど丈夫ではないということになります。
この論文の結果では、『作業長によらず#45, 0.02テーパー<#25, 0.08テーパー(P<0.05)、また形成サイズによらず0ミリ群<マイナス1ミリ群であった(P<0.05)。』とあります。
ということは、作業長を根尖孔よりも1ミリアンダーにし、根尖孔はなるべく過剰に切削せずに、テーパーは大きめに付与するのが歯根破折を防止する根管形成方法であるということになります。
ただ、根尖が最初からラッパ状に開いているケースや、根尖が汚染されているケースでは根尖孔を拡大しないわけにはいきません。
そのため、やむなく根尖孔を拡大しなければいけなくなったケースでは歯根破折リスクをあらかじめ患者さんに伝えておく必要があるかもしれません。
カンジタはミュータンスによって形成されたバイオフィルムによる象牙質脱灰を増悪させる。
・カンジタはミュータンスによって形成されたバイオフィルムによる象牙質脱灰を増悪させる。
S.mutansはう蝕原生細菌、C.albicansは免疫機能が低下すると日和感染症を引き起こす真菌として知られており、相互の関係性はあまり知られていなかった。
バイオフィルムのう蝕原生を高めるのは、微生物の菌量よりC.albicansとS.mutansとの相互作用によるバイオフィルムの構造の変化や酸産生の増加に起因していた。
本研究はC.albicansがう蝕原生バイオフィルムの病原性を増大させることを報告する先行研究を支持し、微生物間の相乗作用のメカニズム解明に向けた今後の研究に重要な意味を持っている。
システマティックレビュー(Xiao J, et al. Caries Res 2018)では、C.albicansを保菌する子供は、C.albicansを保菌していない子供と比較して、幼児期においてう蝕発症のリスクが5倍高いことが示され、う蝕とC.albicansの関連を示唆している。
これらの報告から、C.albicansはS.mutansのう蝕原生を増強することにより間接的にう蝕リスクに関与する可能性があり、また根面う蝕のキーストーン病原体ともいうべき存在であると考えられ、根面う蝕の発症機序で重要な役割を担っている。
(参考文献)
Sampaio AA, Souza SE, Ricomini-Fiiho AP, Del Bel Cury AA, Cavalcanti YW, Cury JA. Candida albicans increases dentine demineralization provoked by Streptcoccus mutans biofilm. Caries Res 2018 ; 53(3) : 322-331.
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C.albicansを保菌する子供は、C.albicansを保菌していない子供と比較して、幼児期においてう蝕発症のリスクが5倍高いことが明らかになりました。
スクリュー固定とマイクロギャップ
・スクリュー固定は着脱時だけでなく装着後もインプラント-アバットメント境界部まで汚染されやすい。
またアクセスホールからマイクロギャップに向けて口腔内の汚れを吸い寄せてしまうかもしれない。
また、スクリュー固定は側方力によって容易にマイクロギャップでの疲弊が起こるため、コニカルアバットメントなどの選択も推奨される。
つまり、マイクロギャップが最低限に抑えられたしっかりとした連結部の固定に加えて、アクセスホールの強固な封鎖も求められる。
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2019 vol.26 3 )
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現在インプラントの固定様式のブームは、スクリュー固定です。
セメント固定では、残留セメントがインプラント周囲炎を惹起する場合があるために、リスクであると考えられているからです。
エクスターナルインプラントをスクリュー固定し、アバットメントスクリューが度々緩むケースで、アクセスホールからの汚れの侵入があれば、マイクロギャップは確実な感染源になるものと考えられます。
患者利益という側面からみて、最新技術は画期的なのか?
・日本におけるマイクロスコープの普及率は飛びぬけていることが知られているもの、海外に比べて治療成績が高いかというと、そのように関連付けた言説はあまりない。
・CAD/CAMのクラウンは、適合においても審美性においても歯科技工物として従来品より優れているとはいえないというのは事実です。
(アポロニア21 2019年 5月号 )
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30年ほど前に、日本の歯科医療にマイクロスコープを導入しようとしたきっかけは、術者の姿勢が悪いためにおこる頸頚腕症候群などの職業病を予防しようというものでした。
また、従来のクラウンを製作していたラボサイドは「汚い」「危険」「キツイ」の3K職場だったことを考えると、現在のCAD/CAMのクラウンは製作者にとっては夢のような変化です。
しかし、患者利益という観点からすると、それほど画期的ではないのです。
そのため、個人的には"最新が必ずしも最善とは限らない"と感じるようになりました。
透析患者は、象牙質知覚過敏症状や酸蝕症のリスクが高い。
・透析患者は、水分摂取の制限や発汗抑制などがあるため、好んで冷たいものを摂取する傾向があるため、象牙質知覚過敏症状を訴えることが少なくない。
さらに、唾液分泌低下による口腔乾燥は再石灰化を阻害し、減塩の目的のためレモンや酢などの酸味を用いることが推奨されていることが多く、これは酸蝕症を生じる一因となり、症状の発現のリスクを高めていると考えられる。
(参考文献)
須田英明. 透析患者の象牙質知覚過敏症, う蝕および歯髄疾患. 臨床透析. 2011;27 (6) : 657-662.
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透析患者は、象牙質知覚過敏症状や酸蝕症のリスクが高いことが分かりました。
臼後孔
臼後孔は臼後部に存在する下顎管と連続する孔で、頻度は3-75%と報告によりさまざまであるが、Dr岩永譲らのCBCTでの研究では26%の患者に認められた。
臼後孔は下顎孔付近の下顎管から直接分岐する臼後管が臼後部に開く孔であるため、構成要素も下顎管に近い。
多くの場合、レトロモラーパッドから1-2歯分前方までの大臼歯頬側歯肉の知覚支配をしている。
他の副孔同様、大きな臼後孔(径が1ミリ以上)の損傷は極力避けたい。
臼後孔のパノラマエックス線写真での検出率は1%以下と非常に低く、パノラマエックス線写真での判断はできないと考えた方がよい。
(参考文献)
Kikuta S, Iwanaga J, Nakamura K, Hino K, Nakamura M, Kusukawa J. The retromolar canels and foramina : radiographic observation and application to oral surgery. Surg Radiol Anat 2018 ; 40(6) : 647-652.
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日本人の臼後孔出現率は26%程度であることを踏まえ、智歯抜歯時には臼後孔を損傷しないように気を付けてCBCTの読影を行うことが大切であると考えられます。