2019年9月アーカイブ
主機能部位という側面でも義歯よりインプラントに軍配が!
・我々は、同等の臼歯部咬合支持の喪失を示す患者に対して、局部床義歯かインプラントで補綴処置した場合の主機能部位について分析を行った。
その結果、インプラントにおいては、92.3%の患者で主機能部位が大臼歯部に存在し、ほぼ天然歯の場合と同等の結果であったが、局部床義歯において70.8%にとどまった。
このように補綴装置の違いによって主機能部位が異なることが判明し、補綴装置のレジリティが関与している可能性が示唆された。
(参考文献)
山下秀一郎:21世紀の戦略的補綴 パーシャルデンチャーを科学する. The Quintessennce,24 (4) : 79-88,2005.
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保険診療ではアンテの法則に則ってブリッジの設計が決定されています。
また一般に歯科では、ブリッジが可能であればブリッジによる治療を行いますが、不可能であれば義歯による治療を行います。
具体的な例を挙げれば、大臼歯部では2本喪失しただけで、義歯使用を余儀なくなれている患者さんがいる一方で、前歯部では4本喪失してもいまだブリッジの治療を受けることが可能です。
そのような意味では、義歯を使用している患者さんは、前歯部より大臼歯部を喪失したことによって、義歯を使用している方が多いものと推測されます。
一方、今回の報告により、インプラントにおいては、92.3%の患者で主機能部位が大臼歯部に存在し、ほぼ天然歯の場合と同等の結果であったが、局部床義歯において70.8%にとどまったという結果が得られました。
これを受けて、大臼歯部の欠損に対して、義歯を使用している患者さんが多いという前提で考えるのであれば、仮に大臼歯部を義歯で咬合させる状態を歯科医師が提供したとしても、患者さんはそれよりも前方の天然歯部分で咬合しているケースがある一定数存在するといえるということになります。
すなわち、義歯は使用していても、咬んでいる部分は自分の歯の部分であるということになります。
また義歯を入れていても、入れていなくても、咬む部分は結局自分の歯であるならば、義歯自体使用することをやめてしまう患者さんもいるかもしれません。
そして今回のデータは、大学病院の歯科医師が理想的な義歯を製作した結果をベースにした報告と考えられるので、一般の義歯患者さんのデータはインプラントの92.3%という数字はもちろん、70.8%という今回の局部床義歯の数字からも大きく低下した数字であることが予想されます。
この数字の差が義歯よりもインプラント方が良く噛めることと関連しているように考察されます。
ガイドサージェリーの誤差は、距離で2ミリ以内、角度で8度以内。
・コンピュータ支援口腔インプラント外科の正確性:臨床的及びX線学的研究
(目的)
コンピュータ支援口腔インプラント外科治療は、従来法に比較して、いくつかの利点を有している。
本研究の目的は、三次元的な位置とインプラント埋入を比較することによってコンピュータ支援テンプレートを使用した口腔インプラント外科の正確性をin vivoで評価することである。
(材料および方法)
口腔インプラント治療が2施設が条件を満たした患者に対して、CTソフトウエァによる治療計画立案とCAD/CAMを用いて製造された光造形法によるテンプレートを使用して行われた。
2回目のスキャンは外科後に行われた。
術前および術後のCT像は比較され(計画と実際のインプラント埋入位置)、このタイプのイメージ誘導治療の正確性について評価した。
(結果)
25名の成人患者がこの後ろ向き研究に参加した;17名が施設1(部分欠損11名、無歯顎8名)、8名が施設2(部分欠損6名、無歯顎2名)であった。
コンピュータ支援法によって104本のインプラントが埋入された。
100本のインプラントに骨製癒着が認められた。
累積生存率は96%であった(平均フォローアップ期間は36か月)。
重大な外科的合併症はなかった。
正確性に関しては、89本のインプラントが比較に用いられた;インプラントのショルダー部と先端の平均側方偏位量はそれぞれ1.4ミリと1.6ミリであった。
平均深さ偏位量は1.1ミリ、平均角度偏位量は7.9度であった。
同じガイドで埋入されたインプラントの正確性に関して統計学的に有意な関連があった。
2施設間での正確性に関するデータに有意差はなかった。
学習曲線でも証明できなかった。
(結論)
25名の患者に対する臨床研究から、次の結論を得た。
(1)2施設で行われたコンピュータ支援口腔インプラント手術は、インプラント生存率に関して96%という高い可能性を示した。
(2)予定していたインプラント位置からの偏位はインプラントのショルダー部と先端部で認められ、インプラントの角度についても同様であった。
平均偏位量は距離で2ミリ以内であり、角度で8度以内であった。
(参考文献)
Valente F,et.al. Int Oral Maxillofac Implants 2009; 24 (2) :234-242.
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ガイドサージェリーでは、インプラント位置の偏位、インプラントの角度の誤差が認められ、平均偏位量は距離で2ミリ以内であり、角度で8度以内であったという結果でした。
個人的にはこの誤差は大きいと判断しているため、ガイドサージェリーの導入は見送っています。
またこの誤差を小さくしようとすると、骨火傷が生じるリスクが増大するなど他の問題を惹起するので、当面この誤差が小さくなることはないのではなかろうかと考えています。
P.gigivalisのジンジパインにより、アルツハイマー病発症か。
・アルツハイマー病の原因は脳内に侵入したP.gigivalisが分泌するタンパク分解酵素であるジンジパインが脳の神経細胞を変性させて認知症を発症させるというものでした。
(参考文献)
Porphyromonas gingivalis in Alzheimer's disease : Evidence for disease causation and treatment with amall-molecule inhibitors. Stephen S. Dominy, Casey Lynch, Florian Ermini, Malgorzata Benedyk, Agata Marczyk, Vol.5, no.1, eaau3333 Science Advances 23 Jan 2019.
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ジンジパインが脳内でタンパク分解を惹起するのであれば、まずはP.gigivalisが血流に入り込んでいるものと考えられます。
患者さんがアルツハイマー病にならないようにするために、歯周病治療を行う時代が今後来るかもしれませんね。
歯根破折の診断確定に、2年!
吉野らは、患者が症状(主として咬合痛)を訴えてから歯根破折の確定診断がつくまでに、75%の症例で2年を要したと報告している。
つまり「疑い」の大半は2年以内に決着がつくということだ。
(参考文献)吉野浩一:歯根破折の予兆を読む. 歯界展望, 127(6): 1049-1084. 2016.*****今回の報告で、歯根破折という診断が確定するまで、その多くは2年近くの期間を要することが分かりました。その2年間で、歯槽骨はかなり破壊されていることも多いので、一般的にはインプラントの治療期間が長くなるといわれています。しかしながら、抜歯即時インプラントでは、治療期間を短縮できる場合があるので、担当医に相談されるとよいと思います。キーストーン病原菌 P.g菌
・無菌マウスと通常の細菌叢が存在するマウスに、それぞれP.gを混入した懸濁液を2日に一度口腔内に注入しました。
すると、通常のマウスにのみ骨吸収が生じました。
しかし、それらのマウスから検出されたP.gの数はごくわずかで、全細菌叢の0.01%にも満たない数でした。
他方、その他の常在菌の数は増え、細菌叢も変化しました。
したがって、この場合のP.gの役割は、直接骨吸収を引き起こしたということではなく、常在菌の細菌叢の組成に変化をもたらし、その結果骨吸収が起こったということになります。
・通常の細菌叢をもつマウスで、補体という免疫にかかわるタンパクの一部(C3aまたはC5a:白血球を炎症部位に呼び寄せる働き)のレセプターがないものにP.gを与え続けたものです。
結果、通常のマウスのような骨吸収が起こらなかったことが観察されました。
そして、常在菌の数や組成も変化しませんでした。
すなわち、補体の一部が機能しないマウスでは骨吸収が起こらなかったということになります。
したがって、P.gは補体の一部を利用することで、常在菌の組成や量を調節する役割があり、その結果、炎症反応の増加や骨吸収が引き起こされると考えられます。
・これらの事実と、P.gの免疫応答や炎症反応を抑制する機能から、歯周炎における役割は、宿主の防御機能を低下させることで、常在菌の量や組成に変調を引き起こすことであると考えられます。
さらに、歯周炎患者のポケット内のP.gの量全体の割合は少ないことがほとんどです。
生物学では、少ない個体で生態系に影響を与えるような動物のことを「キーストーン種」とよびます。
P.gも、少ない数で常在細菌叢に大きな影響を与えることから「キーストーン菌種」あるいは「キーストーン病原菌」とよばれます。
(参考文献)
Darveau RP, Hajishengallis G, Curtis MA : Porhyromonas gingivalis as potential commmunity activist for disease. J Dent Res, 91(9) : 816-820,2012.
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全細菌叢の0.01にも満たない量のP.g菌が存在するだけで、常在菌の細菌叢の組成に変化をもたらし、その結果骨吸収を起こすことが分かりました。
P.g菌が直接骨吸収を引き起こしているわけでない点が、興味深いです。
インプラント破折の原因は、材料の金属疲労と辺縁骨の吸収である。
・Morganらは、インプラント破折の原因は過荷重ではなく、材料の金属疲労と辺縁骨の吸収であると、Choeらは材料の腐食疲労破壊であると記述している。
Chrcanovicの研究は踏み込んだ原因の分析を行っている。
すなわち、一般化推定方程式モデルを用いて以下の5つの因子がインプラントの破折に対し統計学的に有意な影響を持つ。
:すなわち、
1. グレード3および4のチタン製インプラントはグレード1の機械加工インプラントに比べ破折の確率は72.9%低く、
2. ブラキサーは非ブラキサーに比べ破折の確率は1819.5%高く、
3. カンチレバーと隣接しているインプラントはカンチレバーから離れている、あるいはカンチレバーがないインプラントに比べ247.6%増大し、
4. インプラントの直系の1ミリの増大は破折の確率を96.9%減少させ、
5. 長さの1ミリの増大は22.3%増大させる、としている。
(参考文献)
Chrcanovic BR, Kisch J, Albreksson T, Wennerberg A. Factors influencing the fracture of dental implants. Clin Implant Dent Relat Res 2018 ; 20(1) : 58-67.
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インプラントの破折は、私は経験がありませんが、無茶な設計のインプラント治療を引き受けていないことが関係しているかもしれません。