2019年10月アーカイブ
歯周炎の治療により心疾患のリスクマーカーは限定的に改善する。
・歯周炎の治療により血管内皮機能が向上するか?
CRP、IL-6、白血球数、可溶性E‐セレクチン、フォン・ヴィレブランド因子は治療24時間後に対照群と比較して実験群で有意に高値を示した。
白血球数は7日後以降、可能性E-セレクチンは60日後、180日後には実験群で対照群と比べ有意に低い値となっていた。
以上の結果から、筆者らは、集中的な歯周治療は、急性かつ一過性の全身的な炎症症状と血管内皮機能の低下を引き起こしたが、治療の6か月後には、口腔内の健康状態と血管内皮機能の向上の相関がみられた。
(参考文献)
Tonetti MS, DAiuto F, Nibali L, Donald A, Storry C, Parkar M, Suvan J, Hingoranial AD, Vallance P, Deanfield J. Treatment of periodontitis and endothelial function. N Engel J Med 2007 ; 356(9) : 911-920.
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歯周炎の治療により心疾患のリスクマーカーは限定的に改善することが明らかになりました。
口腔ケアにより肺炎を減少させることのエビデンスレベルは低い。
コクランSR(Liu Cら, 2018)において、口腔ケアの肺炎の発症抑制効果に関して取り上げられた4編のRCTが評価された結果、口腔ケアが有効とする論文のバイアスが高く、その効果に関して、肺炎による死亡のリスクは下げるかもしれないが、エビデンスレベルが低いと評価されました。
今後、確定的な結論を得るには、より信頼性の高い研究が必要と結論づけられました。
(参考文献)
Liu C, et al. Oral care measures for preventing nursing home-acquired pneumonia. Cochrane Database Syst Rev 2018 ; 27(9). CD012416. doi : 10.1002/14651858. CD012416.pub2.
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口腔ケアにより肺炎を減少させることのエビデンスレベルは低いということが明らかになりました。
ひとり親世帯の子供は、歯の疾患やアレルギー疾患の有病率が高い。
生活保護受給者への健康管理支援が2021年から全国の福祉事務所で開始される。
しかし、子供への支援は必須ではなく、自治体により差が出かねない状況だ。
そんな中、生活保護受給世帯ではアレルギー性疾患や歯の疾患がある子供の割合が一般世帯の10倍以上になるとの研究結果が発表された。
対象は、2016年1月時点で生活保護を受給していた世帯の15歳未満の子供573人。
厚生労働省の国民生活基礎調査を基に同年代の状況と比較した。
その結果、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、う蝕や歯肉炎などの歯の疾患などの有病割合は、一般家庭の子供に比べて極めて高いことが判明。
さらに、ひとり親世帯の場合は、ぜんそくが約1.9倍、アレルギー性鼻炎が約1.6倍、アトピー性皮膚炎が約4.2倍、歯の疾患が2.1倍多いことがわかった。
経済的な困窮に加え、育児のストレスなどの影響が原因と考えられるが、比較したデータが異なるので参考地だが、生活保護受給世帯別のデータは十分比較できる。
ひとり親世帯に対する追加的な支援を検討する必要があるかもしれないとしている。
(デンタリズム 2019年No.36 )
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ひとり親世帯の子供は、歯の疾患やアレルギー疾患の有病率が高いということが明らかになりました。
臼歯で咬むときと前歯で咬むときとで、脳が活性化される部位が異なる。
・歯の喪失が認知症の危険因子になるということはこれまでも提唱されており、口でものを咬むことが脳機能に深く関与していると考えられている。
ただ、そのメカニズムはいまだ不明な点が多く残されているのが現状である。
しかしこの度、口でものを咬む動作が異なる二つの運動制御機構に働くことが解明された。
研究グループは、咀嚼時に脳内で働く運動制御機構に着目し、食物を力強くすりつぶす臼歯と繊細な力でものを咥えたり咬み切ったりする前歯を介した解析を行った。
その結果、臼歯で咬むときは、咬む力が大きいほど脳内の力強く噛む機能がより強く働くことが示され、逆に前歯で咬むときは咬む力が小さいほど脳内の繊細に力をコントロールする機能がより強くことが明らかとなった。
これにより、ものを咬む運動を行う際、脳内において単に咬むという単一の指令系統だけでなく、異なる二つの運動制御機構が関与することが初めて立証されたことになる。
この研究結果は、単に咀嚼時に働く運動司令塔の仕組みを解明するだけにとどまらず、咀嚼時に歯や口の粘膜などから入力される感覚情報が脳の機能に及ぼす影響を明らかにする一助となり、さらには咀嚼が脳を介し全身の健康にどのような役割を果たすかを解明する新たな手掛かりとなるかもしれない。
(デンタリズム 2019年No.36 )
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『小脳は、臼歯で咬む際には積極的に働く一方で、前歯で咬む際にはさほど働かない。』
『帯状皮質運動野は、前歯で咬む際には積極的に働く一方で、前歯で咬む際にはさほど働かない。』
『臼歯で咬むときは、咬む力が大きいほど脳内の力強く噛む機能がより強く働くことが示され、逆に前歯で咬むときは咬む力が小さいほど脳内の繊細に力をコントロールする機能がより強くことが明らかとなった。』
非常に興味深い研究結果であると感じました。
上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合
・上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合は約23.3%であり、臼歯根尖が洞底粘膜に近接していることは珍しいことではない。
(参考文献)
Kwak HH,Park HD,Yoon HR, Kang MK, Koh KS, Kim HJ.: Topographic anatomy of the inferior wall of the maxillary sinus in Koreans. Int J Oral Maxillofac Surg. 33(4):382-388,2004.
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上顎洞粘膜剥離操作によって残存歯の栄養血管、神経を損傷すると、歯髄壊死から骨補填材に感染が拡大し、上顎洞炎へと移行する恐れがあるので、注意が必要です。
臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率
・臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率と12か月のフォローアップ期間後における生存率に影響を与える因子の探索:システマティックレビュー
(結果)
上下顎の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは3410本で、少なくても補綴装置装着後12か月以上のフォローアップ後における累積生存率は、96.45%だった。
患者の平均年齢は35-63.5歳だった。
年齢と生存率には相関がなかった。
上顎と下顎におけるショートインプラントの生存率は同程度だった(それぞれ96.57%と96.37%)。
異なるインプラントの寸法におけるショートインプラント生存率に対するオッズ比計測では、長径6ミリで直径4.1ミリのショートインプラント生存率(94.49%)が、全体の生存率に比較して統計学的に低い生存率を示していた(オッズ比1.59、P<0.05)。
同様に、長径と直径が4ミリのショートインプラント生存率(93.81%)は、全体の生存率と比較して低い生存率の傾向だった(オッズ比1.79、P=0.052)。
一方、長径6.5ミリで直径5ミリのショートインプラント生存率(98.52%)は、全体の生存率と比較して統計学的に高い生存率だった(オッズ比0.41、P<0.05)。
インプラントの直径だけを考慮した場合、4.1ミリは統計学的にもっとも生存率が悪く(生存率94.49%、オッズ比1.59、P=0.035)、5?は統計学的に最も生存率が良好だった(生存率98.28%、オッズ比0.48、P=0.012)。
(結論)
少なくても12か月以上のフォローアップ期間において、上下の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは、通常の長径を有するインプラントと同程度の生存率を有すると結論づけることができる。
(参考文献)
Al-Johany SS, Survival rates ofshort dental implants(≦6.5ミリ) placed in posterior edentulous ridges and factors affecting their survival after 12-month follow-up period: A systematic review. Int J Oral Maxillofac 2019; 34(3): 605-621.
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今回の報告で、直径5ミリ、長径6.5ミリのインプラントは、直径4.1ミリ、長径6.0ミリのインプラントよりも有意な差をもって生存率が高いようです。
使用しているインプラントシステムが、6.5ミリのインプラントを販売していないので、当院では使用したことがありませんが、機会があれば使用してみたいものです。