2020年3月アーカイブ
連結冠で支台歯の負担を減弱化できる。
・Shohetは遊離端義歯での支台歯2本を連結することで、遠心支台歯への負担を10-35%減弱できると報告している。
(参考文献)
Shohet H: Relative magnitude of stress on abutment teeth with different retainers. J Prosthet Dent, 21: 267-282,1969.
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歯科治療を行っていると連結冠を選択する方が、単冠処理する場合と比較して、力学的な問題が少なくできると考えています。
近年保険収載されたCAD/CAM冠は、基本的に連結できないのと歯質の削除量が多いという理由で、あまり良質な医療とは考えていません。
時代は"白い歯を安価な価格で"という方向に向かっていますが、その評価が将来どうなるのか見守りたいと考えています。
IARPDはRPDと比較して、義歯の安定、咀嚼および審美性に有意に優れる。
・Wismeijerらの研究では、片側もしくは下顎両側性遊離端欠損症例において、IARPDはRPDと比較して義歯の安定(P=0.029)、咀嚼(P=0.001)および審美性(P=0.009)に有意に優れており、さらにヒーリングキャップによる支持のみを与えた群よりボールアタッチメントを用いた群の方が満足度(P=0.024)、義歯の安定(P=0.007)、咀嚼(P=0.003)及び審美性(P=0.001)は有意に高かったという報告がある。
この二つの研究から、アタッチメントを装着しなくても、遊離端後方部にインプラントを埋入し、義歯を支持させることによって、満足度は有意に向上し、アタッチメントを装着すると支持に加えて維持力も発揮され、さらに満足度が向上する可能性が示唆された。
(参考文献)
Wismeijer D, Tawse-Smith A, Payne AG. Multicentre prospective evaluation of implant assisted mandibular bilateral distal extension removable partial dentures: patient satisfaction. Clin Oral Implants Res. 2013; 24(1):20-27.
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IARPDはRPDと比較して、義歯の安定、咀嚼および審美性に有意に優れることが明らかになりました。
少ないインプラントで患者さんの満足を獲得する方法としては、IARPDは有効な手段であると考えられます。
歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響
・歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響:システマティックレビュー
本研究は1歯から数歯の欠損のインプラント上部構造のクラウン-インプラント(c/I)比とインプラントの残存率、インプラントの辺縁骨吸収および補綴的合併症の発現との関係を記述した論文のシステマティックレビューである。
ショートインプラント(SI)、あるいはエキストラショートインプラント(ESI)は、顎骨の吸収が大きく、上顎では洞底が近い症例、下顎では下顎管が近い症例に適用される。
このような症例では対合歯列までの距離が長いために、インプラントが短いだけでなく、C/I比が大きくなるという負の因子が加わる。
本研究ではC/I比1.5で区切り、C/I比が1.5を超える場合とそれ以下の場合とで残存率などを比較した。
その結果、歯冠長が大きいとESIの残存率が低下し、インプラント周囲辺縁骨の吸収が増大するという証拠はないとの結論であった。
通常、ESIは単独埋入を避け、他のESIあるいは長いインプラントと連結することが原則とされる。
本研究では、単独歯欠損と複数歯欠損を交えて研究対象としているため、SIの単独埋入での残存率およびインプラント周囲辺縁骨吸収が、長いインプラントの単独埋入と差がないということではない点を確認したい。
本論文の著者であるRavidaらのもう1編のESIのレビュー論文では、上顎に埋入されたESIの5年での残存率は90.6%とやや低く、一方、下顎では5年で96.2%と高い残存率を示した。
さらに非連結の補綴的合併症の発現頻度は連結されたESIの3.3倍多く、スクリューの緩みは15.2倍多かったと記述している。
またボーンレベルのESIの1年での辺縁骨吸収はティッシュレベルのESIに比べよりおおきな辺縁骨吸収を認めたと記述している。
Penarrocha-Oltraらは吸収が顕著な下顎臼歯部に、1群はブロック骨移植で歯槽部増高を図り通常長さのインプラントを埋入、2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
その結果、前者の1年後のインプラント成功率は95.5%、残存率は91.%、後者のESIの残存率は97.1%、成功率も97.1%と、1年の短い経過であるが下顎の既存骨に埋入したESIは高い成功率を示した。
これらの研究を総合してESIの臼歯部単独歯欠損への応用は避ける。
やむを得ず適用する場合は、患者に失敗のリスクが高く推奨できないことを説明する。
複数歯欠損であれば、ESIは隣接するインプラントと連結する。
またインプラント体の中心軸から離れた咬合面の部位での咬合接触をさける、グループファンクションにするなどの上部構造への配慮が必要である。
(参考文献)
Ravida A, Barootchi S, Alkanderi A, Tavelli L, Suarez-Lopez Del Amo F. The effect of crown-to implant ratio on the clinical outcomes of dental implants: a systematic review . Int J Oral Maxillofac Implants 2019; 34(5) : 1121-1131.
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ショートインプラントの治療予後については有意差のあるレベルで結果が悪いというデータはこれまであまりなかったように感じます。
今回の報告により、ショートインプラントあるいはエキストラショートインプラントを特に上顎に単独で使用することは避けるべきであることが明らかになりました。
細いファイル、太いファイル、どちらが折れやすい?
細いファイル、太いファイル、どちらが折れやすい?
ステンレススチールファイルを使用している時など、すぐに刃が伸びたり、折れたりするのは#8-15くらいの細いファイルである。
Ni-Tiファイルももちろん、細いファイル(おおむね#20)以下はねじれ破折しやすい。
一方、疲労破折については、太いファイル(おおむね#30 06テーパー以上または#35 04テーパー以上)の方が先に折れる。
細いファイルは、狭窄根管に挿入して少しでも無理に根尖方向に力を加えると、簡単にねじれ破折を起こしてしまう。
そこで狭窄根管では、慎重に根管に挿入して抵抗を感じたらすぐに引き抜く。
もしくは#8-10の手用ステンレススチールKファイルで十分なガイドを製作する必要がある。
逆に狭窄さえしていなければ、細いファイルは湾曲根管で使用しても、破折のリスクは高くない。
太いファイルは疲労破折が生じやすいため、湾曲根管の使用で注意を要する。
これは、太いファイルの方が変形に大きな応力が必要となるということに起因する。
径の太いファイルであればあるほど、湾曲を超えて根管内で作業させる時間を少なくしなくてはならない。
一方、太いファイルは湾曲根管では注意を要する反面、直線根管で使用する際にはほとんど破折のリスクがない。
破折頻度という観点においては、疲労破折の方が多いことが明らかにされている。
つまり、臨床実感とは異なり、疲労破折しやすい太いファイルの方が破折しやすいことになる。
(ザ・クインテッセンス 2020年2月号 )
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細いステンレススチールファイルは狭窄根管でネゴシエーションを行っている時に破折リスクが高いと感じていました。
一方、太いステンレススチールファイルは湾曲根管で回転させる量が多いときに破折リスクが高いと感じていました。
細いステンレススチールファイルは刃が伸びやすく、その延長には破折があるので、伸びたステンレスファイルは破棄するようにしていました。
太いステンレススチールファイルは、術者のファイルが伸びた感覚が乏しい状態で破折する印象がありました。
今回の報告により、疲労破折は太いステンレススチールファイルの方が破折しやすいことが分かりました。
最近のNi-Tiファイルには、根管を無駄に削合するのではなく、根管内の汚染物質を選択的に除去するものもあると聞きます。
個人的にはステンレススチールファイルである程度拡大してから、Ni-Tiファイルに変えて治療を進めるのが問題が生じにくいと感じています。
根面う蝕罹患率は、80代で70%。
・2017年における、我が国の高齢者の根面う蝕罹患率は70代で65%、80代で70%であり、その90%は歯周病の罹患による歯肉退縮が関わっている。
(参考文献)
小峰陽比古ほか:根面う蝕重症度と歯周病重症度の関連性調査研究. 第147回日本歯科保存学会2017年度秋季学術大会, 2017.
(日本歯科評論 2020年1月号 )
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現在わが国では、80歳以上で20本以上の歯がある高齢者がおよそ半数いると聞きます。
ただ、その歯の存在する位置までは、8020の概念には含まれていません。
そのため、歯はあるけれども噛めないと感じている高齢者は比較的多く存在するものと考えられます。
時代は歯を保存する方向に進んではいます。
しかしながら、患者さんが抜いてほしいという具体的な要求がなければ、それでよいというわけではないと思います。
その歯が問題なく噛める状態が長く続くかどうかを専門家の視点で考える必要があるように感じます。
根面う蝕からの歯根破折が将来的に予想できるのであれば、予後の不安な歯は抜歯する方がよい場合もあるように感じます。
ショートインプラントとクラウン-インプラント比
・本研究ではインプラントの生存率についての記載がないが、訳者がショートインプラントに関する論文を読んでいる限り、長径8ミリ以上のインプラントであれば、CI比が2より大きくてもインプラントの生存率には影響がないと思われる。
一方、長径が6.5ミリ以下のショートインプラントでは、CI比が2より大きいと有意にインプラント生存率が悪くなることがシステマティックレビューから明らかになっている。
そして本研究では、長径が7ミリでCI比が2より大きいと確かに辺縁骨吸収が有意に大きくなることは分かったが、臨床的には大きな問題は出ない範囲なのかもしれないと考察している。
したがって、近年特に多くなってきたショートインプラントに関する論文をまとめると、臨床的結果に影響を与える可能性が高くなるショートインプラントの長径は、現時点では約7ミリ前後であると思われる。
しかしながら、現在、ショートインプラントに関する観察研究やシステマティックレビューが氾濫していることから、一度情報を整理して、ひとくくりにしている「ショートインプラント」に関する真実を明らかにした方が良いかもしれない。
実臨床にエビデンスとして生かすためには、短い長径のインプラント(6ミリ以上7ミリ未満、5ミリ以上6ミリ未満、4ミリ以上5ミリ未満)情報を別々に集めた、質の高いシステマティックレビューが必要であろう。
(参考文献)
Di Fiore A, Vigolo P, Sivolella S, Cavallin F Katsoulis J, Monaco C, Stellini E. Influence of crown-to-implant ratio on long-term marginal bone loss around implants. Int J oral maxillofac implants 2019 ; 34849 : 992-998.
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今回の報告のエビデンスを整理すると、長径8ミリ以上のインプラントであれば、CI比が2より大きくても生存率には影響しないこと。
また、長径6.5ミリ以下のショートインプラントではCI比が2より大きいと有意に生存率が低下することが明らかになっています。
現時点では使用するショートインプラントは長径7ミリくらいにしておいた方が無難と考えられます。