2020年8月アーカイブ
ジンジパイン阻害能をもつもの。
ポリフェノールにはジンジパイン阻害能があります。
リンゴのポリフェノールやホップのポリフェノール、ユーカリ成分のマクロカルパール、あるいはウコン成分のクルクミンはジンジパインのタンパク分解能を押さえます。
そのため、P.gingivalisの細胞障害作用を阻害したりすることができます。
特にクルクミンの作用は強く、実験室レベルではP.gingivalisの歯肉上皮細胞への付着・侵入を完全に防ぎます。
(参考文献)
Izui S, et al. J Periodontol 87(1), 83-90,2016.
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P.gingivalisがなぜ病原性が高い歯周病菌なのかというと、それは強力な病原因子をたくさん持っているからです。
その中でも特に強力なものにジンジパインがあります。
このジンジパインは、タンパク分解酵素の一種で、タンパク質を分解して、P.gingivalisが栄養として消化できる形にします。
また逆にいうと、ジンジパインがないとP.gingivalisが生きていることができないということになります。
そこで今回、ジンジパイン阻害能についての研究を紹介する機会を得ました。
この報告によると、ポリフェノール、クルクミンにはジンジパイン阻害能を有する食品成分ということが明らかになりました。
インプラント周囲炎にもジンジパイン阻害能があるのか、今後の研究報告に期待したいです。
P.gingivalisがもっとも病原性の高い歯周病菌なのか。
800種ともいわれる口腔細菌でなぜP.gingivalisがもっとも病原性の高い歯周病菌なのか。
それは強力な病原因子をたくさん持っているからです。
病原因子は細菌の武器そのもの。
P.gingivalisほど強力な武器をもっている口腔細菌は他にはいません。
P.gingivalisの病原因子の中で、特に強力なものは線毛とジンジパインです。
線毛はバイオフィルムを形成したり、歯周組織に侵入したりするために必要な付着因子です。
そしてジンジパインは歯周組織やバイオフィルムのタンパク質を分解する酵素です。
またジンジパインは付着因子としてもはたらきます。
(歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト )
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P.gingivalisがもつジンジパインというタンパク質分解酵素は、タンパク質をペプチドに変えます。
ペプチドはP.gingivalisの栄養となります。
また、ジンジパインの遺伝子をすべてノックアウトしたP.gingivalis変異株を、タンパク質を唯一の栄養源とする培地で培養しても、この株はほとんど増殖しませんでした。
このことにより、P.gingivalisはジンジパインがなければ栄養補給することができず、生きていけないことが明らかになりました。
一方、固いお肉とパパイヤを和えると驚くほど肉が柔らかくなるのも、パパイヤがもつパパインというタンパク質分解酵素が肉の筋を切ってくれるからです。
これと関連して、ジンジパインはパパインと同じ種類のシステインプロテアーゼというタンパク質分解酵素なので、gingivalisがもつpapainということで、ジンジパインと名づけられました。
唇側骨が1ミリ以下と薄い場合は約7.5ミリの垂直的骨吸収が生じる。
・Chappuisらの報告で唇側骨の厚みが1ミリ以上と厚い場合は垂直的骨吸収が少なく平均1.1ミリであったのに対して、唇側骨が1ミリ以下と薄い場合は約7.5ミリの吸収が起こることが示されおり、唇側骨の厚みが1ミリ以上あるかないかがカギとなり、束状骨を失った後の唇側骨の高さが減少することが影響していると示唆される。
(参考文献)
Chappuis V, Engel O, Reyes M, Shahim K, Nolte LP, Buser D. Ridge alterations post-extraction in the esthetic zone : 3D analysis with CBCT. J Dent Res 2013 ; 92(12Suppl) : 606-614.
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特に前歯部インプラントでは、唇側骨の厚みが1ミリ以上ないと審美的に成功とはいえない状態となります。
当院では可及的に抜歯とインプラント埋入を同時に行う抜歯即時インプラントを行っていますが、インプラントを成功させるためには、歯槽骨特に唇側骨を破壊しないデリケートな抜歯技術が必要となると考えています。
根面う蝕の原因菌
歯周病、う蝕の原因となる酸産生能が強いS.mutansやLactobacillusのほかにも、根面う蝕ではActinomycesなどのそれほど酸酸性能が強くない細菌も原因となり、これらの菌が多く認められます。
さらに、う蝕病巣にはPrevotellaなどのたんぱく質分解活性を持つ細菌も検出されています。
根面の象牙質はエナメル質と異なり、有機質を多く含んでいるため、生体由来のたんぱく質分解活性だけでなく、これらの細菌による有機物の分解も、う蝕の進行に関与している可能性が示唆されています。(歯科衛生士 2020年6月号 )
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生体由来のたんぱく質分解活性により根面の象牙質の有機質が分解されることを考えると、現時点では根面う蝕の対策は容易ではないものと推測されます。
上顎第一大臼歯のルートランクは、遠心>近心≒頬側。
江澤らによると、上顎第一大臼歯のルートランクは、遠心>近心≒頬側であり、病変の出来やすさや治療方法に影響する。
(参考文献)
江澤敏光, 他: 日本人永久歯根形態に関する研究 第1報 上顎第一大臼歯. 日歯周誌. 29(3): 871-879.
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歯列不正の一つの原因に、顎の大きさが小さいのに、歯牙のサイズが大きいタイプがあります。
またそのようなタイプでは、歯牙の咬頭展開角が小さく、特定の咬頭が過剰に発達している場合もあります。
過剰に発達した咬頭が噛み合う相手の歯牙を破壊してしまうケースも少なくありません。
これが歯磨きが良くても、虫歯ができてしまう一例です。
また頻繁に認められるのが、上顎大臼歯が遠心頬側方向に傾斜し、下顎大臼歯は近心舌側方向に傾斜しているケースです。
このような場合、上顎大臼歯に対して根管治療を行うと、歯牙が後方に傾斜しているために、治療を行うことが容易ではありません。
術者が治療を行うことに困難に感じるケースのほうが、一般にその歯の予後は悪いことが多いです。
すなわち、根管治療の予後不良症例は遠心頬側方向に傾斜していると仮定するのであれば、第一大臼歯において、近心根分岐部が他の部位よりも先に破壊される可能性が高いということになります。
根分岐部病変の予後が悪い理由。
・根分岐部病変の予後が悪い理由は、歯肉線維が関係していると考えられる。
歯肉線維には1.歯牙歯肉線維 2.歯牙骨膜線維 3.歯槽歯肉線維 4.輪状線維の4種があり、歯と歯肉の付着、歯肉の増強に関与している。
根分岐部病変2,3度の歯では、歯の周囲には走行していない。
そのため、根分岐部を治療しても歯肉を補強する弾力性が弱く、また付着も弱く治癒しにくいと考えられる。
つまり、治癒後に輪状線維が歯根周囲をしっかりと囲めるように、凹凸の少ない単純な歯根形態にすることが長期的な予後に関係していると考えれる。
(参考文献)
亀山洋一郎 : 歯肉線維と歯根膜線維. 岩手歯誌, 1:137-142, 1976.
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根分岐部に対する歯周外科の予後を確実なものにするためには、歯根形態を単純化し、輪状線維が歯根周囲をしっかりと囲まれるようにすることが明らかになりました。
しかし、根分岐部病変の状態が悪ければ悪いほど、当然根管治療が必要になるケースが多くなり、場合によっては抜根も視野に入るかと考えられます。