2021年1月アーカイブ
咀嚼回数と顎骨の発育の関連性
顎骨の発育は遺伝子的な要因が大きいと思われますが、小中学生のころに噛み応えのある食物を摂取する機会が多かった群の歯列は放物線状の歯列形態を認めることが多く、噛み応えのある食物を摂取する機会が少なかった群では狭窄した矩形やV字型の歯列形態を認めることが多かったという報告があります。
この研究では、小中学生のころに、自然と咀嚼回数が増えるような食材を嗜好したり、「しっかり咬んで食べなさい」と声かけされる家庭環境で育ったりした場合、そうではない場合と比べ歯列の幅が1.5-1.7ミリ程度大きくなったことが示されています。
歯列の幅が大きくなれば、歯列や咬合がよくなり不正咬合が予防できます。
また、歯の清掃が行いやすくなり、う蝕や歯周病の予防につながります。
(参考文献)
茅田義明, 藤木大介, 柳沢幸江, 川本仁. 小児期の食習慣が歯列形態の形成に及ぼす影響. 日咀嚼会誌 2020;30(1):19-26.
*****
インプラント治療が必要になる方の骨格を見ていると、歯槽骨が前後的・左右的にバランスが悪いことが多いように感じています。
理屈としては、両側でしっかりと咀嚼の訓練をすれば、正常な発育に寄与することが推測されますが、咀嚼の是正だけでは不十分であろうと考えています。
もしかすると、鼻呼吸の確立や嚥下が咀嚼と同じかそれ以上に、正常な発育に影響を与えるかもしれません。
歯周病でサルコペニアの病態悪化。
骨格筋は体重の約40%を占める最大の臓器で、全身の糖代謝調節においても基幹的な役割を担っている。
歯周病が糖尿病の病態を悪化させる機序の一つにインスリン抵抗性の惹起が挙げられるが、インスリンの依存性に糖の取り込み、代謝を行う組織である骨格筋との関連は解明されていなかった。
骨格筋組織の脂肪化に着目し、歯周病原細菌の血清抗体価との関連を調査した。
その結果、メタボリックシンドローム症候群の患者において、骨格筋脂肪化マーカーとジンジバリス菌の血清抗体価が有意に相関していることが判明。
また、ジンジバリス菌を投与したマウスでは、腸内細菌叢の変化を伴い骨格筋の炎症関連遺伝子群が上昇、脂肪化が亢進しインスリンシグナルの低下とともに糖の取り込みが阻害されていることを見出した。
研究グループによると、この成果は、ジンジバリス菌の感染が骨格筋の代謝異常を引き起こし、メタボリックシンドロームのリスクファクターとなっており、サルコペニアへとつながる可能性を示しているとのこと。
サルコペニアは筋肉量の低下をも含む概念だが、動作の俊敏性が失われ転倒しやすくなるなど身体的問題に直結する。
これからの高齢化社会において歯周病予防の重要度がさらに高まるだろう。
(Dentalism January 2021No.43 )
*****
歯周病がサルコペニアの病態悪化に寄与していること、ジンジバリス菌の感染が骨格筋の代謝異常を惹起することがが明らかになりました。
cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者は、微小脳出血の出現率が4.7倍高い。
ミュータンス菌が微小脳出血に関与
ミュータンス菌のうち、脳の血管内のコラーゲンと結合できるcnm遺伝子保有株は、微小脳出血の出現に関与する。
これまで脳出血患者にはcnm陽性ミュータンス菌を持つ割合が多く、脳のMRI画像で観察できる微小な脳出血の跡が多いことを明らかにしていたが、実際に菌保有者の脳内で微小な脳出血が増えていくかどうか、経時的な変化はわかっていなかった。
今回は、脳卒中でセンターに入院した患者から歯垢を採取し、ミュータンス菌を培養。
cnm陽性ミュータンス菌と経時的な微小脳出血の出現率の関係を調査した。
結果、cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者は、そうではない患者と比べて、微小脳出血の出現率が4.7倍高いことが判明。
cnm陽性ミュータンス菌が、生活習慣や年齢の影響によってほころびが出た脳血管のコラーゲンに接着して炎症を起こし、出血を止める血小板の働きを抑制することで脳出血を引き起こすのではないかと推察している。
(アポロニア21 2021年1月号 )
*****
cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者は、そうではない患者と比べて、微小脳出血の出現率が4.7倍高いことがあきらかになりました。
1歳半で保育所に通っている幼児は、虫歯になるリスクが1.55倍高い。
・1歳半で保育所に通っている幼児は、日中に親の養育を受ける幼児と比べて、3歳になるまでに虫歯になるリスクが1.55倍高い。
岡山大学大学院医歯薬総合研究科の森田学教授と同大学病院予防歯科の横井彩医員らの研究で明らかになったもの。
これまで日本では、日中に祖父母から養育を受けている幼児や、祖父母と同居している幼児の虫歯リスクが高く、保育所へ通う幼児の虫歯リスクは低いことが報告されていた。
研究グループは、女性の社会進出によって幼児の保育環境が変化している中、保育所と虫歯との関係の変化に着目して調査。
どう結果について、「親の養育を受ける幼児は、保育所へ通う幼児と比べて、おやつの回数が少なかったり、毎日の歯磨きが習慣づけられていたりと、虫歯になりにくい生活習慣を送っていることが分かった」とし、虫歯予防につながる生活習慣を身に着けられるように保育所と一緒に取り組む重要性を指摘している。
(アポロニア21 2020年12月号 )
*****
以前であれば幼児が、祖父母と同居しているケースは多く、虫歯リスクも高い場合が多かったものと考えられます。
一方、核家族化が進んだ現在では、おやつの回数が少なく、歯磨き習慣が徹底されているなどの理由により、親の養育を受ける幼児の方が虫歯リスクが低いという結果が明らかになりました。
興味深い結果ですね。
感染症予防に「Ig-A」が有効。
・感染症予防に「Ig-A」が有効。
マスク着用で口臭が気になる人が急増した原因の一つとして、唾液量の減少があげられる。
口腔内は細菌の巣窟。
ウイルスをも存在する感染症の入り口で、唾液量の自浄作用が少なくなると、新型コロナやインフルエンザに感染する割合が高くなるとし、感染予防として唾液・口腔ケアの必要性を訴えた。
さらに唾液に含まれる「Ig-A」に抗菌成分があり、新型コロナが口腔内の粘膜に付着するのを防止する作用があることを説明したほか、新型コロナの侵入に必要な感染因子が舌の表面にあるとの研究結果を示した。
(アポロニア21 2020年12月号 )
*****
新型コロナの影響で一日のうちのマスク着用をしている時間が長くなっているものと考えられます。
そのため、マスクをしていない状況であれば、比較的気軽に水分摂取をしていたものが、マスクを外すという一手間があるために、水分摂取量が減少していることが推測されます。
また、新型コロナ自体がストレスなので、自律神経が交感神経優位な状態になり、唾液量が減少していることも考えられます。
新型コロナ対策に、意識的に水分摂取を心掛けて、唾液中の「Ig-A」の抗菌成分をうまく作用させるとよいでしょう。
る必要があると感じました。
根尖が開窓している歯牙は?
Yoshikawaらによる根尖病変が存在した歯の根尖をCBCTで観察した報告では、すべての歯種の中で、上顎犬歯が最も根尖突出の割合が多かった(39%)とされている。
上顎犬歯の根尖はもともと犬歯窩の薄い頬側歯槽骨に近接しているが、そうした骨隆起は吸収しやすいため、骨の開窓により根尖突出が生じやすい。
したがって、彼らの報告では、病変のある歯を精査しているため、唇側の歯槽骨が吸収して根尖が突出したものが多かったと推察される。
一方、健全な状態の歯を対象として開窓と根尖突出をCBCTで精査した中国のPanらは、上顎犬歯の開窓(さまざまな形態の改装や根尖突出を含めて)の割合は7.58%であり、上顎第一小臼歯(10.46%)、上顎側切歯(7.80%)に次いで全歯種の中で3番目であったと報告している。
(参考文献)
Pan HY, Yang H, Zhang R, Yang YM, Wang H, Hu T, Dummer PM : Use of cone-beam computed tomography to evaluate the prevalence of root fenestration in a Chinese subpopulation. Int Endod J, 47 : 10-19,2014.
*****
歯根の根尖が開窓していると、根尖は歯槽骨ではなく、粘膜下に存在します。
そのような時、患者さんサイドが指で押すと痛みを感じる原因になるのではないかと考えています。
また痛覚は歯槽骨より粘膜が、同じ粘膜でも上顎臼歯部よりは上顎前歯部の方が多いので、
上顎2・3・4、特に上顎側切歯のオーバーインスツルメントやオーバー根管充填は気を付けた方がいいといえるかもしれません。