2022年4月アーカイブ
アンキローシス歯とDecoronation
・Decoronationとは、アンキローシスした歯根を骨内に残すことで歯槽骨の幅や高さを保存しながら歯根部を骨に置換させる方法で、アンキローシスした歯の抜歯に代わる治療方法として、1984年Malmgenらによって報告された。
生物学的には、アンキローシスした歯根片が新たな骨形成の基質になるなるというもので、さらに両隣在歯が存在する場合は、両隣在歯から成長してきた歯根膜線維複合体が歯根片上に形成され、それによって歯根片部分を歯冠側に牽引する力が発生することで垂直的な骨量も維持あるいは再構築できるということが臨床的に示されている。
(参考文献)
Malmgren B, Malmgen O, Andreasen JO.: Alveolar bone development after decoronation of ankylosed teeth. Endod Top. 14(1):35-40,2006.
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Decoronationの概念としては、アンキローシスした歯根にインプラントが接触しても構わないこと。
さらにアンキローシスした歯根片は1-10年で骨化するとのことです。
抜歯とGBR→インプラント埋入という流れで治療をするよりも、治療期間の短縮ができるので、有益であると考えています。
インプラント周囲炎発症のリスク因子
エビデンスをもってインプラント周囲炎発症のリスク因子とされている3項目の結果
1.歯周病の既往
歯周病の既往がありインプラント周囲炎に罹患した者(9.3%)は、歯周病の既往がなくインプラント周囲炎に罹患した者(3.5%)に比較して有意差をもって多く認めている。
2.口腔衛生状態
口腔衛生状態が不良でインプラント周囲炎に罹患した者の発症率(42.4%)は、口腔衛生状態が良好でインプラント周囲炎に罹患した者の発症率(4.6%)に比較して有意差をもって多かった。
3.メンテナンスの頻度
SPT期に歯周炎が再発する患者は歯周組織が安定した患者に比較して、インプラント周囲炎およびインプラント喪失するリスクが高い。
歯肉炎に罹患していなければ歯周炎に罹患しないのと同様に、インプラント周囲粘膜炎の予防がインプラントインプラント周囲炎の予防につながる。
つまり、インプラント周囲粘膜炎を予防するには定期的なインプラント周囲のメンテナンスが必要になってくると考えられる。
本検討ではメンテナンスが年2回未満でインプラント周囲炎に罹患した者の発症率(12.4%)は、年2回以上メンテナンスが行われていてインプラント周囲炎に罹患した者の発症率(5.4%)に比較して有意差をもって多かった。
上述の口腔衛生状態とも関連するが、インプラント周囲炎の予防には年2回以上のメンテナンスが必要だと考えられた。
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー 2022年vol.29 )
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エビデンスをもってインプラント周囲炎発症のリスク因子とされている3項目が明らかになりました。
インプラントプラスティが、チタンインプラントの表面粗さ、バイオフィルム形成、生体適合性に及ぼす影響
インプラントプラスティが、チタンインプラントの表面粗さ、バイオフィルム形成、生体適合性に及ぼす影響:システマティックレビュー
(目的)
本レビューの目的は、デンタルインプラントの表面粗さ、バイオフォルム形成、生体適合性におけるインプラントプラスティの効果を評価することである。
(材料および方法)
2020年4月までに出版された関連論文をPubMed,Scopus, Web of Science, The Cochrane Libraryにて電子検索した。
論文はすべてインプラントプラスティ後のインプラント表面変化を評価したものである。
主要アウトカムはインプラントの表面粗さであった。
二次アウトカムはバイオフィルムの消滅と再形成、表面元素の変化、細胞活性であった。
(結果)
in vitroの論文11本をin vivoの論文2本が適格となった。
インプラントプラスティはインプラント表面粗さを減少させた。
最終アウトカムは使用バーに依存し、タングステンカーバイトバーとシリコーンポリッシャーを使用した場合に最も滑沢な表面が得られた。
インプラントプラスティはまたバイオフィルムの除去とヒト歯肉線維芽細胞の成長は半比例した。
インプラントプラスティはまたバイオフィルムの除去と再成長阻害に効果的であることが示された。
(結論)
インプラントプラスティはデンタルインプラントの表面粗さを減少させ、それによりチタンインプラントの生体適合性を損なうことなくバイオフィルム形成を阻害した。
適格研究のほとんどがin vitroの研究であったため、本研究のアウトカムの検証にはさらなる臨床試験が必要である。
(参考文献)
Burgueno-Barris G, Camps-Font O, Figueiredo R, Valmaseda-Castellon E. The influence of implantoplasty on surface roughness, biofilm formation, and biocompatibility of titanium implants : a systematic review. Int J Oral Maxillofac Implamts 2021 ; 36(5) : e111-e119.
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インプラントプラスティは、インプラントの表面粗さを有意に減少させるとともに、バイオフィルムの形成を明らかに減弱させます。
表面粗さの減少においては、タングステンカーバイトバー後のシリコーンポリッシャーの使用がもっとも良好な結果を残したことが明らかになりました。
口腔インプラント手術は高齢骨粗鬆症患者の顎骨壊死リスクといえるか?
口腔インプラント手術は高齢骨粗鬆症患者の顎骨壊死リスクといえるか?
-傾向スコアマッチング法を用いたコホート研究
(研究目的)
高齢の骨粗鬆症患者において、口腔インプラント手術が顎骨壊死発症リスク因子かをあきらかにすること。
(研究内容)
韓国・国民健康保険サービスのデータベースから、2014年7月から2016年7月の間に、骨粗鬆症を判別した70歳以上の患者を、インプラント治療群と非インプラント治療群に分けて抽出した。
癌またはパジェット病の既往がある患者は除外した。
それぞれの群を抜歯の有無で送別化し、4つの下位群に分けた。
その後、年齢、性別、医療保険、糖尿病、高血圧、関節リウマチ、BP製剤の処方を共変量として傾向スコアを算出し、各下位群が1:1の比率になるようにマッチングさせた。
2016年12月まで追跡し、顎骨壊死発症の有無を調査した。
顎骨壊死発症のリスク因子の検討には、上述の共変量に加えて、口腔インプラント手術、抜歯を説明変数としたCOX比例ハザードモデルを用いた。
(研究結果)
解析対象は44900名(男/女:8.7/91.3%、年齢70-79歳/80歳以上:87.8/12.2%)であった。
口腔インプラント手術は顎骨壊死発症リスクを有意に減じる因子(ハザード比〔HR〕:0.51, p、0.001)であり、抜歯は有意なリスク因子(HR:5.89, p、0.001)であった。
また、関節リウマチ(HR:6.80, p、0.001)とBP製剤の処方(HR:4.09, p、0.001)も有意なリスク因子といえた。
(結論)
韓国。国民健康保険サービスのデータベースを活用した本ビッグデータ解析の結果、恒例の骨粗鬆症患者において、口腔インプラント手術は顎骨壊死発症リスクを増すとは言えず、むしろ減ずると思われた。
一方、抜歯、関節リウマチおよびBP製剤の処方は顎骨壊死発症のリスク因子であることが明らかになった。
(参考文献)
Ryu JI, Kim HY, Kwon YD. Is implant surgery a risk factor for osteonecrosis of the jaw in older adult patients with osteoporosis ? A national cohort propensity score-matched study. Clin Oral Implants Res, 32(4) : 437-447, 2021. doi: 10.1111/cir.13713.
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一見、インプラント手術が顎骨壊死発症リスクを減じると読み違える可能性があるが、本研究でインプラント治療が施された患者は、専門家により顎骨壊死のリスクが低いと推定された集団であり、本追跡期間中では顎骨壊死を発症するに至らなかったと解するのが妥当であるものと考えられる。