上顎臼歯部のインプラントの最近のブログ記事
大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは骨吸収を招く。
・Souzaらは、ビーグル犬を用いた動物実験で、コニカル嵌合(片側8度未満のテーパージョイント)のプラットフォームスイッチングを1ミリ骨縁下埋入した。
埋入時に、エマージェンスアングル(インプラントのプラットフォームからの立ち上がり角度)が45度と15度のヒーリングアバットメントを装着した。
4か月の治癒期間を待ち、マイクロCTと組織形態計測学的にインプラント周囲骨と周囲軟組織を評価した。
マイクロCTを用いた測定では、インプラント周囲骨吸収を反映する指標である。
インプラントのプラットフォームからインプラントとインプラント周囲骨の最歯冠側での接触までの距離は、統計学的有意に45度が高い値を示した。
組織学的な計測において生物学的幅径(骨縁上組織付着)では統計学的有意差はなかったものの、やはりインプラント周囲骨吸収を反映する指標においては統計学的有意に45度が高い値を示した。
これらの結果から、45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することを示した(生物学的幅径の再構築)。
(参考文献)
Souza AB, Alshiri A, Kammerer PW, Araujo MG, Gallucci GO. Histological and micro-CT analysis of peri-implant soft and hard tissue healing on implants with different healing abutments configurations. Clin Oral Implants Res 2018 ; 29(10) : 1007-1015.
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45度のような比較的大きなエマージェンスアングルを持つアバットメントは、インプラント周囲骨の吸収と、インプラント周囲骨が支持する周囲軟組織を根尖側に誘導することが明らかになりました。
上顎骨への繰り返し荷重は、2週後にリモデリングが確認可能。
・「ラット上顎骨に埋入したインプラントへの繰り返し荷重がインプラント周囲骨組織のリモデリングに与える影響」(長崎大学 右籐友督先生)
インプラント周囲骨組織における荷重応答性骨変化は、リモデリングを伴う骨構造の再編成によるものであることが確認されました。
さらにラット上顎骨での骨質変化が観察されたのは荷重開始から2週間後以降であることがわかりました。
またリモデリングを促進する因子としてSemaphorin3Aが関与することが示唆されました。
(インプラント ニュース 第33号 )
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骨結合が完全ではないけれど、アバットメントを介してプロビジョナルを装着する場合があります。
そのようなときに、2週間後のインプラント周囲の骨質にリモデリングの傾向がみられるのであれば、負荷を増大しても問題ないという一つの目安と考えることができますね。
サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例
・サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例
1. 洞粘膜肥厚5ミリ以上
2. 自然孔の狭窄をきたしやすい解剖学的構造
・長く細い篩骨漏斗
・複雑で小さな胞がたくさん集まる篩骨胞
・Haller胞(眼窩下壁の骨内部に存在する含気泡の)の存在
3. ポリープ(鼻茸)様病変のないこと
4. 急性または慢性の副鼻腔炎による液面形成または洞全体の不透過像
(クインテッセンス・デンタル・インプラントロジー )
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サイナスリフト後に上顎洞炎を発症しやすい症例には、ある特徴があるようです。
平均的上顎洞粘膜の厚さはどのくらいか?
・平均的上顎洞粘膜の厚さを0.8-1.99ミリとしている。
また、2mm以下を生理学的厚みとする報告もある。
ただし、2mm以下を正常と規定すると上顎洞炎と偽診断される症例が増えるとする意見もあり、5?を超えると次第に自然孔閉鎖リスクの上昇と相関し、結果として上顎洞炎を発症するというCarmeli らやShanbhagらの研究は説得力がある。
(参考文献)
Shanbhag S, Karnik P, Shirke P, Shanbhag V. Cone-beam computed tomographic analysis of sinus membrane thickness, ostium patency, and residual ridge heights in the posterior maxilla : implications for sinus floor elevation. Clin Oral Implants Res 2014 ; 25(6) : 755-760.
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平均的上顎洞粘膜の厚さには研究報告によってもばらつきがありますが、5ミリを超えない状況でインプラント治療を行う方が無難であるといえます。
上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合
・上顎大臼歯が上顎洞に入り込んでいる割合は約23.3%であり、臼歯根尖が洞底粘膜に近接していることは珍しいことではない。
(参考文献)
Kwak HH,Park HD,Yoon HR, Kang MK, Koh KS, Kim HJ.: Topographic anatomy of the inferior wall of the maxillary sinus in Koreans. Int J Oral Maxillofac Surg. 33(4):382-388,2004.
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上顎洞粘膜剥離操作によって残存歯の栄養血管、神経を損傷すると、歯髄壊死から骨補填材に感染が拡大し、上顎洞炎へと移行する恐れがあるので、注意が必要です。
臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率
・臼歯欠損部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントの生存率と12か月のフォローアップ期間後における生存率に影響を与える因子の探索:システマティックレビュー
(結果)
上下顎の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは3410本で、少なくても補綴装置装着後12か月以上のフォローアップ後における累積生存率は、96.45%だった。
患者の平均年齢は35-63.5歳だった。
年齢と生存率には相関がなかった。
上顎と下顎におけるショートインプラントの生存率は同程度だった(それぞれ96.57%と96.37%)。
異なるインプラントの寸法におけるショートインプラント生存率に対するオッズ比計測では、長径6ミリで直径4.1ミリのショートインプラント生存率(94.49%)が、全体の生存率に比較して統計学的に低い生存率を示していた(オッズ比1.59、P<0.05)。
同様に、長径と直径が4ミリのショートインプラント生存率(93.81%)は、全体の生存率と比較して低い生存率の傾向だった(オッズ比1.79、P=0.052)。
一方、長径6.5ミリで直径5ミリのショートインプラント生存率(98.52%)は、全体の生存率と比較して統計学的に高い生存率だった(オッズ比0.41、P<0.05)。
インプラントの直径だけを考慮した場合、4.1ミリは統計学的にもっとも生存率が悪く(生存率94.49%、オッズ比1.59、P=0.035)、5?は統計学的に最も生存率が良好だった(生存率98.28%、オッズ比0.48、P=0.012)。
(結論)
少なくても12か月以上のフォローアップ期間において、上下の臼歯部に埋入された6.5ミリ以下のショートインプラントは、通常の長径を有するインプラントと同程度の生存率を有すると結論づけることができる。
(参考文献)
Al-Johany SS, Survival rates ofshort dental implants(≦6.5ミリ) placed in posterior edentulous ridges and factors affecting their survival after 12-month follow-up period: A systematic review. Int J Oral Maxillofac 2019; 34(3): 605-621.
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今回の報告で、直径5ミリ、長径6.5ミリのインプラントは、直径4.1ミリ、長径6.0ミリのインプラントよりも有意な差をもって生存率が高いようです。
使用しているインプラントシステムが、6.5ミリのインプラントを販売していないので、当院では使用したことがありませんが、機会があれば使用してみたいものです。
上顎洞内粘膜穿孔の発生率は粘膜の厚さが1.5-2ミリの場合に最も低い。
・穿孔の発生率は粘膜の厚さが1.5-2ミリの場合に最も低い。
穿孔の発生率が最も高くなるのは3ミリ以上の厚い粘膜又は0.5ミリ以下の薄い粘膜である。
(低侵襲上顎洞挙上手術 )
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上顎臼歯部にインプラント埋入を行う際、歯槽骨量が不足して増骨処理が必要となるケースは少なくありません。
そのような時、上顎洞内粘膜を挙上し増骨するわけですが、粘膜が穿孔すると増骨が失敗するリスクが高まります。
上顎洞内粘膜厚さが3ミリ以上の厚い粘膜又は0.5ミリ以下の薄い粘膜の場合には、より注意して挙上する必要があると考えられます。
自然口を直接観察できないことが多い。
・上顎洞への自然口は鼻腔内の深いヒダの奥深く(中鼻甲介の内側)に存在する小さな移行部であり、直径が5ミリを超すことはなく、通常は2ミリ以下である。
よって自然口の同定すらできないこともあるという。
したがって、内視鏡を用いても上顎洞全体を直接観察することは不可能であり、他の副鼻腔への自然口になるとさらに困難であることが推察される。
よって、耳鼻科医は副鼻腔自然口周囲の鼻腔側の所見やX線所見に基づいて、副鼻腔内の病変の有無や重症度を推察するわけである。
(インプラントジャーナル 2018年 76 )
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耳鼻科医は内視鏡を使用して、自然口を直接観察できるものと考えていましたが、そうではないことが分かりました。
骨質、インプラント径、表面性状が長期的なインプラント周囲骨吸収に及ぼす影響
・骨質、インプラント径、表面性状が長期的なインプラント周囲骨吸収に及ぼす影響
(目的)
インプラントの短・長期的な残存率および成功率に関係する因子の一つとしてインプラント周囲の辺縁骨吸収(MBL)が挙げられる。
本研究の目的は、長期的な観察において臨床的所見およびインプラントに関連する因子がMBLに及ぼす影響を検証することである。
(材料および方法)
172名の患者に埋入された558本のインプラントにおいて、MBLと臨床因子、インプラント関連因子、補綴設計関連因子との関係を調べた。
MBLはデジタルX線写真におけるスレッドの様相を基準として、コンピュータソフトウェアを用いて解析した。
(結果)
線形混合モデルによる解析により、以下の項目において有意差が認められた。
:タイプ4の骨における平均MBL(辺縁骨吸収)(0.047ミリ/年)は、他の骨質に比べると、有意に小さな値を示した(タイプ3の骨:0.086ミリ/年、タイプ2の骨:0.112ミリ/年、タイプ1の骨:0.138ミリ/年)。
インプラントの直径が1ミリ増すごとに平均MBLは0.033ミリ/年で大きくなった。
表面性状がスムースなインプラント(0.103ミリ/年)は、ラフなもの(0.122ミリ/年)と比べて小さなMBLを示した。
また、インプラント支持型全部床義歯以外の補綴設計においてMBLが認められた。
(結論)
本研究は後ろ向き研究であるため、限界が認められるものの、タイプ4の骨、直径の小さなインプラント、スムースなインプラント表面性状、インプラント支持型全部床義歯において小さな平均MBLが認められた。
(参考文献)
Relationship between long-term marginal bone loss and bone quality, implant width, and surface Lbanez C, Catena A, Galindo-Moreno P, Noguerol B, Magan-Fernadez A, Mesa F. Int J Oral Maxillofac Implants 2016 ; 31(2) : 398-405.
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上顎大臼歯部などのタイプ4などの骨質では、直径が大きくラフな表面性状のインプラント体を選択し埋入すると、インプラントの初期固定を得る可能性が高まります。
インプラント周囲の組織に動きがない方が、インプラント周囲に骨ができやすいので、初期固定を重視してきた歯科医師も多いかと思います。
しかしながら今回の文献により、骨が圧迫されるような力がかかるインプラント埋入(高トルク埋入)を行う程、MBLが有意な差をもって生じることが明らかになりました。
高トルクでインプラント埋入を行うと、インプラントを埋入したその日から咬めるというメリットはありますが、MBLが大きくなるのではやはり良いとは言えません。
患者さんのQOLを少しばかり向上させることよりも、長期的に考えて一番良い方法を選びたいものです。
臼歯部の固定性上部構造における問題発生率
・臼歯部の固定性上部構造における問題発生率
近心カンチレバーを与えたブリッジタイプのインプラント補綴(26%)
ブリッジタイプのインプラント補綴(7%)
天然歯とインプラントを連結した場合(3%)
1歯欠損に対するインプラント補綴(4%)
1歯に1インプラント(2%)
(参考文献)
藤関雅嗣. インプラント除去に至った長期症例から学ぶ その2. 日本歯科医師会雑誌 2002 ; 55 : 529-536.
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このデータをみて意外だったのは、近心カンチレバーを与えたブリッジのタイプのインプラント補綴にトラブルが多いことです。
インプラント治療で近心カンチレバーを用いるのは、患者さんの予算が十分ではない場合(インプラントの埋入本数を1本分減らすことができるため。)や、前方の天然歯の近心傾斜の程度が大きく、欠損部最前方部位にインプラントを埋入した場合、天然歯の根尖と接触するリスクがある場合などです。
個人的には、補綴トラブルが多いとは感じてはいなかっただけに、興味深いデータです。
また、患者さんの予算の関係で、"1歯に1インプラント"という治療プランは選択しにくいケースが多いですが、中抜きをしたブリッジタイプの1/3以下のトラブル発生率ということを考えれば、臼歯部にはインプラント-インプラント間の距離が取れるのであれば、ブリッジタイプよりも"1歯に1インプラント"が良いということになるでしょう。
さらに、もう一つ意外だったのは、天然歯とインプラントを連結したケースでのトラブルが少なかったことです。
現在、天然歯とインプラントは連結しないのが一般的ですが、条件次第では、長期安定する方法もあるのかもしれません。
これについては、更なる検証が必要ということになるでしょう。