インプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種。

・Shibliらは44名の被験者(健常インプラント群22名、インプラント周囲炎群22名)の歯肉縁上と歯肉縁下プラーク細菌叢を比較したところ、歯肉縁上と歯肉縁下プラークでともに、Red complexに属する3菌種が有意に高い割合でインプラント周囲炎群から多く検出されたことを報告している。
また、Maximoらは、インプラント周囲炎の治療として外科的処置(オープンフラップデブライドメント)を行い、その治療前後における細菌叢の変化を調べている。
その結果、インプラント周囲炎罹患部のプラークには、Red complexが高い割合で検出されること、また治療後は総菌量の減少、またその量に対して、Red complexの割合が減ることが示された。
歯周病により抜歯され、無歯顎となった患者の唾液や舌表面からも歯周病原細菌が検出されることを考えると、細菌学的見地から歯周炎の既往はインプラント周囲疾患のリスクとなるといえる。
ただし、細菌に対するインプラントと天然歯の反応が同じとは言い難い部分がある。
・Leonhardtらは細菌培養法を用いた検査において、インプラント周囲炎部位の55%の部位からS.sppやC.spp.、腸内細菌など、通常、天然歯周囲では検出されず、一般に歯周病との関連が報告されていない細菌が検出されたことを報告している。
さらに、Perssonらはcheckerboard DNA-DNA hybridization法により79菌種を対象としてインプラント周囲炎部位における細菌叢を検索した結果、Red complexのひとつであるT.forsythia等が検出された一方で、歯周病の原因菌とはなじみのない、本来は主に胃に棲息するH.pylori なども検出されたこと、また非外科治療6か月後もこれらの細菌の減少は認められなかったことを報告している。
インプラント周囲炎において、既知の歯周病原細菌以外の微生物種が関与している可能性も考えられ、両疾患における原因細菌種についてはまだ統一した見解が得られていない。
Dr和泉雄一ら も16S rDNA クローンライブラリー法を用いて、20名の被験者を対象とした精密な細菌叢解析を行った。
その結果、Red complexはインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患部位から検出されるものの、3菌種をすべて足したとしても細菌叢全体の10%程度の存在量でしかないことが明らかとなった。
また既知の歯周病原細菌に注目した場合、両群ともに検出量が多い菌はF.nucleatumであるという共通点がある一方で、インプラント周囲炎ではPrevotella nigrescensが歯周炎と比較し有意に多く検出されたという相違点が認められた。
これらはインプラント周囲炎の細菌叢を網羅的に解析したことではじめてわかったことである。
一連のDr和泉雄一らの研究から分かったことは、以下のとおりである。
1. インプラント周囲炎と歯周炎では、類似した機能を細菌叢が保有しているため、両疾患では類似した臨床症状を呈する。
しかしながら、病態を進行させる機能を多く担う細菌(interacting core taxa)に違いを認める。
2. interacting core taxaがインプラント周囲炎と周囲炎の原因菌であると推測され、それらの差異が、結果として両疾患の治療に対する反応の違いに影響すると考えられる。
・意外にもインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種であり、また、ともに既知の歯周病原細菌だけでなく、他の細菌種もその病原性に関与している可能性が示唆された。
(日本歯科医師会雑誌 2017年11月号 )
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インプラント周囲炎罹患部のプラークには、Red complexが高い割合で検出されること。
Red complexのひとつであるT.forsythia等が検出された一方で、歯周病の原因菌とはなじみのない、本来は主に胃に棲息するH.pylori なども検出されたこと。
意外にもインプラント周囲炎と歯周炎の両疾患で共通した細菌種はわずか3種であったこと。
などが明らかになりました。
歯周病とインプラント周囲炎では、それらを引き起こす細菌の多くが異なるために、インプラント周囲炎への効果的な対策が遅れているといえるでしょう。
またインプラント周囲炎患部のプラークには、ピロリ菌が棲息していたことを考えると、インプラント周囲炎になっている人は、そうではない人よりも胃がんになりやすいのかもしれません。

2017年12月10日

hori (15:12)

カテゴリ:インプラント周囲炎

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