フッ化物で、インプラント周囲炎?!
◎インプラント表面からのチタン溶出とその作用に関する新知見
・高い安定性を誇るチタンに対して、フッ素化合物は酸性環境において、チタン表面の不導体膜を破壊・腐食し、一部のチタンをイオン化するといわれている。
実際に臨床の現場においても、チタンアレルギーの症例報告が経年的に増加し、チタンの溶出を疑わせる。
また、口腔内のように日々の食物摂取、口腔ケアやプラークなどの滞留による急激なpHの変化も、チタンの耐久性に影響を与える可能性がある。
特に、耐う蝕向上性を目的とした局所歯面塗布剤に用いられるような高濃度または強酸性のフッ化物は、チタンを容易に腐食させると報告されている。
チタン表面の腐食による悪影響は何か?
以下の3つが問題点として挙げられる。
1. チタン表面に生じた腐食孔に応力が集中することにより、インプラント体破折のリスクが高まること。
2. インプラント体表面の粗造化に伴い、プラークがより付着しやすくなり炎症を惹起させやすくなる可能性があること。
3. チタンアレルギーを誘発する可能性があること。
ここで、われわれの最近の研究を紹介する。
口腔内で溶け出したチタンの所在を明らかにするため、われわれは純チタン製ミニインプラント体をラット口蓋部に埋入した。
埋入1週間後に、pH4.2、1000ppmfに調整したフッ化ナトリウム溶液をミニインプラント体粘膜貫通部に作用させた。
撤去したミニインプラント体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、フッ化ナトリム溶液に曝露されたインプラントチタン表面には、曝露されなかったもの(コントロール)と比較して多数の腐食孔が観察された。
それに伴って、インプラント周囲の歯肉組織からはコントロールの歯肉と比較して有意に高い濃度のチタンが検出された。
(中略)
天然歯とインプラント体は構造が異なるため、単純に比較することは危険であり、実際に骨吸収の様態もインプラント周囲炎とでは異なる。
溶出チタンがインプラント周囲炎の惹起や増悪因子となり得るかどうかを検討する必要がある。
そこで、インプラント周囲炎に罹患した組織からの検出報告も多いPorphyromonas gingivalis由来のLipopolysaccharide(以下、P.g-LPS)とチタンイオンは、歯周組織に対する共同作用を有すると仮説を立てて、ラット口蓋部にP.g-LPS溶液または/ およびチタンイオン溶液を注入して検討した。
特に骨吸収関連分子に着目し、単球の遊走促進作用があるC-C motif chemokine2 (以下、CCL2)、骨吸収を促進するReceptor activator of nuclear factor kappa-B ligand (以下、RANKL)、およびRANKLの働きを阻害するosteoprotegerin(以下、OPG)の発現変化をRNAおよびタンパク質レベルにおいて解析した。
(中略)
これまでわれわれは、培養細胞などを用いて低濃度のチタン(単独)が生体に与える影響は極めて少ないことを示してきた。
しかし、P.g-LPSとチタンイオンとの共同作用があることを動物実験で確認した。
そこで、チタンイオン(単独)が、P.g-LPSのレセプターに及ぼす影響について、免疫蛍光染色を用いて解析した。
その結果、チタンイオンが存在すると、P.g-LPのレセプターの一つであるToll-like receptor4(以下、TLR-4)の発現が増強されることが判明した。
これより、チタンイオンはP.g-LPSのレセプター発現を増強させることにより、インプラント周囲病変の病態を増悪させる可能性が示唆された。
(歯界展望 2015年 10月号 )
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チタンがフッ化物により腐食されることは以前から報告がありました。
今回、『外来刺激により溶出したチタンイオンはインプラント周囲組織に蓄積し、TLR-4の発現を増加させる。
その結果、P.g-LPSに対する周囲組織の反応を変化させ、骨吸収の病態を悪化させる可能性がある。』ということが明らかになりました。
この報告により、歯を守るために良かれと思い、患者さんが使用したフッ化物が、インプラントを腐食するだけでなく、インプラント周囲炎までも惹起する可能性があることが分かりました。
お口の中で、天然歯とインプラントが混在しているケースは少なくありませんが、どちらにとっても有益な薬剤の使用が望まれます。