歯周病はなぜ進行しても痛くない?
結論をいえば、ジンジバリス筋などが歯周病原菌が産生する酪酸が、神経突起を委縮させるためです。
歯周病原因菌は、発育が遅く病原性も弱いため、痛みの刺激によって生体の防御機構が作動すると排除されてしまいます。
そのため、酪酸によって痛みを遮断し防御機構から回避していると考えられます。
ある意味、歯周病原菌の生き残り戦略といえますが、酪酸が神経突起を委縮させているということ自体、神経に以外作用を及ぼすものだといえます。
腸管で善玉として働いている酪酸が、歯周組織だと悪玉になってしまうのでしょうか?
腸管と口腔との最大の違いは、腸管はムチンの保護層が700μmと圧倒的に厚いという点です。
口腔のムチンの保護層は0.3-1μm程度です。
口腔粘膜は重層扁平上皮でできており、表皮が一部破壊されても、その奥にも次の表皮細胞があるため重篤な状態にはなりません。
しかし、腸管では養分を吸収するため上皮細胞が1層だけ並んでいる単層円柱上皮でできています。
そのため、上皮細胞を保護する分厚いムチン層が必須なのです。
ムチン層に守られている腸管では、糞便中の酪酸はそのままでは粘膜に接することはなく、腸管粘膜細胞を活性化させる善玉の働きだけを続けることができます。
しかし、ムチンの分泌量は、精神的なストレスなどの外的要因で大きく左右されます。
何らかの理由でムチンの保護層が薄くなると、酪酸が粘膜と接してしまい、組織破壊が起こるのです。
ストレスでポリープができたという病態のメカニズムは、このように説明できます。
一方、ムチンの保護層の薄い口腔では、酪酸による組織破壊がダイレクトに進行し、歯周病を引き起こすことになります。
(アポロニア21 2022年2月号 )
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同じ酪酸であっても、存在する場所によってマイナスの影響を与えることがあることがわかりました。