傾斜した大臼歯は特に側方力に弱い。
・歯の欠損を放置すると、特に下顎の遠心側隣在歯には通常近心傾斜が生じる。
これに伴う垂直方向の機能圧に対する抵抗能力は、歯軸が25°傾斜した条件では、およそ1/2-1/3となる。
このことからも十分に認識し、支台歯として用いる場合に容易な対応は避けなければならない。
・健康な歯の支持能力は、歯軸方向への力に対する抵抗性に対して側方力に対する抵抗性は、およそ犬歯で約1/16、切歯で1/20、小臼歯で1/25、大臼歯で1/32である。
ヒトの歯根は円錐形をしており、垂直圧に対しては歯根膜全体に機能圧が分散するため大きな力に抵抗できるが、側方圧に対してソケット辺縁の1か所に機能圧が集中するため、歯周組織の破壊を招きやすい。
(基本クラスプデンチャーの設計 より)
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このところ、アブフラクションおよび歯髄充血による歯痛を訴える患者さんが増加傾向にあるように感じます。
これらに関係すると考えられるのは、大臼歯の近心舌側偏位に伴う側方力が相対的に増大し、歯周組織の破壊が惹起されているものと推察されます。
歯牙が傾斜していることが問題ならば、歯列矯正を行い歯軸を改善するのが第一選択ですが、近年、患者さんの顎骨が小さいがゆえに、骨密度が高すぎる下顎骨体部に後方臼歯が存在し、それゆえに歯牙移動が困難なケースが見受けられます。
そのような場合、歯自体は健康でも、トータルの咬み合わせに問題を生じている場合は、歯軸改善を目的としたインプラント治療を行う場合があります。
やはり、インプラント治療でも歯列矯正でも良好な咬み合わせの構築を行うためのツールに過ぎないのです。