歯牙破折は、なぜ隣接面から起きることが多いのか?

歯牙破折は、なぜ隣接面から起きることが多いのか?

エナメル-象牙境は、進化の中でもよく保存されている部分であり、食性の変化にはエナメル質の厚さを変化させたり、エナメル小柱の構造を変化させ、咀嚼の要諦に沿うように進化適応しているといわれている。
そのエナメル-象牙境に注目してみると、興味深いことが観察される。
エナメル質は硬いが脆弱性があり、象牙質の支えがなければ崩れやすい。
したがって、境界部にはエナメル質からの圧を受けられるようにエナメル象牙境に凹状の小窩形態と、エナメル叢と呼ばれる緩衝地帯があり、頬側・舌側の緩やかなエナメル-象牙境斜面がエナメル質を支えている。
しかし、両隣接面部には象牙質が歯頸部より垂直に立ちあがっており、エナメル質への支えがない。
大臼歯部の遠心部には、進化の中で歯の構造としては比較的新しく付け加えられた部分といわれている。
おそらくエナメル-象牙境の形態変化という手間のかかる進化にコストをかけるより、手っ取り早くエナメル質を膨らますことにより、咀嚼の受け皿として必要な遠心部分を作ったのだろう。
いわば、構造的には不良品である。
(参考文献)
清水大輔. 歯から見た採食適応. 日本人類学会進化人類分科会ニュースレター, 2010.
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歯牙破折には、隣接面から生じるものが多いというのは、歯科臨床家の多くは感じているものと思われます。
歯牙の構造を考えると、硬いけれども脆弱なエナメル質を支えるエナメル-象牙境が、この隣接面部には存在しないために、隣接面部からの歯牙破折が生じやすいことが考えられます。
また、エナメル-象牙境は、進化の過程でエナメル質の厚さやエナメル小柱の構造を変化させる能力があるとすれば、相対的に軟食傾向にある現代人のエナメル質はその厚さも薄く、エナメル小柱の構造も脆弱である可能性があります。
こうして考えると、このところ歯科ではよく話題に上るTCH(歯牙接触癖)も、古代人と現代人では、エナメル質の質や量が異なることが関係しているのかもしれません。
興味深い分野ですね。

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