HbA1cが8%以下の糖尿病患者でのインプラント治療は、何も問題なし。
・2型糖尿病患者におけるインプラント周囲溝滲出液中の炎症性サイトカインレベルと臨床パラメータの評価
〇諸言
オッセオインテグレーションを阻害する代謝異常の一つに、高血糖に特徴づけられる糖尿病がある。
糖尿病による単球、マクロファージの異常反応の結果、IL-1β、TNF-αのような炎症性サイトカインやメディエーターが過剰産生される。
これらのサイトカインの過剰産生は歯周組織やインプラント周囲組織を破壊に導く。
本研究の目的は、インプラント周囲の状態を評価するだけでなく、良好にコントロールされた2型糖尿病患者と健常者において、インプラント周囲溝滲出液と歯肉溝滲出液中のIL-βとTNF-αのレベルを比較し、評価することである。
〇材料と方法
13名のコントロール良好な2型糖尿病患者(HbA1c<8%;グループD)と7名の全身的に健康なグループ(グループC)
HbA1c、空腹時血糖値、ランダム血糖値濃度、総コレステロール値、中性脂肪、善玉コレステロール、悪玉コレステロールが2型糖尿病患者のベースライン時と治療後7か月に測定された。
プラーク指数、歯肉歯数、プロービング時の出血、クリニカルアタッチメントは1歯および1本のインプラントにつき6点法で測定した。
合計39本のインプラントを20名の被験者に埋入した。
27本はグループDの13名に、12本はグループCの7名に埋入した。
〇結果
グループDのHbA1c、空腹時血糖値、ランダム血糖値濃度は、グループCと比較してベースライン時で有意に高い値を示した。
プラーク指数、歯肉歯数、プロービング時のポケット深さ、プロービング時の出血、角化歯肉幅はグループ間でベースライン時とそれ以降においても有意差は認められなかった。
グループDにおいて、インプラント周囲のプラーク指数は歯と比較して4か月および7か月で有意に減少した。
バイオマーカー分析ではインプラント周囲溝と歯肉溝のIL-1βとTNF-αの濃度と総レベルを評価した。
グループ内の歯とインプラント周囲やグループ間でベースライン時またはそれ以降に有意差は認められなかった。
〇結論本研究には限界はあるものの、HbA1cが8%以下の糖尿病患者でのインプラント治療に臨床上の障害はなく、重篤な合併症も生じないことが示された。
さらに、グループ内やグループ間、またインプラント周囲や歯とで、IL-1βやTNF-α濃度や量に違いはなかった。
本研究の結果は、先行研究で示されている、良好にコントロールされた2型糖尿病患者はインプラント治療が可能であるという根拠を支持するものである。
(参考文献)
Evaluation of clinical parameters and levels of proinflammatory cytokines in the crevicular fluid around dental implants with type 2 diabetes mellitus. Dogan SB, Kurtis MB, Tuter G, Serdar M, Watanabe K, Karakis S. Int J Oral Maxillofac 2015 ; 30(5) : 1119-1127.
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糖尿病はインプラント治療を行ううえで、リスクファクターであると言われています。
ただ、実際のインプラント臨床では、糖尿病の方にインプラント治療を行っても、その程度が軽度であるならば、特に何も問題はないのではなかろうかと個人的には考えていました。
そんな折、HbA1c(正常値:4.6-6.2%)が8%以下の糖尿病患者さんにおけるインプラント治療は問題がないことがエビデンスとして報告されました。
糖尿病の患者さんには朗報かもしれませんね。