インプラントと麻酔の最近のブログ記事

下歯槽神経障害の10%が、インプラント埴立後。

2007年、デンマークの口腔外科医のHillerupらは、下歯槽神経障害を主訴として外来を訪れた患者(12か月以上の経過を終えた52名)を検討した論文をInt J Oral Maxillofac Surg に記述しています。

その結果、下顎智歯の抜去後が36症例(69%)、インプラント埴立後が5症例(10%)、局麻注射によるもの5症例(10%)で、圧倒的に智歯抜去後の下歯槽神経障害が多く、そのうち60%で知覚が回復し、21%は不変、19%は悪化の傾向を示したと報告しています。

(日歯生涯研修ライブラリー 下歯槽神経・舌神経の神経障害に対する診査・診断と外科的対応 )

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インプラント治療の偶発症の一つに、神経麻痺があります。

インプラント治療では通常、他の患者さんの治療を並列で行うことはありません。

一方、保険診療での下顎智歯の抜歯は、インプラントよりも難易度判定が難しい場合があるので、治療時間が大幅に延長する結果となる場合があります。

また、保険診療であるがゆえに、十分な時間が取れない場合があります。

例えば、次の患者さんをお待たせしていたり、そもそも並列して他の患者さんの治療をする予定となっている場合です。

下歯槽神経障害の原因として、局所麻酔が10%、下顎智歯抜歯が69%という事実を頭に置き、インプラント治療はもちろんですが、一般歯科治療にも注意深い施術が必要だと感じました。

2017年7月 1日

hori (10:50)

カテゴリ:インプラントと麻酔

痛がりの人はオーバーリアクションなのか?!

・瞑想状態に入ったときに痛みを感じなくなる、という話を聞き、その脳の中をfMRIで研究しました。
すると瞑想状態では痛みの刺激を加えても、脳の痛みの「関連脳領域」は全くといっていいほど活性化していないことが判明しました。
つまりヨガの達人は痛くないふりをしているのではなく、本当に「痛くない」ことが分かったのです。
・痛みの感じ方には個人差があります。
同じ注射をしても、ある人は全く動じず、またある人は「痛っ!」と叫んで飛び上がります。
後者のような人たちを私たちは「痛がり」と呼んだりします。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか今まではわかりませんでした。
ところが、fMRIを用いた研究から、同じ刺激でもほかの人より痛みを強く感じる人は、そうでない人と比べて、実際に脳の中でも「痛みの関連脳領域」が強く活性化されていることが判明しています。
つまりリアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」わけです。
同じ刺激なのに、どうして脳の中で起きることが異なるのでしょうか。
このような「同じ刺激でも人によって感じる痛みの強さが異なる」という現象を説明する一つのメカニズムとして挙げられるのが、「内因性オピオイド」の存在です。
内因性とは自分の身体の中でつくられるという意味です。
そしてオピオイドというのは、麻薬のことです。
・脳内で麻薬とそっくりの物質が合成されていたのです。
麻薬には痛みを感じさせなくさせる働きがありますが、この脳内でつくられた麻薬が、私たちが痛みを感じるときにつくられて、本来の痛みを軽減させている可能性があるのです。
・遺伝的に脳内麻薬が効きにくい人は、手術後に麻酔が覚めたときに希望する痛みどめの量が多いことが報告されています。
また、お産の最中に訴える痛みの強さや希望する麻酔薬の量も、遺伝子によって差があることが示されています。
・「痛みが長引くはずだ」という思い込みによって、治るはずの痛みが長引いてしまうことがあるのです。
このような思い込みによる負の効果をノセボ効果と呼んでいます。
この思い込みに関与していると考えられているのが、脳内の内側前頭野です。
この内側前頭野という場所は、「むちうち」以外にも特に長引く腰痛を持っている人で強く活性化していることが分かっています。
ひざの痛みや骨盤の痛みのある人では、たとえ長引いてもそれほど内側前頭野は活発に活動していません。
「腰痛は他の痛みと比べると特殊」であるひとつの理由はここにあります。
腰痛は脳の関わりが大きいのです。
(長引く痛みの原因は血管が9割 )
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歯科領域においても、麻酔が効きにくいなどといった「痛がりの患者さん」という人たちがいます。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか疑問に感じている医療従事者も多いかと思います。
そんな中、今回紹介させていただいた本の中で、「痛がり」の方は、リアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」ということが分かりました。
また、ヨガの達人が瞑想によって、本当に痛みを感じにくい状態になっていること。
さらに、遺伝的に脳内麻薬が効きにくく、その結果、「痛がり」になっている方がいること。
そしてもう一つ、きっと痛いに違いないという"思い込み"が長引く痛みと関係しており、そのような時、脳の内側前頭野が活性化していること。
なども非常に勉強になりました。
それにしても、fMRIにより、いろいろなことが分かる時代になり、医学も日進月歩なのだなと今更ながらに感じました。

2015年6月25日

hori (08:54)

カテゴリ:インプラントと麻酔

酒飲みは、麻酔が効きずらい。

お酒を大量に飲んでいる人が麻酔が効きにくいのは、血液が酸性に傾いているためか、あるいは分解酵素が多いためだという考え方がある。
最近、この考え方とは異なるMTBC(1-methyl-1,2,3,4-tetrahydro-β-carboline)というアルカロイドが飲酒によって増加し、このMTBCが非イオン型麻酔薬の膜内流動性を阻害するために、麻酔効果が発現しにくくなることが分かってきた。
(参考文献)
林 秀明 : 局所麻酔薬の膜流動化作用とアセトアルデヒド-インドールアミン縮合物との相互作用. 岐歯学誌, 34 : 1-20, 2007.
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インプラント埋入手術の際に、麻酔が効きづらい方がいます。
また、効きずらい方でも、麻酔効果持続する方とすぐに麻酔がさめてしまう方がいます。
やはり一番治療がしにくいタイプは、麻酔が効きづらく、効いてもすぐにさめてしまう方です。
これまでの歯科治療の際に、『麻酔が効きづらかった』という経緯をお持ちの方には、お酒を大量に飲んでいるかどうかの問診を追加する必要があると考えています。
麻酔がまったく効かず治療ができなかった方でも、3日間断酒していただいた後に、インプラント埋入手術をすると、治療可能であったというケースもあるようです。

2014年6月20日

hori (08:50)

カテゴリ:インプラントと麻酔

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