・瞑想状態に入ったときに痛みを感じなくなる、という話を聞き、その脳の中をfMRIで研究しました。
すると瞑想状態では痛みの刺激を加えても、脳の痛みの「関連脳領域」は全くといっていいほど活性化していないことが判明しました。
つまりヨガの達人は痛くないふりをしているのではなく、本当に「痛くない」ことが分かったのです。
・痛みの感じ方には個人差があります。
同じ注射をしても、ある人は全く動じず、またある人は「痛っ!」と叫んで飛び上がります。
後者のような人たちを私たちは「痛がり」と呼んだりします。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか今まではわかりませんでした。
ところが、fMRIを用いた研究から、同じ刺激でもほかの人より痛みを強く感じる人は、そうでない人と比べて、実際に脳の中でも「痛みの関連脳領域」が強く活性化されていることが判明しています。
つまりリアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」わけです。
同じ刺激なのに、どうして脳の中で起きることが異なるのでしょうか。
このような「同じ刺激でも人によって感じる痛みの強さが異なる」という現象を説明する一つのメカニズムとして挙げられるのが、「内因性オピオイド」の存在です。
内因性とは自分の身体の中でつくられるという意味です。
そしてオピオイドというのは、麻薬のことです。
・脳内で麻薬とそっくりの物質が合成されていたのです。
麻薬には痛みを感じさせなくさせる働きがありますが、この脳内でつくられた麻薬が、私たちが痛みを感じるときにつくられて、本来の痛みを軽減させている可能性があるのです。
・遺伝的に脳内麻薬が効きにくい人は、手術後に麻酔が覚めたときに希望する痛みどめの量が多いことが報告されています。
また、お産の最中に訴える痛みの強さや希望する麻酔薬の量も、遺伝子によって差があることが示されています。
・「痛みが長引くはずだ」という思い込みによって、治るはずの痛みが長引いてしまうことがあるのです。
このような思い込みによる負の効果をノセボ効果と呼んでいます。
この思い込みに関与していると考えられているのが、脳内の内側前頭野です。
この内側前頭野という場所は、「むちうち」以外にも特に長引く腰痛を持っている人で強く活性化していることが分かっています。
ひざの痛みや骨盤の痛みのある人では、たとえ長引いてもそれほど内側前頭野は活発に活動していません。
「腰痛は他の痛みと比べると特殊」であるひとつの理由はここにあります。
腰痛は脳の関わりが大きいのです。
(長引く痛みの原因は血管が9割 )
*****
歯科領域においても、麻酔が効きにくいなどといった「痛がりの患者さん」という人たちがいます。
「痛がり」の人はリアクションがオーバーなのか、あるいは脳の中で痛みを強く生じているのか疑問に感じている医療従事者も多いかと思います。
そんな中、今回紹介させていただいた本の中で、「痛がり」の方は、リアクションがオーバーなのではなく、本当に「痛い」ということが分かりました。
また、ヨガの達人が瞑想によって、本当に痛みを感じにくい状態になっていること。
さらに、遺伝的に脳内麻薬が効きにくく、その結果、「痛がり」になっている方がいること。
そしてもう一つ、きっと痛いに違いないという"思い込み"が長引く痛みと関係しており、そのような時、脳の内側前頭野が活性化していること。
なども非常に勉強になりました。
それにしても、fMRIにより、いろいろなことが分かる時代になり、医学も日進月歩なのだなと今更ながらに感じました。