アバットメントの強度の最近のブログ記事
インプラント製品の非純正品の"質"
インプラント臨床家はコスト面を優先させて非純正品を選択するのではなく、長期的にみたインプラント治療成功のために技工指示書には純正品の選択を指示し、補綴的トラブルやインプラント周囲炎のリスクを積極的に回避するべきである。
非純正品は特許の問題から、アバットメントやスクリューの連結部の表面性状、形態、サイズ、材質が異なっており、場合によっては純正品より50%以上大きいギャップが認められたという報告もある。
(参考文献)
Berberi A, Tehini G, Tabaja Z, Kobaissi A, Hamze K, Rifai K, Ezzedine M, Badran B, Chokr A. Determination of inner implant's volumes : a pilot study for microleakage quantification by stereomicroscopy and spectrophotometry. J Contemp Dent Pract 2013 ; 14(6) : 1122-1130.
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やはりインプラント製品の純正品と非純正品とで、"質"の差があることが明らかになりました。
当院では、インプラント治療で純正品以外使用したことがありませんが、正しい選択だったと考えています。
歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響
・歯科インプラントの臨床結果にクラウン-インプラント比が及ぼす影響:システマティックレビュー
本研究は1歯から数歯の欠損のインプラント上部構造のクラウン-インプラント(c/I)比とインプラントの残存率、インプラントの辺縁骨吸収および補綴的合併症の発現との関係を記述した論文のシステマティックレビューである。
ショートインプラント(SI)、あるいはエキストラショートインプラント(ESI)は、顎骨の吸収が大きく、上顎では洞底が近い症例、下顎では下顎管が近い症例に適用される。
このような症例では対合歯列までの距離が長いために、インプラントが短いだけでなく、C/I比が大きくなるという負の因子が加わる。
本研究ではC/I比1.5で区切り、C/I比が1.5を超える場合とそれ以下の場合とで残存率などを比較した。
その結果、歯冠長が大きいとESIの残存率が低下し、インプラント周囲辺縁骨の吸収が増大するという証拠はないとの結論であった。
通常、ESIは単独埋入を避け、他のESIあるいは長いインプラントと連結することが原則とされる。
本研究では、単独歯欠損と複数歯欠損を交えて研究対象としているため、SIの単独埋入での残存率およびインプラント周囲辺縁骨吸収が、長いインプラントの単独埋入と差がないということではない点を確認したい。
本論文の著者であるRavidaらのもう1編のESIのレビュー論文では、上顎に埋入されたESIの5年での残存率は90.6%とやや低く、一方、下顎では5年で96.2%と高い残存率を示した。
さらに非連結の補綴的合併症の発現頻度は連結されたESIの3.3倍多く、スクリューの緩みは15.2倍多かったと記述している。
またボーンレベルのESIの1年での辺縁骨吸収はティッシュレベルのESIに比べよりおおきな辺縁骨吸収を認めたと記述している。
Penarrocha-Oltraらは吸収が顕著な下顎臼歯部に、1群はブロック骨移植で歯槽部増高を図り通常長さのインプラントを埋入、2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
2群は既存骨に骨内長5.5ミリの複数のESIを埋入した。
その結果、前者の1年後のインプラント成功率は95.5%、残存率は91.%、後者のESIの残存率は97.1%、成功率も97.1%と、1年の短い経過であるが下顎の既存骨に埋入したESIは高い成功率を示した。
これらの研究を総合してESIの臼歯部単独歯欠損への応用は避ける。
やむを得ず適用する場合は、患者に失敗のリスクが高く推奨できないことを説明する。
複数歯欠損であれば、ESIは隣接するインプラントと連結する。
またインプラント体の中心軸から離れた咬合面の部位での咬合接触をさける、グループファンクションにするなどの上部構造への配慮が必要である。
(参考文献)
Ravida A, Barootchi S, Alkanderi A, Tavelli L, Suarez-Lopez Del Amo F. The effect of crown-to implant ratio on the clinical outcomes of dental implants: a systematic review . Int J Oral Maxillofac Implants 2019; 34(5) : 1121-1131.
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ショートインプラントの治療予後については有意差のあるレベルで結果が悪いというデータはこれまであまりなかったように感じます。
今回の報告により、ショートインプラントあるいはエキストラショートインプラントを特に上顎に単独で使用することは避けるべきであることが明らかになりました。
インプラント破折の原因は、材料の金属疲労と辺縁骨の吸収である。
・Morganらは、インプラント破折の原因は過荷重ではなく、材料の金属疲労と辺縁骨の吸収であると、Choeらは材料の腐食疲労破壊であると記述している。
Chrcanovicの研究は踏み込んだ原因の分析を行っている。
すなわち、一般化推定方程式モデルを用いて以下の5つの因子がインプラントの破折に対し統計学的に有意な影響を持つ。
:すなわち、
1. グレード3および4のチタン製インプラントはグレード1の機械加工インプラントに比べ破折の確率は72.9%低く、
2. ブラキサーは非ブラキサーに比べ破折の確率は1819.5%高く、
3. カンチレバーと隣接しているインプラントはカンチレバーから離れている、あるいはカンチレバーがないインプラントに比べ247.6%増大し、
4. インプラントの直系の1ミリの増大は破折の確率を96.9%減少させ、
5. 長さの1ミリの増大は22.3%増大させる、としている。
(参考文献)
Chrcanovic BR, Kisch J, Albreksson T, Wennerberg A. Factors influencing the fracture of dental implants. Clin Implant Dent Relat Res 2018 ; 20(1) : 58-67.
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インプラントの破折は、私は経験がありませんが、無茶な設計のインプラント治療を引き受けていないことが関係しているかもしれません。
ジルコニアアバットメントは、現在ほとんど使用されていない。
・以前、インプラント修復のアバットメントにジルコニアが使われていた。
これはジルコニアの機械的性質が優れていたために、歯科分野における新たな材料として期待されたためである。
しかし、ジルコニアアバットメントは数年もせずに破折し、またその硬い物性のためインプラント内部を損傷するとし、今ではほとんど使用されなくなった。
ジルコニアは硬い性質を有するものの、インプラント修復にはチタン製のアバットメントが破壊荷重の点から第一選択となる。
(参考文献)
Leutert CR, et al. Bending moments and types of failure of zirconia and titanium abutments with internal implant-abutment connections : a laboratory study. Int J Oral Maxillofac Implants. 2012 ; 27(3) : 505-512.
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個人的には様子見をしていたインプラントのジルコニアアバットメントですが、今ではほとんど使用されていないようです。
やはりジルコニアについても、『最新は必ずしも最善とは限らない』ということになりますね。
インプラントの傾斜角度がカラー部のひずみに及ぼす影響
・インプラントの傾斜角度がカラー部のひずみに及ぼす影響
本研究はJIS2種純チタンの加工硬化材、JIS4種純チタン、Ti-6A1-4V合金を用い、それぞれ2ピース型のインプラントを製作した。
このインプラントのカラー部にひずみゲージを張り付け、角度10度、20度と30度に傾斜させ荷重を負荷し、それぞれのひずみの測定および最大曲げ荷重の測定とCTによる内部観察を行った。
その結果以下の結論が得られた。
各インプラントのそれぞれの傾斜角度での最大の曲げ荷重はG5G5が最も大きく、次いでG4G4、そしてGWGWの順であった。
インプラントカラー部のひずみは負荷する荷重とともに増加したが傾斜角度10度と20度において各インプラント間のひずみには有意差が認められなかった。
傾斜角度が30度における荷重400N以上のカラー部のひずみはGWGWがG4G4およびG5G5よりも大きい結果であった。
曲げ試験後、CTによる試験片の内部観察においてアバットメントのねじの破折はテーパー太ねじの境界部で生じており、破折していない場合はアバットメントが塑性変形し、ところどころに亀裂が観察された。
傾斜角度20度以上で植立する場合は、カラー部の強度が大きいインプラントを選択することが示唆された。
(参考文献)
岩田雅裕, 松田健男, 臼井龍一, 秋本清, 河野恭範, 植木晋, 村上智, 伊藤充雄. インプラントの傾斜角度がカラー部のひずみに及ぼす影響. 日本口腔インプラント学会誌. 2018. No.4 Vol.31 12. 64-73.
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傾斜埋入を前提とするオールオン4では、メーカーが最大40度までアバットメントを傾斜させることが可能と謳っていることを以前聞いたことがあります。
しかしながら、今回の研究報告をもとに考えると、インプラントの傾斜角度は20度以内に抑えた設計にする方が無難であると考えられます。
ジルコニアはエナメル質の3倍以上の硬度。
・エナメル質の硬度は、ちょうどハイブリッドレジンとポーセレンの中間に位置します。
そしてジルコニアはエナメル質の3倍以上の硬度を有します。
Dr中込自身は、口腔内の、特に外装材としてジルコニア(つまりはフルジルコニア)を使用することには完全に否定的な見解を抱いています。
その理由は当たり目のように「硬すぎる」ということです。エナメル質の3倍以上の硬さでは、対合歯の摩耗はもちろんのこと、天然歯であればエナメル質の割れ、また歯根破折の危険性等、多くのマイナスの反応が出ることが容易に予測できます。
(補綴臨床 2018年3月号 )
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私も硬すぎるフルジルコニアをインプラントの上部構造に選択することは、今のところ考えていません。
咬合力は上下に同じだけかかるわけですから、フルジルコニアの対合が天然歯であれば、歯冠破折、歯根破折、垂直性骨吸収などのトラブルが惹起されるものと推測されます。
一方、上部構造にフルジルコニアを選択した場合のインプラントは、上部構造が破壊されないだけに、歯槽骨吸収やリテインニングスクリューの破折、インプラント体の破折等の問題を惹起します。
また硬すぎるということは、それ自身の咬耗がほぼないだけでなく、咬合調整が非常にやりにくいことも意味します。
生体は常に変化しています。
定期的な咬合調整を行うことで、特定のインプラントや天然歯に過大な咬合力が集中することを可及的に回避することが重要であると考えています。
審美領域における光学印象は難易度の高い術式である。
・光学印象を直接法で用いる場合、作業模型がないので、得られたデータをもとに光造形モデルを起こして上部構造を製作しようとする試みがなされているが、まだまだ適合精度に問題がある。
間接法で行う場合は、ロボキャスト技術を用い、ラボアナログ付きの模型を製作することも可能であるが、粘膜貫通部の再現性が乏しい。
そして、何よりの欠点はデジタルコーディッドアバットメントの形態にある。
前歯部等の審美領域においてはティッシュスカルプティングを必要とするが、アバットメントの形態が円柱状であるために、スカルプティングを行うと、粘膜貫通部の上皮が破壊されやすく、アバットメントの着脱を最小限にすることと相反するため、ジレンマに陥ってしまう。
以上の点を考慮すると、いまだ審美領域における光学印象は難易度の高い術式であると考えられる。
アバットメント着脱を最小限にすることと、審美性を獲得するために、ティッシュスカルプティングを行いながら、審美的な補綴装置を製作する手法とは相反している。
また審美的な理由でジルコニアアバットメントを必要とする場合も多いが、強度を考慮すると適応症例は少なくなる。
一方、CAD/CAMアバットメントの利点としては、スクリューリテインの補綴装置を製作する場合、メーカーによっては鋳造のものと比べてアクセスホールを最小限にすることができるため、強度を上げることができる。
予めガイドサージェリーを用い、臼歯部においては咬合面の中央に、前歯部においては基底結節と切縁の中央に位置させることで、強度を保ちながらスクリューリテインの補綴装置を製作することが可能となる。
つまり、現時点ではデジタルデータのみでインプラント上部構造を製作することは難易度が高く、特に軟組織のマネジメントを考え、強度を有する上部構造を製作することは難しい。
(The Fabric of the Modern Implantology )
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最先端治療のCAD/CAMによるインプラント治療ですが、デジタルデータのみで臨床応用するには、現時点では困難であるようです。
今後に期待したいですね。
チタンとジルコニアアバットメントにおける破壊抵抗
チタンとジルコニアアバットメントにおける破壊抵抗
in vitroにおいて、アバットメント破壊までの繰り返し回数の平均値は、チタンはジルコニアと比較して3倍の値を示し、平均荷重値ではチタンはジルコニアの2倍の値であった。
試料は、荷重により破壊を生じたと考えられる。
ジルコニアアバットメントを用いる際は、レギュラーサイズの単独埴立インプラントにおいて、付与すべき咬合力は低く設定されるべきであることが示唆された。
(参考文献)
Foong JK, Judge RB, Palamara JE, Swain MV. Fracture resistance of titanium and zirconia abutment : an in vitro study, J Prosthet Dent 2013 ; 109(5) : 304-312.
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審美領域のインプラント治療では、チタンアバットメントを用いた場合、金属の露出や粘膜から金属色の透過が起こる可能性があり、ジルコニアアバットメントが注目されるようになりました。
審美領域のインプラント治療では、チタンアバットメントを用いた場合、金属の露出や粘膜から金属色の透過が起こる可能性があり、ジルコニアアバットメントが注目されるようになりました。
ジルコニアは当初"ホワイトメタル"と呼ばれ、審美的で強度的にも満足のいくマテリアルということで華々しくデビューした印象がありました。
それでも、数年後ジルコニアが破折するケースが相次ぐ結果となり、今回紹介した文献でも、in vitroの研究ではありますが、チタンと比較して、脆弱であることが明らかになりました。
なお、データによると、ジルコニアアバットとチタンアバットで破壊されている部位が異なり、チタンでは、インプラントとアバットを止めるスクリューに関するトラブルやインプラント体の変形が特徴であるのに対して、ジルコニアでは、アバットメント自体の破壊が特徴的でした。
『新しいものが常に良い』とは限らないので、新商品を治療に使用する際には、細心の注意が必要だと今更ながらに感じました。