60%もの義歯が装着後5年で使用されなくなる。

1970年代前後に、東京医科歯科大学歯学部部分床義歯補綴学分野で、5年間、2000症例程度のクラスプ義歯装着患者への大規模な経過観察・予後調査が行われた。

この調査から、『60%もの義歯が装着後5年で使用されなくなる』ことが明らかになった。
これを解析すると、使用中止に至る原因として以下の3大要因があることが示された。
1.義歯部(有床部・支台装置)の不適合 (24.4%)
2.齲蝕・歯周病による支台歯の喪失 (22.5%)
3.義歯の破損 (29.3%)
・義歯不使用の3大要因を招いていた主な原因
原因1:義歯設計の概念として、当時は「緩圧性」の義歯の動揺を許容する設計の在り方が"良し"とされていた。
原因2:プラークコントロールという概念が歯科補綴領域で希薄であった。
原因3:使用材料とその複合化(金属構造とレジン構造の最適使用)が十分でなかった。
・パーシャルデンチャー治療における設計の3原則
原則1:「義歯の動揺」の最小化→動かない
原則2:予防歯科学的な配慮→汚さない
原則3:破損への対応→壊れない
(パーシャルデンチャー成功のための設計3原則 より)
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1970年代のデータとはいえ、『60%もの義歯が装着後5年で使用されなくなる。』というのは、歯科医師としてはショッキングな内容です。
保険診療で多用されるものに、レジン床義歯、クラスプがあります。
レジン床義歯は咬合力が伝わった際にたわむので、歯牙を揺さぶりやすく、それゆえ寿命を短くします。
また、クラスプ(レジン床義歯を動かないように止める金属の金具)、特に二腕鉤タイプのものは、歯牙を欠損方向に倒す力がかかるので、設計を良く考えないと、同じく歯牙寿命を短くします。
歯牙に対して優しい設計にするには、全体がたわみが少なく、歯牙が傾斜する力がかからない維持装置が必要となります。
また、さらに追加するなら、異物感が少なく、清掃性の優れた義歯設計が重要であることは言うまでもありません。
こうして考えると、歯牙に優しい義歯はレジン床義歯ではなく、金属床義歯の方が良いようにも思いますが、この本の中に次のような記載があり、同じく個人的には愕然としました。
(義歯の不使用率に関してはレジン床義歯と金属床義歯の差異も示され、約10%程度金属床義歯の方が良い成績であった。)
自由診療である金属床義歯でも、たった10%しか義歯の使用率が上がらないことが分かったからです。
メンテナンスが定着した現代ではもう少し数字が改善されるとは思いますが、"使用率"(10年間で95%前後)という側面で考えても、義歯よりインプラントに軍配が上がると言えそうです。

2015年5月10日

hori (17:27)

カテゴリ:入れ歯の悩み

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