歯周病が悪化すると、口がネバネバするのにも意味があった。
・歯周病研究において、ラット大臼歯に糸を結紮する歯周炎に関する動物実験の結果から、歯周炎の誘発は唾液腺細胞にアポトーシスを引き起こし、唾液分泌能を低下させるというものであった。
つまり、疫学調査において報告されている歯周病患者の唾液分泌能はもともと低かったわけではなく、歯周病発症により低下した可能性が出てきたのである。
九州歯科大学 健康増進学講座 生理学分野の研究では、歯周病モデルラットは耳下腺腺房細胞レベルの受容体、細胞内情報伝達、水輸送分子発現に何ら異常を認めなかったため、腺房細胞の減少が唾液唾液分泌能低下の主な原因であると結論づけた。
興味深いことに、結紮糸を撤去して歯肉炎症の消失を待ったところ(歯槽骨吸収は残る)、唾液腺体積と唾液分泌能は対照群と同程度まで回復した。
つまり、歯周炎発症による唾液分泌能の低下は可逆性であった。
ということは、歯周疾患者で明らかな唾液現象を認めた場合でも、適切な治療により歯肉の炎症を抑えれば、患者の唾液を正常な状態まで戻すことが可能であるかもしれない。
唾液腺は水分泌とタンパク分泌量が少ないとむしろ唾液中の保護成分の濃度を上げることになる。
前出の日本での高齢者歯周病患者での調査では、唾液の分泌能低下に加えて、曳糸性が報告されている。
この性質は唾液中のムチン濃度に依存しているので、歯周病患者の唾液ムチン濃度は高いようである。
また、歯周病患者の唾液中免疫グロブリンAの濃度が高いことから、歯肉炎による唾液分泌能の低下は、むしろ唾液中の保護成分の濃度を上げるための歯肉炎防御反応といえるかもしれない。
唾液分泌能の低下が可逆的であったことは、病理的というよりは生理的な変化であることを示唆している。
シェーグレン症候群や放射線治療を受けた患者並びに唾液腺摘出ラットでは、唾液が過度に分泌されなくなるために唾液の口腔保護作用まで失われるが、歯周炎による唾液分泌能の低下はそこまで深刻ではない。
(日本歯科評論 2015年2月号 )
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まとめると、歯周病の状態が悪化すると、
1.唾液分泌量が減少する。
2.唾液が減少すると、歯肉の保護成分の濃度を高める。
3.歯肉の保護成分は、それ自体がネバネバする成分なので、お口がネバネバする。
一方、また、歯周病発症による唾液分泌能の低下は可逆性であったということですから、歯周病の状態が改善すると、
1.唾液分泌量が増加する。
2.唾液が豊富にあるので、ネバネバした歯肉の保護成分の濃度を減少させる。
3、その結果、お口がサラサラした状態になる。
こうして考えると、口臭でお悩みの方は、口がネバネバすると仰る方が多いのですが、ネバネバするのにも"きちんとした意味"が
あるということが今回の文献で分かりました。
また、唾液が少なくてネバネバした状態が増長しているのであれば、唾液分泌が増大するようにすればよいということになります。
具体的には、歯周病の歯があるのなら歯周病治療を受け、インプラントがあるのならメンテナンスをしっかり受けて、歯肉の状態を改善すれば、自然と口臭の悩みも払しょくすることができるということになりますね。